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第29話 レム家長女・ケイトVSカシャ

――ショッピングセンター中央広場――


 広場の中央でネコの妖魔『カシャ』とケイトがにらみ合っている。


「そう言えばアリス、どうしてこっちの世界に?」


 疑問を口にするとアリスは頭の後ろで手を組み応える。


「えーとね、急にボクたちの前にイシダ・シラベが来てリリィ姉がピンチかもって教えてくれたの。それで、こっちの世界へ渡る為に神様に引き合わせてくれたんだ。クサビって神様。いやぁ、神様に出会えるなんてボクびっくりだよ」


 ああ、なるほど。

 概ね私と同じルートで来たわけか。


「僕は丁度ケイト君に謝罪するためにレム屋敷を訪れていてね。君の危機を知りはせ参じたわけさ」


「はせ参じなくて良かったのに……って待って。ユリウス、あんたまさかその恰好で……」


 うむ、とユリウスが頷く。

 ご近所から変態が出入りする家って噂されたらどうするのよ……


「まあ、格好が意味不明だけど反省してるってのは伝わったからね。ケイト姉もビンタ10発で許してたよ。だからボク達もこれ以上そのことに関しては追及しない事にした」


「ビンタって……往復?」


「うん、往復」


「そっか……」


 私もしたかったな。

 まあ、ケイトの中で解決したというならいいか。

 ケイトにとっては苦い失恋だと思う。

 まあ、これだけ変態だと未練も無いか。


「ユリウス、あんたさ。普通についてきているけどあっちの世界に戻れなくなるかもって思わなかったの?」


「可能性はあるね。それでも君の危機と聞いていてもたってもいられなくてね。気が付いたらこうやってこっちの世界に来ていたよ」


「……そう。バカなのね」


「ああ、その通りだね」

 

 何よ、ユリウスの癖に。

 しかもこうやって普通に話が出来ているなんて何か腹立つ。


「あのさ、リムは?」


 この場に居ない末妹の名を出すとアリスは肩をすくめる。


「流石にリムはあっちに置いて来たよ。『私もお姉さまを助けに行く』ってごねていたけどあの子まだ9歳だしね。それこそみんなで居なくなったら更なる大騒ぎになるし留守番頼んだんだ」


 なるほどね。

 確かに全員いなくなればそれこそ真の大ごと。

 ただ……何となくだがリムから事の顛末を聞いたアンママ辺りがあっちの世界で激怒している光景が容易に想像できてそれはそれで怖い気がする。

 帰ったら久々にお尻を叩かれる事は覚悟しておこう。


「リリちゃん、ケイトちゃんだけど大丈夫なの?」


 お祖母様が妖魔と対峙しているケイトを心配そうに見ている。


「大丈夫よ。ケイトは強いから心配ない」


 そう、ケイトならば問題ない。

 何せケイトの母親であるアンママことレム・アンジェリーナはナダ共和国に於いて……否、世界的にみて最強クラスの大魔導士だ。

 ケイトにも当然その膨大な魔力と才能は引き継がれている。


「ギニャニャ、お前が私の相手をねぇ。いいだろう、私の名はカシャ!死者の魂を喰らい炎を纏う化け物さ!!」


 カシャが咆哮を上げるとその身体が炎に包まれた。


「ギニャニャ、どうする?私相手に接近戦は出来ないよぉ?」


「あー、これは相性が悪いわね……」


 私はため息を漏らしながらその辺のベンチによっこらしょと腰を落ち着ける。


「おい、吞気に座っていていいのか?接近戦が出来ないというのは流石に……」


「違うわ、タツル。ケイトのクラスははマジックウォーリアー。彼女は魔法のエキスパートだから実際のところ、距離というのはあまり関係が無い」


「そうか、それなら水魔法とかであいつの炎を消したり……」


「あー、それなんだけどね……」


 まあ、炎を纏う相手なら水属性が有効というのはよくわかる理論だけれどケイトは……


「棘魔法!棘球(エスピリア)!!」


 ケイトの両腕からトケトゲした球体状のエネルギーが放たれる。

 カシャは飛び上がり回避、炎の矢を飛ばして来る。


黒曜壁(デシルト)!!」


 ケイトは障壁系魔法で炎を防ぎつつその障壁を担いで突撃しカシャに障壁を叩きつけた。


「どういう事だ?なぜおまえの姉さんは水属性で攻撃しない?」


「攻撃しないんじゃなくて出来ないのよ。ケイトはね、火・水・土・風・光・闇という一般的な魔法属性全てが適性Xなのよ」


「はぁ!?な、何だって!!」


 ケイトは昔から高い魔力を持っていたがどういうわけか火の魔法とか水の魔法とかそういった基本属性の魔法を全く使うことが出来ず暴発させていた。

 不思議に思い調べてもらった所、基本属性のすべてに対し適性がXだったのだ。

 

 父様は武器適性がオールXだがどうやらそれの魔法版らしい。

 まさか自分の悪い所が遺伝してしまうとは、と父様は落ち込んだ。

 だが気づく。基本属性は使えないが何かサブ属性はすぐに使いこなしている気がする。

 そう、ケイトの特性はそういう事だったのだ。

 基本の属性が使えない代わりに多彩なサブ属性を使いこなすことが出来る。


「ギニャヤ!妙な真似をして!舐めているんじゃあないよ!!」


 カシャは身体を丸め車輪状に変化するとケイトにタックル。

 変化を解きその両脚をケイトの身体に絡める。


「っ……!!」


 ケイトが苦悶の表情を浮かべる。


「ケイトちゃん!!」


 お祖母様が息を呑む。

 うーん、あの程度ならそんなに心配しなくてもいいのだけれど……


「おい、組み付かれたぞ!あれってヤバくないか?」


「……火属性耐性は持っているから問題ないわ。むしろケイトに接近すること自体大きな間違いなの。悪手も甚だしい」


「ギニャニャ!いい顔するじゃないかいお嬢ちゃん!どうだい、身を焼かれる気分って言うのはさぁ」


「こんな程度の炎で…………レム家の長姉を舐めるんじゃあないわよっ!!!」


 ケイトはカシャの脚を掴むと無理やりロックをこじ開けつつ身体を回転させジャイアントスイングで振り回すと空中へと投げ飛ばす。


黒曜壁(デシルト)―――ッ!!」


 無数の大小さまざまな障壁を作るとケイトはそれをカシャ目掛け投げつける。

 障壁がカシャの四方八方を取り囲み閉じ込める。


「な、何を……」


 するとカシャの身体に纏わりついていた火が消える。


「どの様な原理であろうと火の発生には酸素が必要。密閉された空間で酸素はすぐに枯渇する。そうすればあんたの火はもう使えないってわけよ!!」


「ふざけるなぁぁ!こんな、こんなもの!壊して外へ出てしまえばいいだけのことで!!」


 カシャはめちゃくちゃに身体を動かし衝撃で作られた檻を破壊する。

 その瞬間、ケイトは空中でカシャに組み付き右腕を後ろに回しホールド。

 左腕を相手の左ももの下を通して掴むとそのまま勢いをつけてスープレックスで背後へと投げる。

 

「デッドエンドスー――プレックス!!!」


 カシャの頭が叩きつけらようとする地面から障壁がせり出しそこへ思いっきり叩きつけられる。

 びくんと体が大きく跳ね、カシャが倒れ込んだ。

 つまりは決着したという事だ。


「ほらね、接近したら終わったでしょ?」


「いや、今お前、相性が悪い相手だって……」


 ああ、それか……説明が不足していたわね。


「あんな能力に頼り切っている様な奴じゃ使える属性で研鑽を重ね続けるケイトとは相性が悪いって意味よ……」


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