第28話 異世界からの5本槍
「リリちゃん……」
「どうだったお祖母様、私の悪役令嬢っぷりは?」
自分で言うのも変な話だが中々すっきりした。
時にはこういう役回りもいいかもしれない。
「えーと、何かが間違っている気がするけど……まあ、リリちゃんがいいならいいか。似合っていたわ。でも、その、ごめんなさい。私のせいであなたにも嫌な思いをさせてしまったわ……」
「お祖母様、過去はどうであれ今こうして私がここにいるのもまたお祖母様のおかげよ。私だけじゃない、私の家族が幸せに暮らしている理由は元をたどればお祖母様が父様を産んでくれたから。だから、ね?」
「ありがとう、リリちゃん……」
「安心するのはまだ早いぞーーー!!」
頭上から声がする。
見上げると建物の屋根にネコ型の妖魔、そしてフードで姿を隠す4人が居た。
ネコ型の妖魔が叫ぶ。
「我らの粛清はまだ終わらないーっ!今度は私達が相手になってやる!!」
新たに5人の敵……
ちょっといくら何でもこんなのハードすぎやしない?
「大丈夫か、リリィ!弥生さん!!」
広場に鉄の馬、バイクでタツルが乗り付けてきた。
「タツル!」
これで2対5か……それでもこの戦力差を埋めるのは辛いものがある。
ならば……
「タツル、その轍の馬でお祖母様連れて逃げて欲しいんだけど」
「だがそれだとお前が……」
「ダメよ、孫を置いて逃げるなんて出来るわけがない」
あー、そうよね。
お祖母様ならそう言うわよね。
さぁて、どうしたものか……
「ちょっと待ちなさい!!」
「!?」
今、聞き覚えのある声がした気が……
見れば人気が無くなった施設内でこちらに歩いてくる5人の集団があった。
「異世界っていうのも随分と物騒な世ね。あんな怪物、あっちにも居ないわよ」
「ウソでしょ……」
そう言ったのは5分違いで生まれた姉、ケイトだ。
「うぇー、何か怖い顔だよねー。ボク、ネコは結構好きだけどあーいうのはちょっとゴメンだね。あっ、あそこの店のお菓子美味しそう」
刀を背負っているのは……アリスだ。
10分違いで生まれた妹。
「ふふっ、腕がなるじゃない。異世界の強者とお手合わせ願わないと!!」
手をパキパ鳴らしながら歩いてくるのは4歳年下のメール。
「ここがリリィ君のルーツか。言っっては悪いが随分と埃臭い世界だね」
何かパンチ一丁というほぼ全裸に近い恰好をした男がいるけど……あれってユリウスよね!?
ケイトの事をバカにして私にドラゴンスープレックスされたあのユリウスよね!?
いや、あれってもう……変態じゃない。
「じゃああんたは帰れよ……ふふっ、それにしてもうずくぞ。俺の右手が戦いを求めてうずいているぞ!!」
えーと痛々しさが全開なのは……弟のホムラ、よね?
あっちの世界に居るはずの人達が私の前に立つ。
「みんな……何で……」
「何が……『何で』よこの馬鹿リリィっ!!」
ケイトが私を怒鳴りつける。
「ちゃんと言ってくれればあたしだって話聞いたのに……どれだけ心配したと思っているのよ!!」
「な、何よ……」
「あたし舞い上がってて全然気が付かなかったのよ、ユリウスのクズっぷりに……あんたはあたしの為に怒ってくれたっていうのに、それなのに……もう会えないかって……謝る事すらできないかもとか思っちゃったじゃない……」
ケイトが涙をこらえながら言葉を紡ぐ。
「……ごめん。色々あって……」
「まったく、リリィ姉が家出してからみんなで必死に探し回ったんだよ?お父さんなんか猟団を総動員してたしお母さん達もみんな仕事を休んだりしてギルドに依頼出しまくってさ」
アリスが肩をすくめる。
父様達がそんな必死に探していてくれたなんて……後で凄く怒られそう。
「ごめん……あの、ところで何か私が家出する原因になった男もそこに居るんだけど……ていうか何か変な格好しているのは気のせいかしら?」
私が目をやると全裸に近い変態ユリウスがウインクしてくる。
ケイトが小さくため息をつき。
「えーとね、リリィ。それなんだけど……あれ……あげる」
「はぁ!?あげるって何!?いらないわよ!意味わかんないわよ!ていうか何でこいつこんな格好で、え、え?」
理解が完全に追いついていない。
それくらいこの全裸は異質だった。
だってこれ、ユリウスよね?
私が投げ飛ばしてケガさせたクズ男のユリウスよね?
「ふふっ、この格好について君は驚いているのだね。そう、見惚れるほどカッコいいと」
「あんた、脳みそ腐ってるの?」
あら、いけない。
思わず本音が口をついて出てしまった。
「何かさ、ボクもよくわからないけどこいつ、リリィ姉に惚れちゃったみたいなんだよね」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
ちょっと何、惚れた?
それってこいつが私のこと好きになったってこと?
「あのねぇ、私が男ダメだってわかってるでしょ!?しかもこんな格好……」
「その割には割と普通ね……あんたの事だから悲鳴上げて泣き出すと思ったのに」
意外だという目でケイトが私を見る。
おい、泣くと思ったのなら連れて来ないでよ。
まあ、確かに何というか以前に比べればマシになった気はする。
多分以前は呪いのデメリットで男性への恐怖が増幅されていたのだろう。
「まあ、そうなればボクもこいつ斬れたんだけどね」
それなら連れて来る前に斬り捨てて欲しかった。
するとユリウスは変態じみた姿のままその場に膝をつくと。
「リリィ君、本当に済まなかった!」
地面に頭をこすりつけて謝罪を始めた。
こ、これは『DOGEZA』というムーブ!
「僕は本当に思いあがった愚かな男だった。君の気高き精神、ケイト君の為に怒った素晴らしき行いに僕は目が覚めたんだ。恥知らずだと思う。だが聞いてくれ、僕は君を好いてしまった様なんだ」
「あんた……」
うわっ、超あり得ないんですけど……
ほぼ全裸という姿もそうだしケイトを弄ぼうとしたうえで私にモーションをかける精神もあり得ない。
しかも男の方から告白とか……ナダ男子としてそれはどうなのよ!!
「リリちゃんが変態を土下座させてる……」
お祖母様の顔が青い。
そうよね。そうなるよね?
「ていうかあんた、何故その恰好なのよ!?」
するとユリウスは立ち上がりおもむろに腰に手を当てポーズを取る。
「はっははは、これはモンティエロ家の男子にとってここ一番の時に行う正装だからね」
頭が痛くなってきた。
何が正装よ。意味が分からない。
「ユリウス、それくらいにしてくれないか?姉さんが困っている。そもそも貴様は姉さんに相応しくない!僕は絶対に認めないからな」
ホマレがユリウスを睨みつけていた。
そうね、流石は男の子。
「姉さんに相応しいのは僕だ!僕が姉さんの夫になると決まっているからな」
「あんたでもない!てかキョウダイだから結婚とか無理だから!!」
忘れていた。
こういう子だったわ。
小さい頃はよく『お姉ちゃんと結婚する~』とか言っていたが本気だったらしくて今もそれが続いていた。
「姉ちゃんモテモテだねぇ……」
「メール……あんた他人事と思って楽しそうにして……」
「えへへ。ていうか姉ちゃんさ、さっきから気になってたけどこの男の人とおばあさんは誰?」
メールはタツルとお祖母様に興味津々な様子だ。
「そっちの男はタツルっていって一応私の相棒よ」
「え、姉ちゃんの彼氏?」
「何だって?おい、君!年上とは言え負けるわけにはいかないぞ。リリィ君をかけて勝負を」
「止めなさいバカユリウス!あんたと結婚する気なんかないし、タツルは相棒!わかる?あ・い・ぼ・う!!」
もう最悪。
ユリウスがこんな奴だとは思わなかったわ。違う意味で……
「それで、リリィ。こちらの方は……」
ケイトの質問に私は頷き。
「そそ、そうだ。みんなに紹介しないと……この人は父様のお母さん、つまり私達のお祖母様よ」
その言葉にキョウダイ全員が反応した。
「この人がボク達のおばあちゃん?」
アリスが目を白黒させ……
「マジで?ライラおばあちゃん以外にもおばあちゃんいたんだ!凄い凄い!!」
メールがはしゃぐ。
「えっと……お初にお目にかかります。私はリリィの姉のケイトリンです」
「あなたが、ケイトちゃんね……リリちゃんがよく話題にしていたわ。それにアリスちゃん、メールちゃん……そして……」
お祖母様はホマレの前に立ち見上げた。
ホマレは11歳だが背が急激に伸び170cmもある。
「あなたがホマレね……本当に良哉に似ている……あの子そっくりだわ。とっても男前」
「えっと……ありがとうございます」
流石のバカユリウスもこの場には入ろうとはしてこない。
まあ、こいつは家族じゃあないしね。
「ふふっ、僕は空気が読める男だからね。割って入っていく程無粋では無いよ?」
「なら服を着なさいよ変態……」
すると今まで待っていたネコ型妖魔がしびれを切らしたのか叫び、こちら目掛け飛びかかって来た。
「やれやれ、お涙頂戴のくさい小芝居は……それで終わりかぁー!!」
それをケイトがドロップキックで迎撃する。
「ギニャァァ!!」
地面に落ちたネコ型妖魔にケイトが叫ぶ。
「あんたねぇ!空気ってものを読みなさいよ。いいわ、そんなに戦いたいならまずは私が、レム家長女、レム・ケイトリンが相手になってやるわ!!」
我ながら男性恐怖症の妹に変態を『あげる』っていうケイトちょっとひどくね、と突っ込んでしまいした。




