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第26話 百鬼夜行の妖魔

──とあるアパートの一室──


「くそっ!何でだよ!!」


 男が叫んでいた。

 彼は動画配信者であった。

 動画配信で成功している人達を見てこれなら自分にだってできるはずだと考えた。

 この道で成功すると決め、勤めていた会社を辞めた。

 企画を練り、これなら一流にも届くはずと思って始めた配信だが思う様に再生数も伸びない。


 そうこうしている内に年齢もそこそこの年齢になってしまい再就職するにもスキルが無いので正社員などは難しかった。

 友人が介護施設の仕事を紹介してくれたがそれもすぐ辞めた。

 自分にはふさわしい仕事ではない、そう思っていたからだ。


 両親からは「いつまでそんな夢ばかり見ているんだ」と小言を言われている。

 いつまで、いつまで……


「世間が悪いんだよ。俺みたいな出る杭は打たれてしまう!」


「その通りですよ」


 背後で声がして振り向くとモノクルをかけた男、カイが立っていた。


「あなたに相応しい生き方があります」


 そう言うとカイは配信者の身体に黒い歯車を埋め込んだ。

 配信者の姿が鬼の様な貌を持ち肩が巨大な翼になった怪物へと変化する。


「あなたは今日からイツマデと名乗りなさい」


「ゲギャギャギャ……」



 更に別の場所。

 ブランド品であふれかえるマンションの一室で肩を落とし座り込む女性の背後にカイが現れる。


「満たされないその欲望、私の役に立ててもらいましょう」


 カイが黒い歯車を挿入する。

 女の姿が炎を纏うネコの怪物へと変化していく。


「今日からあなたはカシャです」


「ギニャァゴ!!!」


□□


 ここはかつてナイトクラブであった廃墟。

 かつての賑やかさ、輝かしさは何処に行ったか。

 積み重ねられたテーブルや椅子。

 そこに6つの影があった。

 イツマデ、カシャ、あとはローブで姿を隠す4体。

 それぞれがテーブルや椅子に腰かけていた。


「結構集めたね、カイ」


 ホールの2階からその様子を見ている女性があった。

 彼女は笹平小夏といい、イシダに身体を乗っ取られている状態だ。

 その隣にはカイと名乗る男性の姿があった。


「ええ、この現代社会には満たされない思いと闇を抱えた者が多くいますからね。あなたの後継者としてこれくらいのことはしてみせますよ」


「後継者……ね」


「私の身体には半分、あなたの血が流れているのですから当然でしょう」


「ふーん……まあ、確かに若い時に子どもを産んだ覚えはあるけど、ねぇ」


「ふふっ、あなたに最高のショーをお見せします。そうすればあなたも私との血の繋がりを認めてくださることでしょう」


 言うとカイは意気揚々と階下へと降りていく。


「息子、ねぇ……」


 小さく呟くとイシダはそっとその場を離れた。


□□□


◇リリィ視点


とあるビルの屋上。

私はタツルと共にこのビルに潜むヨウカイの調査をしていた。

名前はロクロクビ。

古来より首を伸ばす女として伝えられてきたらしい。


「パフォォォン!!」


 その正体はあっちの世界ではエレファスという象と人間が合わさった様な姿のモンスターだった。

 伸びていたのは首ではなく、鼻というわけだ。


「リリィ、例の奴頼むぞ!!」


獣纏(じゅうてん)!獅子の鎧!!」


 獅子型モンスターの力を宿した鎧を纏いタツルと力をシェアする。

 ロクロクビが勢いよく槍の様に鼻を伸ばして来る。

 私達はそれを左右に避け……


「デネボラインパクト!」


「レオンクロー!」


 私は脚に装備した斧上の刃による蹴りを。

 タツルは私が錬成した爪型の武器による斬撃を。

 それぞれ左右から仕掛けヨウカイの鼻をズタズタにする。

 更に私は飛び上がると斧を分解し槍に再錬成。

 ロクロクビの本体である頭部に自由落下で槍を突き立てる。


「パフォラァァァッ!!」


 断末魔を上げロクロクビが倒れ込む。


「おっしゃ!ロクロクビ討伐完了!」


□□□□


 後始末はタツル達が引き受けるという事で私は一緒に来ていたお祖母様に合流することにした。

 場所は商店が多く入っている商業施設。

 大きな風車が立っておりこれは観覧車というらしい。

 そこのベンチに私達は並んで座っていた。

 私の手にはお祖母様が買ってきてくれた飲み物があった。

どうもこの世界で少し前に若者の間で流行っていたタピオカミルクティーなるものらしいのだが……


 これ、マナナンだ。

 ナダ共和国南部で採れるマクリル芋の粉を団子状にしたものをミルクティーに浮かべた飲み物。

 つまり、これだ。


 滋養強壮に効き、速攻で魔力をある程度回復させるアイテム。

 こんなものが一般の店で売られているとは地球も侮れないわね……


「ふふっ、まさかこうやって孫とお出かけできる日がやってくるなんて思いもしなかったわね」


「うん。私もこっちの世界に来てお祖母様に出会えるだなんて驚いたわ」


 冷静に考えればあまりにも都合がよすぎる辺りイシダ・シラベが何かしら関わっていそうな気はするけど結果としては喜ばしい事である。

 

「それにしてもこの世界は興味深いもので満ちているわ。リズママ辺りが見たらちゃっかり商品化して売り出しそうな……」


「リズママって確か3番目のお母さん、だっけ?」


「ええ、他の母達もそうだけど血は繋がっていなくても大好きな家族。私は何か悩んだ時、よくリズママに相談していたの」


 基本的にはみんな優しい。

 だけど母様にはあんまり弱い自分を見せたくなかったしアンママは何だかんだで芯が無茶苦茶強い人だから相談しづらい。

 リズママは私と同じでコンプレックスだらけの幼少期を送っていたらしいから何となくわかってくれるって気がして男の子にからかわれて嫌だったこととか諸々をよく相談していた。


「それにしても良哉って意外とモテたのね……こっちにいる時はそんな気配は無かったと思うけど……」


「母様は困っている人に手を伸ばす父様の姿勢に惹かれたって言ってた。アンママも初対面なのに困っている自分の為に命を懸けてくれた父様に惚れたらしいし」


「そうなのね……本当、カッコいいわね」


 お祖母様の嬉しそうな顔を見ていると私も嬉しくなってくる。

 だがそんな楽しい時間をぶち壊しに来たものがいた。


「すいません、動画配信をしているものですけどインタビューいいですか?」


 声をかけて来たのは妙な機械をこちらに向ける男だった。

 年齢はタツルよりも一回りくらい上だろうか。

 だらしなくよれた上着を着ており所々に無精ひげまである。

 目は、死んだ魚の様で何だか嫌な印象を受ける。


「えっと……」


「おばあさんとお孫さんかな?可愛らしいお孫さんですね」


「え、ええ……ありがとうございます」


 お祖母様が礼を言うと男はニヤリと口の端を歪める。

 何だろう。凄い嫌悪感がある。


「実はある事件について聞きたいんですよ。今から20年程前に起きた、老人ホーム放火殺戮事件について、ね」


 瞬間。お祖母様の顔がさあっと青ざめたのが分かった。


「老人ホーム……放火……それって……」


 イシダ・シラベが引き起こした惨劇。

 父様がこちらの世界で命を落として転生するきっかけになった事件。


「あの事件、石田調という元職員が起こした事件とされていますが実は共犯がいたのではと噂されているんです。この時に行方不明になり未だに見つかっていないという職員、七枝良哉さんがそうなんですが、母親としてどう思われますか?」


 こいつ、最初からわかっていて近づいてきているということよね?


「あの、そういう事止めてくれませんか?」


 お祖母様の心を抉るような真似は許せない。

 それに父様がイシダの共犯だなんて侮辱にも程がある。


「あくまでそういう説があるって事ですよ。君、七枝良哉の娘さんだよね?やっぱり彼は生きているんじゃないの?ということは、たくさんの老人を助けて炎の中に消えた英雄って彼の人物像が変わって来るよね?世間はどう思うかな?」


「くっ!」


 まさか私の存在を父様をバッシングする材料にしてくるとは……いや、待てよ?



「……私は確かに七枝良哉の娘よ。だけどあなた、『何でそれを知っている』の?」


 冷静に考えればそうなのだ。

 こっちの世界の人間は普通、私と父様の血縁について知るはずがない。


「あー、ちょっとミスったなぁ。まあ、その辺は編集で何とか……あっ、これライブ配信だった……あー」


 よくわからない事を呟いているが今のでわかった事はある。

 こいつは私の存在を知る誰かに唆され悪意を持って近づいてきた輩だ。


「仕方ない。もう少し素材が欲しかったけど……」


 男が懐から黒い歯車を取り出す。


「レギオニウムギア……やはりあいつの関係者!」


 ちょっと待って!

 こいつまさかこの人混みで変身しようとしている!?

 男は歯車の口に含むとごくりと飲み込み……怪物へと姿を変えた。


「ゲギャギャギャ、妖怪と人が融合した存在、それが妖魔。妖魔としての俺の名は『イツマデ』!『百鬼夜行』のひとりだ!!」



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