第1話 レム・ミアガラッハ・リリアーナ
異世界ニルヴァーナ。
地球とは別の次元に存在する異世界である。
世界の名を知る者は少ない。
創造神たる女神とそれに使える神々。
そしてその眷属となった世界の守り手のみである。
地球とニルヴァーナは別々の歴史を歩みながらお互いに干渉する事が無い……わけでもない。
遥か昔から時々ひょんな事から繋がりお互いの世界を行き来して影響し合ってしまう事例が起こっていたのだ。
そして、今日もまた……
――ニルヴァーナ・銀星歴287年 ナダ共和国首都ノウムベリアーノ――
かつてこの地はナダ共和国の首都であったベリアーノ市という名であった。
発展と共に名を新たにノウムベリアーノと改名したこの街にある家族が住んでいた。
□
――ノウムベリアーノ・レム屋敷――
◇リリィ視点◇
「だからね、ユリウスに誘われたのよ。明日デートなのよ!!」
「へー、良かったわね……」
バカみたいにウキウキしてはしゃぐ同い年の姉を冷めた目で見ながら私はベーコンが浮かんだ昼食のスープを口に運ぶ。
私の名はレム・ミアガラッハ・リリアーナ。家族からはリリィと呼ばれている。
はしゃいでいるのがレム・ケイトリン。通称ケイト……私の姉だ。
あと一人、同い年の妹でアリスことレム・アリソンという子がいるが彼女は先に食事を終えトレーニングに出かけておりこの場には居ない。
食後すぐの運動ってどうなのよ。
お腹が痛くなるじゃない。
私達は同い年の姉妹だが三つ子と言うわけでもない。
母親がそれぞれ違い20分ほどの間に時間差で生まれたのだ。
うちには父が1人、母が3人いる。
家長でありケイトの母親であるアンジェラ。
2人目、私を生んでくれたメイシー。
3人目、アリスの母親であるリゼット。
自分の親は普通に母様と呼んでいる。
他の2人はそれぞれアンママ、リズママと呼んでいる。
まあ、この国では一夫多妻は割と普通の事だ。
元々男性が極端に少なくなってしまった事がありその時の名残と子育てを複数の女性が同盟を組みながら行うという風習による価値観だ。
というわけで家族間に不和は無い。
むしろとても賑やかで家族仲は良い方だ。
ちなみに他に私達と数歳違いで弟や妹達が3人いる。
私達はベリアーノ校の生徒。
この国では希望すれば6歳から就学出来る。
グレード1、2,3と分類されており私達はグレード2。
父様によると年齢的にも『中学生』というものらしい。
さて、私の父はこの世界の人間ではない。
『科学』なるものが発展した『異世界』という所の出身らしい。
転移・または転生といった手段で『異世界』から何かしらの方法でこちらに来た人間というのは結構いる。
父は異世界転生というものをした類の人間らしい。
まあ、出自がどうであれ父は素晴らしい人だと思う。
もし結婚するなら私は父様のみたいな男性でないと嫌だ。
ケイトからは『ファザコン』とからかわれるが……かっこいいじゃない、父様。
さて、私達はいわゆる異世界ハーフという事になる。
その影響だろうか、同年代の子ども達とはちょっぴり違う特殊なスキルを持っていたりする。
例えば私の場合『創造錬金術』というものだ。
錬金術自体は他の人でも使えるスキルだったりする……まあ、レアスキルではあるけど……
金属などに魔力を込めて加工することで簡単な武器が作れたり特定の素材を組み合わせポーションなど錬成したりするものだ。
それで、私の特殊性はと言うと……別に素材が無くても魔力を練るだけである程度物が作れる。
ただ、普通の錬金術と違い継続して残る事が無く使い捨てだ。
時間が立つと魔力となって霧散する。
その為、錬成できるものも制限があったりする。
ついでに言うと高性能のものを錬成できるわけではない。
ランクで言えばCランク。いわゆる『平均点』な代物だ。
たとえば今使っているスプーンだがこれは私が魔力で錬成したものだ。
断っておくが我が家にはちゃんとスプーンが存在する。
それなのに私がスプーンを錬成した理由は一つ……洗い物が増えるのが面倒なのだ。
我が家ではある程度の年齢になったら自分が使った食器は自分で洗うというルールがある。
ならば洗い物は少ないに越したことは無い。
それにスプーン程度ならCランクで何ら問題はない。
まあ、母親達が不在である今日だからこそ出来る事だ。
皆でいる時にこれをやれば間違いなく怒られてしまう。
ケイトはその辺は目を瞑ってくれるのでありがたい。
まあ、代わりに面倒くさいのろけ話を聞かされる羽目になったのだが……
さて、ユリウスと言うのはケイトと同じクラスの男の子だ。
お金持ちの家生まれだが私はあんまり好きじゃない。
何というかいけ好かない奴って印象。
ケイトはユリウスの事が好きみたいだがあんな奴の何処がいいんだか……
先ほどもチラッと触れたが私にとって理想の男性は父様だ。
力強く頼りがいのある強い背中。
それに私にひどい事をしたりしない……
「ねぇねぇ、何着て行ったらいいと思う?」
「あのねぇ、私におしゃれについて聞く?いつも何を着ているか見ればわかるでしょ?」
私の日常着は『ジャージー』と呼ばれるものだ。
父様の世界でよく着られている作業着の様なものを母様がアレンジして作り直し、リズママが流通させた。
学校などに普及しており運動の授業でよく着られている。
「あんたって、おしゃれに興味ないもんね」
「そう言うのって……私に似合わないの」
一応断っておくが外出用の私服というものもきちんと持っている。
ただ、家の中くらいは機能性に優れた格好でいたいのだ。
ケイトみたいに家の中でまでスカートとかマジで面倒くさい。
それに私はケイトやアリスみたいに可愛くない。
そういうのは似合わないに決まっている。
それに男の人とデートするってこと自体がもう私にとっては無理な事だ。
あんな生き物の何がいいのか……あ、父様は除く、だけど。
「あんた、あたしの妹だから顔は良いのに勿体ないわね」
「さり気なく自分の事も褒めている姉がここに居たわね」
「あ、バレたか」
「とりあえずさ、ケイトが着たい服を着てみたらいいわけじゃない。きっとユリウスも気に入ってくれるんじゃない」
それにしても例えばだけどケイトとユリウスが付き合うことになったらどうしよう。
いや、別にいいんだけど凄く上手くいって例えばそれで将来的にあんなのが義理の兄とかになったら……
嫌だなぁ……
ていうか恋愛とか何がいいかイマイチわからない。
男の人って基本的に怖い生き物なのに……
「とりあえずまあ、上手くいくといいわね」
「ん。ありがとうね」
食事を終えた私は食器をもってキッチンへ。
何か気にくわないけどケイトが幸せそうならそれでいいか。
よく口喧嘩はするけどやっぱり家族だものね。
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