第21話 シトリーの天秤
◇リリィ視点◇
危ない所だった。
イシダの言葉に惑わされて本当にあっち側に踏み込んでしまう所だった。
冷静になって考え、ある事に気づく。
「あなたさっき、『天秤を傾ける』って言ったわよね?どういう意味?」
イシダに乗り移られた女性は楽しそうに笑う。
「そうだねぇ、踏みとどまったわけだし教えてあげようかな?あまり知られていないけど悪魔の呪いは遺伝するケースがあるの」
呪いが遺伝?
つまりは私は父様から呪いを受け継いでいる?
「それはつまり、私も『バルバトスの憤怒』の呪いを受けていると?」
「今の言い方は正確じゃなかったわね。呪い持ちの遺伝子を持つ子どもってのは『自然発生で呪いにかかりやすい』って言うべきなのね」
「なるほどな……えーと、つまりどういう事だ?」
こいつ、何が『なるほど』よ。
全然理解してないじゃない。
「要するに私は先天的・もしくは後天的に呪いにかかりやすい体質というわけよ」
「えーとあれか、つまり病弱というわけだな」
「えっと……つまり、私は遺伝の関係で『バルバトスの憤怒』とは『別の呪い』にかかっているわけね」
イシダが拍手しながら笑う。
「正解。あなたが宿している呪いはね……『シトリーの天秤』って呪い。デメリットは判断能力の欠如。呪いが強くなるほど、あなたは目の前の事しか見えなくなり感情が抑えきれなくなってくる」
判断能力の欠如……心当たりはある。
元々短気ではあると自分でも自覚はしていたがここ最近は特にそうだった。
ユリウスをボコボコにしたのは正にそれだったと思う。
よくよく考えればそんな事をすればケイトが怒る事は予想で来ていた。
ケイトが怒った後も話し合えば良かっただけなのに自分の感情だけを優先し家出した。
その後だってそう。
その場の感情と思いつきだけで私は行動していたし目の前しか見えていない状況だった。
つまり……
「もう少しで完全に飲まれていたって事?」
「残念だなぁ。あなたの事はね生まれた時からずっと気になっていたから可愛がってあげようと思っていたのにさ……」
随分と気持ち悪い事を言う……だが、ふと気づく。
「あなたって『破界の眷属』ってわけじゃあなかったわよね。呪いに飲まれていたなら私は連中の仲間になっていたはずだけど……」
「あれあれ、急に頭が回るようになったね。どうしてだろうねぇ」
イシダは私の隣に居るタツルの方を見る。
え、この男が何か?
「流石は龍一郎の弟だね」
「兄貴を知っているのか!?」
「数年前、『ヴァレファールの祈り』で別の信奉者に乗り移ってこっちの世界もエンジョイしていた時にね、そいつの心を救いリンクを切ってくれた男が居たけどそれがあんたの兄・龍一郎だった」
「……イシダ、あなた何かいつもと違うわね。自分の策が失敗したのに妙に嬉しそうだわ」
まるで自分が仕掛けてきたいたずらが成功した時の様な感じだ。
そう、彼女は我が家の行事に度々モンスター化して乱入、父様達に倒されるという事を繰り返していた。
今の彼女は不器用ながらも私たち家族との交流を楽しんでいる時の雰囲気だ。
「私はいつもと変わらないよ?私らしく生きているだけ」
「それに何だか色々とタイミングが良すぎる気もする。あなた、何か重大な事を隠しているんじゃあ……」
「おっと、それ以上の勘繰りはダメよ」
懐から黒い歯車が取り出される。
あれは確か彼女がモンスターに変身するときに使うレギオニウムギア!!
「地鳴魔獣オルゴ、その力、お借りしましょうね」
歯車からあふれたエネルギーにより額に宝玉が埋め込まれたクマ型モンスターに変化していった。
「かつてあなたの父親が倒したモンスターで相手してあげる!!」




