第20話 悪魔の囁き
出てきました、ニルヴァーナシリーズ恒例の『頭のおかしいヤバイ奴』。
リリィの男性トラウマ、概ねルーク上級生のせいですね。
◇リリィ視点◇
私はやや取っ散らかった説明ながらもヤヨイさんとの関係をタツルに話した。
何故、自分が孫だと言えないのか、それも含め、だ。
「なるほど……」
「随分とあっさりした反応……驚かないのね?」
てっきりもっと大げさに驚くものと思っていたのが……
「いや、何というかお前とヤヨイさんを見てたら孫とおばあさんみたいだなって思ってたから何か『ああやっぱりか』って感じだな」
そうだったんだ……
まあ、私がヤヨイさんにいち早く懐いたのも本能で血縁関係を感じ取っていたからかもしれない。
「よし、さっそくヤヨイさんに話に行こう!」
「いや、何でそうなるのよ!話聞いてたよね?それがすんなり出来たら苦労しないって話だったでしょ?」
「そうだけど、せっかく出会えたのだったらしっかりと話をしないといけないと思う」
うわ、ド正論。
「わかってはいるけど……ああもう、やっぱり話すんじゃなかった!」
遊具から立ち上がりその場を去ろうとするが。
「そうやって逃げていたら一生逃げ続ける事になるぞ?」
タツルが私の腕を掴んだ。
「ひっ!!!」
こいつは悪い人じゃない。
ちょとデリカシーはないけどこいつなりに色々考えているし、誰かに手を伸ばそうと頑張っている、
だけど、やっぱり怖い。
男の人にこうやって触れられるとどうしようもなく恐怖が蘇ってくる。
あの時、学校で私はルークに腕を掴まれ引っ張られていった。
抗おうとしてもダメだった。
力が強い男子、それも上級生だ。
為すすべなくトイレの個室に閉じ込められた。
上から水を掛けられて……私は泣いて……それをあいつらは笑っていた。
それにあの後私は……
「嫌だ……止めて、お願いだから……離してよ。お願いだから……思い出させないで!」
震えが止まらない。
そんな自分が情けなくて、涙があふれてくる。
「す、すまん!」
タツルが慌てて手を放す。
ああ、やっぱり私はダメだ……私は一生この恐怖を克服できない。
「かわいそうに、助けてあげるね。『リリアーナ』」
不意に、私の本名が呼ばれる。
声の方向を見ると20代前半と思しき若い女性がこちらを見てほほ笑んでいた。
私をリリアーナと呼ぶ人間は限られている。
母様たちが時々『リリアーナ』と呼んでくれる時がある。
それ以外だと……そう、この感覚を知っている。
こいつの正体を知っている。
私を本名で呼ぶヤバイ奴。
「イシダ……シラベ?」
彼女は父様の宿敵。
小さい頃は『時々やってくる頭のおかしいお姉さん』という印象でしかなかった。
だが大きくなるにつれて理解した。
『頭のおかしいヤバイ奴』だと。
だが目の前の女性は彼女ではない。
そもそもイシダ・シラベはこの世界に居ないはず。
しかし目の前の女性の纏う雰囲気は彼女そのもの。
「よくわかったね。お姉さん嬉しいよ。この子はね、私の信奉者なんだ。私みたいになりたいって強く願った愚かな子。だから私の端末になってもらった。自分を信奉するものに力を与える悪魔の呪い『ヴァレファールの祈り』の能力でね」
悪魔の呪い。こいつ、いつの間にか呪い憑きになっていたみたいね。
私達の世界に存在する『チート能力』で伝達法則などはよくわかっていない所が多い。
ただ、強大な力を持つ反面デメリットもある。
どうやら『破界の使徒』という連中との関りが強く呪いのデメリットに負けると『眷属』になってしまうらしい。
リズママの未来視『ヴァッサゴーの瞳』はいつ発動するかがわからず視える未来も『破界の使徒』が描くシナリオであった。
だが父様の別次元のチートな能力のせいで最終的にリズママはデメリット完全に抑え込み能力を『天気を当てる』だとかそういうくだらない事に使うくらいにまでなった。
そしてもうひとり、父様も呪いの持ち主だ。
父様の呪いは『バルバトスの憤怒』。強大なパワーを得る代わりに怒りに支配されるとすさまじい破壊衝動に襲われるというものだ。
父様の場合は発現させてほぼ速効でこのデメリットを抑え込んだらしい。
どうやらそこにはアンママの頑張りがあったようだけど。
「ねぇ、リリアーナ。私はあなたが心配だよ。急にいなくなっちゃうんだもの。だからあなたに感染させてた特殊な菌を追跡したらこっちにいるらしいじゃない。だから……」
あれ、今さらっとヤバい単語が聞こえてきた気が……
「ちょっと待って、特殊な菌!?そんなもの、いつの間に感染させてたの?」
「さあ、いつかな?」
こいつ!!
「あなたってさ、こっち寄りなんだよね。だからずっと気になってたの、リリアーナ」
こっち寄り?
私がイシダ寄りの人間?
「誰もわかってくれないよね。こんなに苦しいのに、それなのにみんな正論をぶつけて来てさ……あんた達に私の何がわかるって言うの?ってさ」
誰もわかってくれない……
そうだ、凄く苦しい。
それなのに……
「考えてごらん、ケイトはあなたの事、嫌いなんじゃないかな?だって愛しの彼に大けがさせた乱暴な妹よ?平均点しか取れない様なくせにって思ってるよ」
「!!」
平均点。
そう、私は平均点でしかない。
「アリスも君の事、心の奥では見下していると思うよ。だって君、アリスより弱いじゃん。それにさ、あの子甘えん坊だよね。リリィが居なかったらその分親に可愛がってもらえるのにねぇ。今頃ほくそ笑んでいるかもしれないよね」
アリスが……そんなバカな事。
だけどイシダの言葉は私の身体にじわじわと染みていっている。
「何で妹のリュシトーエにも『ミアガラッハ』のミドルネームが入っているのかな?それはあなたが家を継ぐには頼りないからだよね?男の人が怖い、きっと子孫も残せない。そんな子に継がせられないよね?きっとリリィは将来ミアガラッハを妹に取られるよ?」
ミアガラッハの跡取り。
それは私にとって一つの誇りだ。
だけどそうだとしたら……
確かにあの子の方が、リムの方が当主には向いているかもしれない。
男の人が怖い。そんな私が当主になれば下手すればミアガラッハが終わりかねない。
「さあ、天秤を傾けようよ。そうすれば君は楽になるよ。私の所においでよ。君は平均点なんかじゃあないって証明できるよ」
あっちに行けば……あちら側に行けば私は……
「なぁ、さっきから黙って聞いていて思ったけど……何勝手にわかりもしない事で盛り上がってるんだ?」
「は?」
私は思わずタツルの顔を直視していた。
「いやだってさ、お前の姉ちゃんや妹がお前の事どう思ってるかなんてあのヤバイ奴にわかるわけないだろ?それにミドルネームの事だってあんまり深い意味はないかもしれないぞ?」
「えっと……」
あー、言われてみればそうかもしれないけど……
「それにそもそも、平均点って普通にすごいぞ?俺なんか平均点取るのにどれだけ苦労した事か……」
「いや、でも……」
「リリィは努力家だよな。凄い事だ」
彼の言葉に少しずつ頭にかかっていたもやが晴れていくのを感じた。
「私……私今……」
今、あちら側へ行ってもいいと思っていた?
「で、だ。色々考えて俺の天才的な頭脳で分かったことがある」
タツルはイシダに意思を乗っ取られた信奉者をビシッと指さした。
「お前、悪い奴だな?」
えーと……
「えぇぇ!?今更!!?」
いや、確かにタツルからすれば初対面な相手だからアレなんだけど……
どう考えても登場の仕方とか雰囲気とか、『悪い奴』そのものじゃない。
キレもの風に見せてるけどあんたの言ってる事、なんかすごく頭が悪そうよ!?
「え、違うのか?」




