第19話 面倒くさい男
19話目にしてようやく龍琉が存在感を出してきた……かもしれません。
あれぇ、想定より難産だぞこの男!?
◇リリィ視点◇
「リリちゃん、お味噌汁をお願いね」
「…………はい」
さて困ったことになった。
ヤヨイさんが持っていた写真に写っていた子ども。
私の弟であるホマレとそっくりだった。
髪の色こそ違うが本当に似ていた。
味噌汁を配りながらヤヨイさんを見る。
これってつまりは、そういう事なんだと思う。
写真の男の子はおそらく、私の父様。
という事は……
ヤヨイさんは私の祖母という事になる。
やったねリリィ、異世界に来てお祖母様に出会えたよ。
……と言いたいところだが簡単にはいかない。
小さい頃、母様からこっそり聞かされていた父様とお祖母様の関係性。
父様は自分の母親に捨てられた……
つまり目の前にいるこの人は幼い父様を捨て苦しめた元凶ということ。
その事に対し人が善い父様は『理由があったのだろう』と赦しているが……
複雑な気持ちだ。
勿論、その事が無ければ結果として父様が転生して母様に会う事も無く、私も生まれなかった。
だからといって……
「リリちゃん、どうしたの?一緒に朝ごはん食べましょう」
ヤヨイさんは私の男性嫌いの為、別室にて私と食事をしてくれている。
だけど……
「ごめん……何か食べたくない……」
正直、食欲が沸かない。
それにヤヨイさんとどんな顔をして二人で食事をすればいいかわからない。
「あれ、どうしたんだ?生理か?」
馬鹿男タツルが癪に障る事を言ったのでナイフを錬成して投擲する。
勿論、本人には当たらない場所に。
「うおっ!危ない!!」
「……今のはタツ兄が悪い。ていうか色々最低」
ミカが呆れている。
父親であるリュウノスケさんも同意した。
男の人は怖いがこの人は少しマシな部類だと思う。
「デリカシーが無いな。タツが悪い。しかしリリちゃん、大丈夫なのか?」
「ん。大丈夫……です」
「……そうか」
それ以上の追及は無い。
だがこの人は私が何かに悩んでいることに気づいている様な気がする。
「……ごはん、ごめんなさい。ちょっと外の空気吸いに行く」
「リリちゃん……」
私はヤヨイさんの顔を直視することが出来ず、居間から出て行った。
□
いつだってそう。
私は都合が悪くなると逃げてしまう。
それはやはり変わっていない。
あの時だって、ケイトと向き合えば良かったのに。
ユリウスのしたことでケイトは傷つくかもしれない。
だけど結果として私はこの世界へ転移することになってしまい家族に心配をかけてしまっている。
「本当に嫌になる……」
公園の遊具に腰掛け小さくつぶやく。
問題に正面から向き合う勇気が出ない。
ヤヨイさんと話をしなくちゃ。
でも本当に、何を話す?
彼女は父様を捨てた人。
今更私が孫だって伝えられて嬉しいものだろうか。
ただ、迷惑なだけじゃないだろうか?
「よぉ、こんな所に居たのか」
声の気づき顔を上げると先ほどナイフを投擲してやった男、タツルが居た。
「……何?」
私の身体は逃げる準備をしていた。
「お前が弥生さんとの事で何か悩んでる感じでな。気になって追いかけてみた」
「何でそう思うの?」
「だってあんなに懐いていたのに今日は弥生さんを見ようともしないからな」
見透かされていたみたいだ。
「……放っておいて」
「ダメだ。弥生さんとはいい関係を築く事が出来ていたんだろ?弥生さんの傍に居る時のお前は楽しそうだった。それが今は……」
「あんたに関係ない」
「そうかもしれない。だけど知らない世界にひとりでやってきて、心を許せた人ともぎこちなくなるなんて辛すぎるだろ。だから……」
「……面倒くさいわね」
面倒くさいお人好し。
ケイトみたいに世話焼きというか。
「そうだな、面倒くさいよな。放っておくことも必要な時があるって思う。正直、俺のおせっかいだしエゴだと思う。それでも俺は……手を伸ばさないではいられない」
手を伸ばす……
「面倒くさい男。何でそこまで人の事ばっかり構うのよ」
「俺の兄貴は凄い奴だった。ずっと兄貴みたいになりたいって思っていた。でも兄貴は妖怪に殺されてしまって……そこから俺はどうすればいいかわからなくなった」
兄……そう言えばこいつのお兄さんは亡くなったって聞いている。
「越えようとした壁はもうない。自分に興味が持てなくなってしまった。誰かを救う事で、俺は何とか自分でいられているんだ。自分勝手なおせっかい野郎だとは思っている」
「……似ているのね」
「え?」
「私の父様も、そういう所がある。時々自分の事を大切にしないで人を助けに行くからよく母様達から怒られているの。『あなたが傷つくことで私達だって悲しむのを忘れないで』って言われてた」
そう、この男もまた父様の様な……
「……一人で悩んでても仕方ないし話さないと地の果てまで追ってきそうね…………仕方ない」
誰かに吐き出せば、少しは楽になる……か。
「実は……」
私はゆっくりと話し始めた。




