第15話 異世界の実家には幽霊が居る件
その日、私はミカの部屋で『漫画』を読んでいた。
兄のタツルは正直怖いがミカは別だ。いい人。
色々な種類のものがあるが中々興味深い。
ラブストーリーものもあるが何というかそういうのは好きじゃないので読めないが……
「トイレの花子さん?何それ?」
ミカが持ち掛けて来た話題に私は首を傾げる。
「ウチの学校で最近流行っている怪談話だよ。リリちゃんの世界にはそんなの無かった?」
「何で【階段】の話なんかが流行るの?ただの段差よね?」
「あー、違うのよ。怖い話の事をそう呼ぶの。字も違ってね」
ミカがチラシの裏に『階段』と『怪談』と書く。
「リリちゃんが勘違いしていた段差はこっちの字。あたしが言っているのはこっち」
なるほど。
本当に日本語って難しい……
「それで……怖い話、よね?うーん……あ、ウチの学校はどうだったか知らないけど実家には幽霊が住んでいたわね」
「マジで!?」
レム屋敷と呼ばれる実家には元々父様に憑いていた小さな女の子の幽霊が住み着いている。
父様は3人の魂が融合した存在らしいのだがだが内ひとりの娘がその幽霊の正体だ。
小さい頃は一定の時期までケイト、アリスと共に4人姉妹だと思っていた。
というか普通に4人で遊んでいた。
今でも時々廊下を歩き回っている。
勉強をしていると部屋の隅に座っていることもある。
というわけなので私にとって幽霊というものはあまり怖くない。
リズママなんかはこの話をすると『うえぇー』と怖がっていた。
だけど元々父様たちが最初に住んでいたリズママの家は死んだ人の幽霊が住み着いていたと思う……
そもそもあちらの世界は普通にゴーストやアンデッドがその辺を歩き回っている。
何ならそんなものの何倍も怖いモンスターが存在している。
「それで、花子さんってどんな幽霊?」
「えーとね、何か昔ウチの学校で先生と不倫して妊娠しちゃった子が居たんだけど認知してもらえず結局トイレで出産してそのまま赤ちゃんを捨てちゃったって事件があったらしいの」
「何よその先生が超クソ野郎じゃない」
ナダ人にとって浮気や不倫というのは道徳的にもかなり非難される行為だ。
その教師、ナダなら捕まると思う。
実際、ベリアーノ校である男性教師が急に居なくなったことがあった。
後で知った事だが7年生の女子生徒と不倫しており投獄されたらしい。
「その時に死んだ赤ちゃんの霊が住み着いていて母親に似た女子生徒がトイレに入ると恨みを晴らそうと現れて殺しちゃうって話」
はて、似たような話を知っているわね……
しばらく思考し、結論。
「なるほど、それって『嘆きのミリエンヌ』ね」
『嘆きのミリエンヌ』とは怪談話というより悲劇の伝承である。
とある領主と許されぬ恋に落ちた侍女の物語。
侍女は領主の子を身ごもるが世間体を気にした領主から認知されず追放され赤ん坊と共に森の中で死んでしまうという物語だ。
とても後味の悪い話だしもれなくクズな男が出てくるので私は嫌いだ。
父様が昔聞かせてくれた『モモタロウ激闘伝』の方が余程楽しく心躍る。
桃太郎がガルーダに飛び乗って鬼を斬り捨てていく場面とか最高すぎる。
さて、『嘆きのミリエンヌ』はおおよそ子どもが聞くにふさわしい内容の伝承ではない。
だがナダでは多くの子どもがこの話を知っている。
理由としてひとつは不貞がいかに憎まれ残虐な行為であるかという戒めの為。
そしてもうひとつだが……
「もしかしてその怖い話がミカの学校で流行った背景って実際に最近体験している人が居たりする?」
「うん。実は最近、女子生徒がひとり行方不明になっているの。それでその子が花子さんに襲われたのかもって噂がね」
やはりそうか。
「赤ん坊の霊って事は『おぎゃー』とか声が聞こえるのよね?」
「うん。本来は花子さんっていうのは小さい女の子の幽霊だけどウチのは赤ん坊の幽霊」
トイレみたいなじめじめしたところを好む。
赤ん坊の様な泣き声。
女性を襲う。
可能性は高いわね……
「ヨウカイの仕業かもね」
「ええっ!?でもそんな妖怪いたっけ?児啼も赤ん坊の泣き声をする妖怪だけどそれともなんか違うし」
「あなた達がヨウカイって呼んでいる怪物は私達の世界ではモンスターだとか魔物って呼ばれているわ。実はその怪談の特徴に近い生態を持つモンスターが私の世界には居るの」
もしそうならさっさと討伐しなくてはマズイ事になる。
「ミカ、あなたの学校に連れて行って」
こうして私は『ハナコサン』なるものと対峙することになったのだ。