第12話 ちょっと重かった
我ながら超趣味全開だなぁ……うん、後悔してない。
双屋市から近い山中の渓流。
川辺をのっそりと動く二足歩行の怪物が居た。
岩の様な全身のこいつは『児啼』と呼ばれている。
岩に擬態しながら動き、寄りかかった人間を襲い食らう。
赤子が泣くような独特の鳴き声から日本に伝承される妖怪『児啼』というコードネームが付けられたのだ。
少し離れたところからその様子を観察する一家が居た。
東雲堂の面々である。
彼らは何でも屋の傍らこうやってモンスター退治を行っていた。
バックには異世界出身の大富豪がおり装備などの支援などを行ってくれている。
モンスターと戦う為の戦力も、この大富豪由来のもの。
『アーマー』と呼ばれる鎧。
現代風に言うならパワードスーツの様なものである。
特殊なベルト型制御装置にエネルギーが満たされたボトルを装填することで鎧が出現し纏うことが出来るという代物だ。
何だか特撮物みたいだな、と持っていたら開発者がそういうものが大好きだったらしくデザイン的にもそういう事なのである。
ただし、現実は厳しい。
『アーマー』を装備したとしてもモンスターと対等と言うわけではない。
その辺は未だ技術が追い付いていない様だ。
「大きさ的には成体ではないな……タツ」
「ああ、問題ない。いけるよ」
緑色のアーマーを纏った龍琉が駆け出し児啼へと近づいていく。
その手には大ぶりのナイフ。
先手必勝とナイフを児啼へと突き立てる。
「くそっ、やはり硬いな!」
ナイフは脇腹の皮膚を一部削ったのみであり大きなダメージは与えられていない。
だが戦い方としてはこれでいい。
何度も同じ個所を攻撃していればそこにやがて大きな傷が出来る。
龍琉は腕を振り回しての反撃を避けながらヒット&アウェイ戦法を取っていく。
ともかく傷を大きくすることが重要だ。
ある程度大きくなりさえすればそこに大きな一撃を叩き込むことで致命傷を与える事が出来るのだ。
そして十数回に渡る斬撃の後、その時が来た。
「ここだっ!」
龍琉は左腕を突き出し装甲内部に収納されていた小型の砲弾を射出する。
弾頭には濃度の高い魔力が凝縮されており傷口に着弾すれば皮膚をぶち破り内部に到達し、そこで破裂する代物だ。
児啼が腕を振り上げた状態でタイミングも完璧だ。
そう、完璧……のはずであった。
ガンッ!
鈍い音共に着弾前に砲弾が弾かれた。
児啼の周囲には点滅を繰り返す電磁シールドが張られていたのだ。
「まさかこいつ、『スキル持ち』だったのか!?」
妖怪の中には時々、スキルを習得している特殊個体が存在する。
この児啼もその一体だった様だ。
呆気にとられたところに強烈な突進を喰らい龍琉が吹っ飛ばされる。
地面を転がりながら規定値以上のダメージを受けアーマーが解除されてしまう。
「がはっ、攻撃力もクソ個体かよ!」
「タツ兄、早く離脱して」
妹が叫ぶも先ほどの一撃で体の自由が利かない。
(ここまでか……クソ!)
児啼がこちらに突撃して来る。
死を覚悟して眼を瞑る。
直後に響く激突音。
だが……
「ん?」
衝撃が来ない。
どういう事かと目を開けるとそこには……
両腕を胸の前で構え児啼の攻撃を受け止める少女の姿があった。
「お前……」
「どこの世界に居ようが。届くなら私は手を伸ばす!!」
そう叫ぶと少女は児啼の再度の身体を滑り込ませ肩に担ぐと勢いをつけて地面に叩きつけた。
「えぇぇ、リリちゃん児啼を投げたぁぁ!?」
「あれ、軽いのでも100kg近くあるんだがな……」
リリィは担いだ方の肩を回しながらつぶやく。
「流石にちょっと重かった!」