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第9話 鶏おかかのライスボールと風呂

◇リリィ視点◇


 目を開けると見たことのない天井が飛び込んできた。

 起き上がると簡素な狭い部屋。

 そしてこれまた知らないベッドに横たわっていたのだ。 


 ハッとして身体を確かめる。

 着衣の乱れは見られない。

 どうやら何もされてはいない様だ……『まだ』!!

 

 そうか、まだ』!だ。

 あの男はこの狭い部屋とベッド上で私に何かとんでもないことをしようと画策しているに違いない。

 押し倒されでもしたら抵抗なんか出来ないと思う。

 となるとこのベッドも安全地帯ではない。

 そう考えるとどうしょうもなく恐怖がこみ上げてくる。


 早く逃げなくてはならない。

 今ならまだ間に合う。

 取り返しのつかない事態に陥る前に……逃げないと。


「あら、目が覚めたのね~」


 動こうとした瞬間、白髪の女性が入ってくる。

 何てこと、見張りが居たとは……!

 まさか組織的な犯罪に巻き込まれた?

 魔力を練ることが出来るか確認すると……可能だ。

 下手に使えばまた倒れるかもしれないが今度は加減が分かった気がする。


「目が覚めたら知らない所に居て不安よね?気を失ったあなたをタツ君がここまで連れて来てくれたの」


 タツ君……あの男の事だろうか?

 私をお持ち帰りして何を企んでいるというのだろう?

 色々とシミュレートしてみるがろくなものが浮かんでこない。

 もしかしたら私はどこかの好き物に売られてしまうのかもしれない。

 そうだとしたら最悪すぎる。


「私は弥生、立花弥生っていうの」


「……【ヤオイ】?」


「そうじゃないわ。弥生よ。や・よ・い」


「やよい……」


 情けない。

 どうも日本語をしっかり聞き取る能力についてはかなり不十分だったということか。

 この女性はタチバナ・ヤヨイというらしい。

 それにしても彼女の柔らかな笑みは安心感を与えてくれる。

 あれ、もしかして悪い人じゃない?


「あなたの名前は?」


 ヤヨイさんが身振りを加え名前を聞いてくる。


「レム……レム・ミアガラッハ・リリアーナ……」


「そう……レム……ミアガラッハ……リリアーナ……」


 ヤヨイさんは私の名前を少しずつ反芻していく。


「それじゃあ、リリちゃんって呼んでいいかな?」


「ん。【大分丈夫】」


 クラスメートにも私をそう呼ぶ子は居たし……


「大丈夫、ね?」


 どうやらまた間違えたようだ。恥ずかしさに顔が熱くなる。

 やはり『言語理解』を貰っておくべきだったのかもしれない。

 

 それにしても何だろうか、この人からは何か親しみを感じる。

 年配の女性と言えば学校の先生とかが思い浮かぶが中々厳しくて怖いイメージだ。

 後はライラおばあちゃんだがあの人は底抜けに明るい人だ。

 ヤヨイさんはそれらとはまた違った雰囲気。


「ねぇ、リリちゃんはお腹空いてない?」


 今のは……空腹であるか、という意味だろうか。


「……うん」


 私は小さくうなずく。

 ケイトと喧嘩して家を飛び出したのは夕食前。

 そこから結構時間が経っている。


「それじゃあ、ついていらっしゃい」


 何か食べさせてくれるのだろうか?

 ヤヨイさんに促され私はベッドから出ると一緒に部屋を後にした。



 部屋を出た先はリビングだった。

 テーブルの上には小さな皿が置かれておりその上には……


「こ、これは、【おにぎる】……」


 米を炊いたものを握りボールの形にした料理、ライスボールだ。

 確か父様の世界の言葉では【おにぎる】。


「残念、『おにぎり』ね」


 日本語って難しい。

 私はヤヨイさんの顔を見る。

 彼女は優しく微笑み……


「さあ、食べていいのよ?」


 私は椅子に座るとライスボールに手を伸ばす。

 そう、この食べ物は手で掴み、そしてかじるもの。


「やっぱり親御さんの片方が日本人だから順応が早いのね」


「これは……!」


 おにぎり、には具が入っていた。

 食感的には鳥類の肉


「鶏おかか、よ。鶏むね肉とおかかを合わせたのだけれど……」


「美味しい……」 


「ふふっ、トレーニングの後はこれに限るのよね!」


 あっちの世界では主にギルルバードという鳥が食べられていた。

 ただ、肉質が固いためか一般的にはあまり好まれない。

 彼女と同じようにトレーニングの後はこれに限る、と父様はよく食べていた。

 確かに固い肉質だが工夫次第ではとても柔らかく美味しくる。だから食卓にはよく鳥肉が並び、私達キョウダイの好物であった。

 

 気づけば私は凄い勢いでおにぎりにバクつき食べつくしていた。

 いけない。こんなはしたない姿を見せるなんて……母様が見ていたら怒られる。


 そんな私にヤヨイさんはただ暖かい視線を向けてくれていた。


「大丈夫だから、ね?」


 私の肩にヤヨイさんの手が置かれる。

 暖かい……気持ちが、落ち着いてきた。


□□


 ヤヨイさんに促され、私はお風呂に入れてもらっていた。

 あっちの世界でもお風呂の文化はあるが家にお風呂を持っている家庭というのはある程度お金を持っている家だったりする。

 まあ、ウチは普通にあった。父様が日本人なので風呂好きなためだ。

 この家はお金持ちなのだろうか?

 

 洗面器でお湯を身体にかけながらため息が出た。

 これからどうなるのだろう。

 みんなどうしているだろう……


 そんな時、外から気配がした。

 ヤヨイさんだろうか?

 お風呂の戸が開かれ、そちらに目をやると……


 全身に何も身に着けていない男、シノノメ・タツルが立っておりこちらを見下ろしていた。


「え……お前何で……」


 そんな、こんな事があっていいはずない。

 男の人が、裸の男と同じ空間に……しかも私自身も何も身につけず……


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」


 これまで出したことがないくらいの悲鳴を、私はあげていた。


 

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