第8話 立花弥生は道を正す
今話からリリィ視点ではない俯瞰視点が混じる事があります。
今話なんか丸々リリィが気絶しているので……
分かりやすいようにリリィ視点の時は「◇リリィ視点◇」が付くようにしています。
夜8時、静けさが近づいてくる住宅街。
その一角に数台止まれる駐車場を構えた家があった。
3階建てで1階部分は店舗。看板は「何でも屋 東雲堂」とかかっている。
店舗の応接スペースで18kgのケトルベルを振り、トレーニングにいそしむ女性の姿があった
鍛え上げられた筋肉の持ち主である彼女の頭は白髪が多く見受けられる。
立花弥生 齢72歳。
彼女はこの「東雲堂」が入る建物のオーナーで2~3階部に住居がある。
普段は住居部に居るのだが店舗の方で店番が足りない時などはこうして降りて来て店番をしている。
ホワイトボードに出勤している従業員の中でひとり、気になる子が居た。
「タツ君はまだ帰って来ないのね……」
もしかしたら途中で女の子をナンパしてご飯でも食べに行ったのだろうか?
25歳になる彼はマッチングアプリなるものを使っており時折それを通じて知り合った女の子とデートをしている。
子どもではないから好きにすればいいと思うがそれでも遅くなる用事があるなら連絡して欲しいものだ。
そんな事を考えていたら店舗のドアが開く。
営業時間は既に過ぎているので関係者が帰ってきたという事だろう。
首をそちらに向けると先ほど呟いた名前の青年、東雲龍琉の姿があった。
彼はここの社長である東雲龍之介の息子であり従業員でもある。
「おかえりなさい、タツ君。随分と遅……」
筋トレが好きな健康優良老婦人はそこで固まる。
彼の腕には気を失っている中学生くらいの少女が抱きかかえられていたのだ。
「あ、弥生さん。ただいまです。実は……」
「タツ君……」
弥生は失望と共に小さくため息をつく。
彼は自分の息子ではないがおむつを付けていた頃から知っている。
そんな彼が間違いを犯そうとしているのならば年長者として導かなくてはならない。
そう、考えたのだ。
「それはね、流石に犯罪だと思うの……」
「いや、この子は……」
「君も色々とムラムラする年ごろだとは思うの。でも、いくら何でも中学生はダメよ?確かに最近はマッチングアプリで年齢を偽る女の子もいるというけれどこれは流石にダメ。知らなかったでは済まされないの。最悪、逮捕されるのよ?」
「ご、誤解です。この子はええと……河童を倒したら急に倒れてしまって」
仕事中に巻き込まれた少女を助けたと主張する様だ。
「でもね、あなたでは河童を倒すなんて出来ないわよね?」
「違います。この子が河童をドロップキックで……」
嘘をつくならもう少し上手な嘘をついて欲しいと弥生は思った。
頭が痛くなってきたが彼の道を正さねばなるまい。
「タツ君。大丈夫、今ならまだやり直せる。警察を呼ぶから、その子をご両親の元へ帰してあげましょうね?」
諭すように言い、電話を手に取る。
「違いますって。この子、異世界人なんです!」
「え?」
驚き少女をよく見る。
確かに黒髪ではあるが顔立ちについては外国人と思われるような部分も見受けられる。
「俺、調査中に河童に遭遇してしまって。それでヤバイなって時にこの子が出て来て河童をあっという間に倒したんです。でもその後、『エネルギー切れだ』って気絶してしまって……魔法とかも使っていたし異世界人だと思います。どうやら日本人とのハーフらしいんですが日本語は不自由な感じで……」
「うーん、にわかには信じがたいけれどつまり、異世界の女の子に助けてもらって……それで何か気絶しちゃったのをいいことにお持ち帰りをしようとした、と」
何という事だろう、もう最低すぎる。
再度ため息が出た。
「だから違いますよ!河童を倒すような子ですよ?放っておいたら何が起きるかわからないしあんな所に置いておくの気が引けたんです」
結局ここから弥生が龍琉の言葉を信じるまで更に10分を要することとなった。




