物語の細部
「今、人魚と言わなかったか!」
「王子!」
岩陰から出てきたのは、人魚姫の王子様だった。
短めに切りそろえられた金髪に空を溶かし込んだような水色の瞳。
物語そのままの王子様がそこにいた。
「人魚姫の前に王子に会ったがどうする?」
「どうしよう?」
少女と青年が互いに耳元でひそひそと話し合っていると、王子が間に割り込んできた。
「すまないが、私の質問に答えてもらえるか?」
「え、あ、うん。別に良いけど」
王子の鬼気迫る様子にとりあえず了承の意を返す。
「先ほど人魚と言ったが、君達は人魚を知っているのか?」
「知ってると言えば、知ってるけど…」
少女は突然の王子の登場にいまだに混乱しているのか、しどろもどろに答えにならない答えを返している。
どうも突発的なことに弱いらしい。
青年はそれに息をつくと、少女の代わりに王子の質問に答えていく。
さりげなく、少女を自分の後ろに隠すのも忘れない。
「人魚という存在は知っているが、人魚個人に知り合いはいないな」
「そう……か」
王子は青年の答えに目に見えて落胆していたが、取りつくろうような笑みを浮かべた。
「いや、いきなりすまない。私はセドナという」
「俺はシュテラリア。こっちはカメリアだ」
王子、セドナが名乗ったので青年、シュテラリアも自分と少女の名前を明かす。
「セドナは人魚を探してるの?」
シュテラリアの腕の下から顔だけをだし、カメリアはたずねた。
「ああ。私を嵐の海から助けてくれた人魚を探しているんだ」
この言葉にふたりは顔を見合わせた。
王子が人魚の存在を知っていて、なおかつ自分を助けたとわかっているのはどういうことだろう?と。
「どういうこと?」
シュテラリアに声をかけたつもりが、どうやらセドナにも聞こえていたらしく、セドナが先に口を開いた。
「時間がないんだ、私には。」
セドナの話をまとめるとこうだ。
嵐の夜に海から自分を助けてくれた人魚に恋をした。所謂一目惚れ。
けれど、海の底深くに住む人魚に会えるわけがなく諦めようとした。
が、セドナが何者かに助けられたと聞いた隣国の王女が、セドナを助けたのは自分だと王であるセドナの父に言ったのだ。
さらには、人魚がセドナを殺そうとしていたという嘘までついた。
これに王は激怒し、人魚を見つけ次第殺せと兵たちに命令したのだ。
「で、セドナは人魚を見つけて陸に上がってくるなって伝えたいの?」
カメリアが聞くと、セドナは真剣な顔で頷く。
「私が彼女と、隣国の王女と結婚すれば王となり父の命令を撤回できる。それまででいいんだ」
「隣国の王女と結婚するの?」
セドナは困ったような笑みを浮かべた。
「しかたがない、今の父に何を言っても聞き入れてはくれないだろう」
その言葉にカメリアの顔が歪む。
その顔を見て、セドナはさらに笑みを深めた。
「そんな顔をするな。父を説得出来なかった私の力不足だ。それに彼女も人間に想われても迷惑だろう」
「…………」
カメリアは複雑そうな顔をして俯いたまま、黙り込んでしまった。
そんなカメリアにもう一度笑みを浮かべてから立ち去ろうとしたセドナに、今まで黙っていたシュテラリアが問いかけた。
「口の利けない女に会わなかったか?」
セドナは少し考え、首を横に振った。




