知ってたヨ、君がアホだって
次の三回戦は、10時から、配信される。
ナディアママの用意してくれていた、お粥をかきこみながら、時間が無いから、バロチのことは省いて、現在の状況だけ伝えた。
高速道路で、外国人達が事故を起こしたスキに逃げてきたけど、関連を疑われて警察が探してる、会場の表まで来てるって言うと、全員がギョッとした。
ナディアが、苦々しそうに言った。
「実家……オリガじゃろな」
ナディアママが、片頬を押さえながら、続ける。
「うーん、コスプレやめる訳にいかなくなったわねえ……ゆっくり食べなさい、間に合うから」
「あ、スミマセン、あんまりおいしいから……」
「向こうの料理、重いのよね。今日は冷たい物飲んじゃだめよ?きっと胃が荒れてるから。みんなも、小さいおむすびあるけど、いる?」
僕は感動して言った。
「それで、お粥を……ありがとうございます!」
ナディアママ、気配りすごいなあ。美人でおっとりしてるし。
差し出してくれたお茶を受け取った時、手からリンゴの香りがして、我に帰ったけど。
人は見かけじゃ無いよね。こんなに優しそうだけど、うっかり、余計なこと言ったら、頭を握り潰されるかもしんない。
ナディアパパ、よく生きてたなあ、おしゃべりなのに。
それはそれとして、ナディアママの言うとおり、コスプレは、僕が替え玉のメグとスリかわれたら、次の試合からは、用無しになる筈だったんだ。
僕は、急に食欲が失せ、お粥をすくってた、木の匙を止めた。
……この姿で配信されるの?
救いは、公式大会に出ること、ジン以外に言ってないんだ。他の友達にも、間違いなく、試合に出れるって分かる、二日前くらい前に言おうと思ってたんだよ。
何があるか分からないから、一応ね。
悪い予感が当たって、結局バロチに行った訳だけど……
ナディアも、リーファも、物凄く嫌そうな顔をして、呪いの言葉を吐いている。
二人とも、目立つけど、目立つのが好きな訳じゃない。
まして、スキあらば『キモい』を連発する、ヲタクの天敵系のJSだ。ウマ娘が何かも知らないんじゃないか?
僕?
僕はアマプラで一期はコンプリートしてる。
そんな事はどうでもいい。
二人以上に、配信にこの姿で映るなんてゴメンだ!
「いいひゃないれすか、3人ほもよふ似はっへまふよ」
ただ一人、めぐだけが遠慮なくナディアママのおにぎりを、ほお張っている。くりくりした眼と相まって、リスみたいだ。
僕達のジト目に気づかず、自前のペットボトルのお茶を一気に流し込むと、満足気に、んふー、と息を吐く。
「ウチのメイク、いい仕事するでしょ?あ、もちろん、みなさんの地顔がいいからですよ?ベルさんなんか、メグにそっくり!……そうだ、一緒にスマブラ姉妹としてデビューを……クララ姉さんイダイ!」
いつも佐竹にイジられてるナディアが、メグのほっぺをつねりあげる。
いや、いい加減それやめないと、伸びるよ、メグのほっぺ?
「なあにが、スマブラ姉妹じゃ、アンポンタン。マリオとルイージの違いもわからんくせに」
「あ、あんなの同じじゃないれふか、ヲタフひゃなひと、むひむひ!」
いや、どれだけ任天堂から遠い生活してんの?
僕は重い声で言った。
「いや……ナディアママ、それは、僕ら3人ともカンベン……」
ナディアママは難しい顔をして言った。
「うーん、素顔かあ……警察にバレないかもしれないし、バレるかもしれないわねえ。下手すると、配信で後日」
「ママ、ウチとリー……アリスはやめてもええかのう?コスプレまでする必要はないじゃろ?ベルが、マスクせにゃならんから、やってただけで」
そうだ、こんなカッコしたのは、エルコンドルパサーが、マスクをしてるキャラだからだ。僕だけそんなカッコしてたら、浮くので、ナディアとリーファにも付き合ってもらっただけなんだ。
「勿論いいけど、あなた達二人がフツーに顔出したら、学校のコたちに、もう一人はベル君ってバレるわよ?」
「「あ……」」
そうだ、仮に、二人が顔出ししたとしたら、もう一人は、自動的に僕ってわかっちゃうし、その時、僕だけ女装してたら、目も当てられない。
こんにちは、引きこもり生活。
そんな理由で不登校デビューしたら、母さんに、間違いなく殺される。
寝てる間に刺されちゃうよ、きっと。
ん?
何か閃きそうだぞ……?
ここで、助けてくれたのは、またもやメグだった。
「クララ姉はん、ほっへ放しへ! 名はん、名はんが……いたた……ベルさんが、変装すればいいんですよ、男の子のままで」
「「「それだ!」」」
僕らは感心したように言った
「やるじゃん、メグ。おバカのくせに」
「ええ考えじゃ、メグ。アホにしては」
「偉いぞメグ!出来るおバカだってぼくは知ってたよ」
「バカじゃないよ!バカじゃないもん!ところで、私、関西人じゃないから、アホってスッゴい刺さるんデスケド!?アホじゃないから、田中…、マネジャーに、メイク呼びに行かせましたっ!」
涙目で喚くメグ。
僕は笑って、メグの頭を撫でた。
「冗談だ。さっきから助けてもらってばかりだ、サンキュ」
メグは、涙目のまま、エヘヘと機嫌を治す。
切り替え早いな、こいつ。
でも、僕らの機嫌がいいのはここまでだった。
「さっきのスタッフの人が来るわよ……まだ時間はあるはずなのに」
ナディアママが、硬い顔で言った。
僕らがギョッとして振り向くと、さっきのお姉さんが、難しい顔でスタスタやって来て言った。
「すみません、ちょっとお話いいですか?」