小学生で、アイクラ使えたらカッコイイとか、思ったりするんだヨ、みんな
僕は、自分の心臓が爆発し、血の気が引いていくのを感じた。
ヤバい、やり過ぎた!
まとまらない思考が、てんでバラバラに走り出す。
リーファが心配していたのはこれか!
もどかしそうにしてた理由も納得、口に出して、『1回戦と落差がありすぎ、不審がられる』なんて、相手の前で言えないもんな!
メグ、3日じゃ、復帰もろくに出来なかっただろう。やべぇヤバいヤバい!ところで、今、顔に出ちゃってるよな、僕!
ひとつだけの救いは、ナディアママの1発芸で、僕が驚きの表情を、すでに浮かべてた事。
相手の親からは、僕のエルコンドルパサーな横顔しか見えてない。
でも、次の一手が見えない。
頭が真っ白だ。
どうしよう、どうしよう!?
不意をつかれた僕は、ナディアママをガン見して、固まったふりを続ける。
ナディアママは、何言ってんのコイツな顔をした。上手いなあ!
りょうちん、ナディアママから、目を離し、疑り深そうな顔でこっちを見てる、自分の親を見たのが、僕の視界の隅に映る。
後ろ髪伸び夫、ナディアママに、プロコン持った手首を握られたまま、こっちを見て、何か言おうとした瞬間だった。
リーファが冷たい声で言ったんだ。
「スタッフさん、人、呼んで。コイツラ、ナンクセつけて、まだ暴れるつもりですよ」
ナディアも同じくらい冷たい声で、ゆっくりと続ける。マジギレしてる証拠だ。
「色々思いつくのう……オッサン。冗談はガキの後ろ髪だけにしときんさい。さっき言ったじゃろ?心へし折られるぞって。このジャリがフツーにしとったら、消化試合くらい、花持たせてやったんじゃ、1回戦みたいにの」
相手の親が、仰天した顔で、ナディアを見る。
ナディアは全くビビらない。
ママがいるからじゃない、コイツなら、自分で戦るだろう。
スタッフのお姉さん、リーファの声でハッとなり、ナディアの説得力あるフォローで、自分の職務を思い出したみたい。
「なにやってるの、プロコン渡しなさい!」
スタッフさんのマジギレに驚いた周りの人たち、そして、何事かと、他の男性スタッフが寄ってきた。
大人に大声で詰め寄られ、りょうちんは、怯えた顔でプロコンを差し出した。
その仲間は、騒ぎの大きさに怯えてたし、相手の親も、戸惑っていた。
「……ちょっとこっちへ」
怖い顔した男性スタッフに促され、りょうちんのチーム……ごめん、チーム名知らない……は、どこかへ、連行されて行った。
スタッフのお姉さんが、少し険しい顔で僕らに言った。
「3回戦進んでください。後、誤解されるような行動は起こさない事。いいですか?」
僕ら全員頭を下げて、そそくさとその場を離れる。
タダでさえ、目立つコスプレしてる僕らは、悪い意味で、注目を集める事になった。
『全国小学生スマブラ大会』のノボリと、ロープを避け、会場通路の奥に向かう。
誰も一言も喋らないのが、プレッシャー。
怒ってるよな、みんな。
そういえばメグは?
さっきまで、離れたとこで、マネジャーといたんだけどな。
リーファが僕らの集団を抜け出し、スタスタ、奥へと向かう。
こちらに横顔を向けて、熱心に観戦してる、野球帽にマスク、ぐるぐるメガネの観客の後を通り過ぎると見せかけて、そいつの頭をハタいた。
「アリス姉さん!?」
「……メグ、なにやってんの。なんもベルに伝わってないじゃん」
ずり落ちる帽子を押さえて、うろたえるそいつは、メグだった。
驚く事に、Tシャツの色が変わり、ショートパンツは、スカートになっていた。
いつの間に!?
でも、ぐるぐるメガネにマスクは違うよな?
マネジャーは、どこ?
注意しなかったの?
でも、メグはそれどころでは無いらしく、下のまつ毛越し、クールなカンジのエアグルーヴに見下され、内股になってる。
「あわわ、違うんです、マネジャーが勝手に……イダイ、イダイ!」
リーファがメグの、片っぽの頬をつねり上げた。
追いついた僕らの中から進み出た、ナディアが疲れたように言った。
「林堂、今回だけは、ボロ勝ちしないように上手くやれ、言付け聞いちょらんかったんか?」
「いや、コテンパンにやっちゃってくれとしか……」
「そうれふ!ベルふぁん、ふぁっほよはったれふ……イライ、イライ!」
ナディアにも頬をつねられ、メグは、両頬をモモンガみたいに広げられて、半泣きになってる。
じたばたする、メグをつねったまま、リーファが、いまいましげに、グチる。
「……1回戦、捨てゲーしろって言ったのに、言う事聞かずに『相手に失礼です!大丈夫、私のアイスクライマー、見てて下さい!』とか言って、スマッシュボム連打するし……」
「いや、止めようよ!?よりによってアイクラはあかんやろ!」
アイスクライマー、略してアイクラ。
二人1組のファイターで、火力は鬼高いけど、メチャクチャ使いこなすのが、難しいキャラだ。
トレモ何百時間必要と言われ、アイテム切り札ありの公式戦で小学生が使うなんてまず無い。
切り札バカ弱いし。
小学生で使いこなせたらカッコイイ……そんな風に考えてた時期が僕にもありました。
思わず刃牙っぽく語っちゃうけど、結論・無理。
何が無理ってとにかく無理。
切り離しとか憧れたけど、トレモで出来ても、実戦でできませーん。
「らって、二人いたらお得じゃないれすか!☓3で、6人れすよ!?」
涙目で抗議するメグ。
……その発想は無かった。
素人恐るべし。
そのうち、ジョーカーやホムヒカでも同じ事を言いそうだ。