ドリャア
『ミスター・ゲーム&ウォッチ!』
僕の選んだキャラを見て、相手の、頭が悪そうな顔したガキ ー多分同じ6年生ー と、その仲間たちはせせら笑った。
「今度は、ゲーム&ウォッチ? オマエ勝つ気ないだろ?」
いつか、公園でスマブラやった時、インドネシア人のジェイクが言ったのと同じセリフを聞いて、僕はうつむいたまま笑った。
これで、相手の実力が分かった。
ゲムヲのキャラパワーを知らないようじゃ、初心者もいいとこだ。
ところで、1回戦、メグは何のキャラ使ってたんだろ?
相手が選んだのは。
『ガノンドロフ!』
ナディアと、リーファは、ソイツラより、もっと馬鹿にしたように笑った。
「ドリャアだね」
「ドリャアじゃろな」
キッズ御用達の大型パワーファイターだ。
技を振り回して、相手に当たったら、一発逆転を狙えるキャラだけど、スキが多く、ホントに使いこなすのは難しい。
僕とそいつの間にしゃがみ込んでいた、スタッフのお姉さんが、「じや、握手してください」と言ったのを、僕も相手も聞こえないふりをした。
「……両チーム失格にしますよ?」
いい加減キレてたお姉さんに脅され、僕らはイヤイヤ握手。見えるようにスカートで、その手を拭ってやった。
舌打ちを無視し、僕は澄ました顔でモニターを見る。
相手の親が言った。
「りょうちん、ボコボコにしてやれ!」
リーファが言った。
「ベル、そのブサイク、早く退場させて。モテないのが伝染る」
相手が、血相を変えてリーファをニラんだけど、下のまつ毛越しの、凍りそうな視線で灼かれたのと、スマブラのカウントが始まったのとで、慌ててモニターに視線を戻した。
リーファは言い返しただけだから、相手の親は不満そうだけど何も言わない。
実際、もしリーファがブスなら、相手のガキ、踏まれたミカン以下の顔だしな。
『……2,1,Go!』
ステージは、プププランド。
台が3つある、普通のステージだ。
この公式戦は、アイテムありルールだから、お助けグッズがランダムに現れる。
久しぶりにやるスマブラだけど、僕は不思議と落ち着いていた……どころか、なんの不安も無くワクワクしていた。
相手は、メグの試合を見てぼくをナメている。
……だから
『オオオオオ!』
イカツイ魔王のオジサンキャラが、飛び蹴りでスライドして来た。
思ったとおりの開幕・烈鬼脚。
僕は棒立ちのまま、ヒョイと回避でかわし、下スマハンマーで威勢のいい相手を埋めた。
ハンマーの先端を上手く当てないと埋まらないけど、僕はそれが出来るんだな。
そのまま、マッチ横スマで、吹き飛ばす。
宙に浮いたガノンは……
また烈鬼脚。
台の間を縫って、斜めに降ってくるガノン。
僕は我慢できず、裏声で、ラーメン屋の様に呟いた。
「イラッシャイ!」
フルホールドで待ち構えてた、頭突きを合わせる。はじまってから、僕のゲムヲは一歩も歩いてない。
ドパン!といい音がして、オジサン魔王が宙に浮いたところを、ゲムヲの主武器、空N、張り巡らせた魚を当てる。台を利用し、どんどん上に。
ガンガンヒットしてる連続音を響かせながら、台を駆け上がる。1段、2段。
画面の上方向に、ラッパで吹き上げると、ダメージが100%近かったガノンはあえなくバースト。
相手陣営は静まり返った。
しゃがみ煽りや、撃墜アピールは、やられた時しかやり返さないので、代わりに、上強攻撃、ニッコリ顔で旗を右、左の順で上げるのを繰り返す。
ホント、ゲムヲって技の見た目、どれもこれも、ハラ立つんだよな。
僕は、ナディアとリーファに肩をすくめる。
二人は呆れたように口を開けてる。
でも、ナディアママは、楽しそうに笑ってた。
僕はちょっと身をかがめ、手を叩いて跳ねてるメグに指鉄砲を向ける。
メグは、興奮した笑顔で、僕に両手の指鉄砲を向けて来た。
ノリいいな、こいつ。