人類が、不二子不二雄なポーズを取る事は、決してない
四〇インチモニターいっぱいに映ったのは、ガスマスクを被ってる、見慣れたスーツ姿だった。
「……おい」
アタシはパンツにTシャツだし、他のヤツラも似たようなもんだ。
それでも、モニターの上のカメラは切ってある上に、念のため、ペットボトルの蓋を掛けてある。
だからアタシ達は誰も動かずに、目つきを険しくしただけ。
よく見りゃスチール写真だしな。
『おや? 反応薄いですね。渾身の出オチなのに』
「そういうのいらないんデスよ。挨拶もいらないから、とっとと旦那様に代わって」
マデヴを家に差し向けられたりして、恨みコツヅイのメグは、校長に冷たく言った。
画像が切り替わる。
横を向き、Oh,Noなカンジで肩をすくめるガスマスクなものべの写真。背景は真っ青。
全員、イラッとしたのが分かった。
『ご挨拶ですねえ。今から始まる、<正しい男女交際>の開演に当たって、緊張をほぐして差し上げようと……』
「いらねえ。以上。消えろって。ジャス達ちょっぴりご機嫌九〇°だし、煽りに来てんのミエミエなんだよ」
画像が切り替わる。
左手パー、右手は人差し指を立てるという、ジッサイには、およそ人類がとることのない藤子不二雄ポーズなものべ。
血圧が上がる。
すももの深呼吸が聞こえた。
全く気にした風もない、ものべの口調も、ジャスの読みを裏付けてる。
『皆さんもいいカンジにあったまって来たみたいですし、始めましょうか……先生、忙しいから、こんな事してる場合じゃないですしね』
すももが掠れ声でうめく。
「何で年寄りって、突然やって来て、好き放題しゃべってから、『さ、帰るで、ワシ忙しいんや』とか恥ずかしげもなく言えるんだろな……」
そういや、すももンち、オミ…… 客商売やってるって言ってたな。
色々あんだろうな。
ちなみに、『あったまる』って言うのは、ゲーム用語で『頭に来る』って意味だ。
『マイクは双方向のまま……但し、私とのみ。別室の凛くんとほのかさんのやりとりは、音声のみ流します』
へ、ナゼに?
「いや、映像も流してよ? なんの為のモニターなのさ」
アタシの文句に、フフフと笑う、クソ教育者。
『それでは面白くありません。仕込みにどれだけ時間と費用を掛けたと思ってるんです?』
「すももです…… ね、アンタ楽しんでない? 暇なの?」
トゲトゲな、すもものなじりを朗らかに跳ね返す、ものべ。
『じゃないと、バカバカしくてやってられませんでしょ? なあんで、広告に出てくる、四流漫画見たいなことした、ガキどものケツ拭きをやってるんでしょうね、私? すももさんなんか、生徒でもない、赤の他人もイイトコなのに』
……知らねえよ
吐き捨てるすももと、苦虫をかみつぶすアタシ達。
コイツも口立つんだよな、チクショウ。
実際、コイツはクソだけど、凛の希望通りの事をやってくれてるワケだから、あんま文句も言えない。
『ちょうど、別室の準備が整ったようです……切り替えますね』
ボッという雑音の後で、聞こえてきた、アイツの声。
『校長、聞こえてます? マイク入ったんですか?』
凛!
旦那様!
聞こえるはずもないのに、叫ぶアタシ達。
じわっと、目の辺りが熱くなる。
映画のスクリーンに向け、キャーキャー言ってる奴らをネットで観て呆れてた自分が頭をよぎる。
んなこと、言ったって、しゃーないじゃん。
めっちゃ好きなんだもん。
そんなアタシ達に気づかず、相棒は喋り続ける。
『……わかりました。えーと、ほのかさんのパパ、ママ、初めまして。僕の名前は凛、小六です』
「ハァ!?」x4
怒号がキレイにハモった経験は、初めてだ。
「旦那様、何で、初対面の女の両親に挨拶してんですかっ」
びっくらこいて、シビれてたアタシらの中で、メグが真っ先に喚いた。
……うん、四人も、志を同じくするヤツらがいると、捗るワ。