ホムラ派
「あー、これは風邪ですね。明日死にマス」
荘厳なオペラ座 ーっぽい所ー で、僕はピアノの前に座ってる、白衣を着た美女に向かい気の抜けた返事をした。
「あー……そうなんだ。学校に体操服忘れてるんだけど……ま、いいか」
観客はいないのに、客席まで明るい。
優しそうな眼をした、赤のショートヘア。
今気づいた。
んだよ、ゼノブレイド2のホムラじゃん。
実は、僕、スゴイ、タイプなんだよね。
おっとりしてて、優しくて……
もし、目の前にいたら、そばにいる友達を、照れ隠しに殴るレベルの好きさだ。
だって、そんな女子見たことないんだよ、3Dで。
なのに、なんでか、なんの感動もないままぼんやり眺めてると、ホムラが怪訝そうに顔を上げた。
「なんですか?結婚します?」
え、ホント?
僕は、はい、と即答しかけて、なんか引っかかった。
えっと、ホムラを、お嫁さんにして問題なかったっけ?
頭が回らない。
おむすびころりんすっとんとん
聞こえてきた歌の方に顔を向けると、スマブラの小戦場ステージの台の上で、オリガ達が大縄跳びをしていた。
ナディアとリーファが縄を回している。
「凛、入る?」
リーファが、こっちを見ずに声をかけてきた。
「いや、いいわ」
僕が返事すると、ホムラが言った。
「全く情けないですね」
振り向くと、ホムラの代わりに、何故か白衣を着た、リーファパパが座って、首を振っていた。
「そんな事だから、私との結婚生活もうまく行かなかったんだ」
そだっけ?
神経質そうに、ピアノの譜面台を指で小突きながら、僕をニラむ。
「私はプロポーズする際、君に言った筈だ。『残念だったな!』と」
「……思い出した。そうだったね、ゴメン」
そうだった気がして、僕は何となく謝った。
取り合わず、リーファパパは、スマブラで、ドクターマリオが投げてくるようなデッカイカプセルを持ち出した。
「飲みなさい」
僕の顔の二倍はあるそれを、顔にグイグイ押し付けてきた。それで、ようやく感情らしきものが芽生える。
「イダイイダイ! 痛いって!」
ホッホー、とかムカつくマリオ声を上げる、リーファパパの向こうから、縄を放り出した三人が駆けてきた。
3人立ち止まって、何故か手をつなぎ、ニコニコしながら僕らを見守る。
「助けようよ!?」
グイグイと押し付ける力は止まず、僕は、喚いた。
「無理無理、イダイ!せめて水!」
「……はっ!?」
何かに弾かれ、僕は仰け反った。
一瞬視界に空が映り、腕に衝撃が走ってまた、オデコを何かにぶつけた。
……イッテェ
無意識に首をさすろうとし、自分の手が縛られてるのに気付く。
見回すと、たくさんの赤色灯が目に入った。
……え、パトカー?
そう、何台ものパトカーに僕は囲まれていた。
一瞬で目が覚めた。
突き抜けるような青空が、不似合いすぎたから。
不気味な振動を、僕のお尻から伝えるゴツいバイク。
朝日を反射する、黒と白のボディカラー、
『POLICE』の文字に、僕は自分の目を疑う。
そして今、気づいた。
ここは高速道路。
僕の手首、そして両足の甲は足置きに、ガムテープでグルグル巻きにされてる。
僕の手が巻き付いてる背中が、言った。
リーファの専属ボディガード、ユンファさんの声で。
「お目覚めか、林堂? 状況は……最悪だ」