第二章 四タテ少女(3)
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
「ウチに話があるそうじゃの?」
朝イチ、校門で待ち伏せしてたのか、ナディアが開口一番そう言ったのでビックリした。
ピンクのフードを脱いで、肩までの黒髪と口許が一緒に見えてるのは新鮮だな。
「……『わし』の一人称そういえばやめたんだ?」
「いつの話しとる」
顔を少し赤くして僕を睨む。
「まあ、話ある。昨日の……」
「分かった、組んじゃる」
「早いな!……ジン、何その生温かい目」
「いやいや、よかったなあ!おいす、コウタ!」
通り過ぎてく、下級生達にいい顔で挨拶するジンからナディアに眼を戻す。
僕は、一番最初に聞くべきだった事を聞いた。
戦闘力以前にもっともっと大事な事。
「ナディア……まず、switch持ってる?」
ナディアは何故か誇らしげにフフンした。
「心配無用じゃ。明日には届く」
「そこから!? 心配で死にそうだよ!」
「案ずるな。ウチの横Bからのファルコンダイブ見せちゃる……今日、日直やけん」
そう言ってかっこよく背中を見せて、ヨタヨタと歩き始めた。
「……ナディア、ケガしてるの?」
「く、来るな!ちょっと昨日、お尻打っただけじゃ!」
シッシッってされた。
大声で、済まないこと言わせちゃったな。
大阪市内にしては、広い運動場に、風紀委員の声が響き、4月の空に吸い込まれていった。
「…落とし物の消しゴム、心当たりのある人は、この後、朝礼台まで来てください。次は校長先生のお話です」
ボッ、ゴトゴト、と音がして、初老の山みたいな体格の校長がマイクを持った。
「あー、おはようございます、校長のものべです。いきなり最後になりますが、くれぐれも時間、お金を損せず、割に合わない事を避けましょう。そうすれば、みなさんもわが校もハッピーです」
ボソボソと呟き、メガネをついっとなおす。
背中を丸めて朝礼台を降り、校長先生のお話でした、の後で解散になった。
校長、時間を大切に、を実行するので、生徒から人気だ。
確かに、損得を突き詰めたら、いじめもケンカもなくなる。
ジェイクの時がいい例だ。
まあ、この学校は色々、変わってるけど。
ワイワイ好き勝手に教室に向かう生徒達の向こう、校門や、運動場のあちこちに警備員が立ってるのが見えた。
ほとんどが、外国人のおじさん、おばさんなんだけど、みんな、あんまり瞬きしなくて、腰の後ろに見せつけるように拳銃を突っ込んでる。
校長は、
「水鉄砲です。アサガオについてる虫の駆除に便利ですね」
って言ってるからきっとそうなんだろう。
「林堂ぉー!」
テンションの高い女子の声にびっくりして振り向くと、昨日の、女子たちがガッシリとナディアの両脇を
抱えて笑ってる。
「コイツ、勝手にswitchポチッて、ママにお尻ぶたれたんだって!」
「わーっ、わーっ!」
ジタバタしながら、ナディアがかき消そうと喚いた。
アイツ、なんつー事を!
「それ、ヤバすぎだろ!?」
僕とダベってた、ジンが仰天して叫んだ。まわりも、振り返って笑ってる。
厳格なイメージのあるナディアがそんな無茶するとは……
僕は慌てて小走りに近づいた。
赤くなってるナディアが逃げようともがいてたけど、諦めて恥ずかしそうに目を伏せた。
僕は小声の早口で言った。
「お前……それ、ヤバいっしょ」
明日届くってそれか。
「わしゃあ……ウチは広島じゃけん、約束は守るの!」
「いや、ってか、Amazonだろ?お母さんにキャンセルされてるよ今頃」
まあ、未遂の方が全然いい。
「それは大丈夫じゃ」
急にフフンする。なんだ、コイツ。
「マ……オカンに友達が困ってるきに、必要なんじゃ、言うたらあっさり認めてくれた」
「え!そなの?」
心広いな?
周りもうんうんと頷いてる。
「でも、やった事とは別じゃ言うて、その後また、お尻ぶたれたけんどな……」
弱々しく呟くナディア。
僕より小さな体がションボリすると、よけい小さく見えた。
僕は、急に胸が熱くなった。
決意を込め、一歩ピンクの服に近づいた。
佐竹が慌てて周りになんか配ってる。
僕はナディアのうなだれる肩に手を置いた。
その柔らかさにびっくりしたけど、ナディアのほうがもっとびっくりして僕を見た。
佐竹達が鼻息荒く、ショリショリ何かをかじり始めた。
うまい棒だ。
無視した。
「ナディア……今まで気づけなくてゴメン」
僕は彼女を見つめ、彼女は瞬きもせず僕を見つめた。
体を強張らせ、少し怯えた顔で、ギャラリーショリショリうるさいなちくしょう。
「そこまでしてでも……僕と二人きりに」
佐竹達が、闇試合の観客のようなヤジをとばす。
「イイヨーイイヨー」
「そこだ、殺れ!」
縮こまって唇を震わすナディアに、僕は優しく言った。
「……なってでも、大会に出たかったんだな」
一瞬の静寂。
盛大なため息と、
……oh!
アッラー!
ガールマドンナ!の合唱。
「へ?」
見れば、警備員まで集まって来てた。
「何?……うわっぷ、何すんだ、オマエラ!」
「アカンでこのチビ」
「アカンでこのヲタ」
「アカンわこの中華ダルシム」
うまい棒の包装を投げつけてきた佐竹達は、ケッと吐き捨てゾロゾロと歩き出した。
何で、校長まで首振ってんの?
「い、いや、ムスリムクラスの女子が男子と遊ぶって大変な事だろ!?」
「凛、チガウ、そこじゃない」
ジンがばら撒かれた包装を拾いながら嘆いている。
僕も慌てて手伝おうとしたら、
「そ、そうじゃ」
ガチガチに震えながらナディアが、裏返った声で言った。
「わしゃあ、大会に出たいんじゃ……自動崖掴まりしか知らんジャリ共をヒザで飛ばすんじゃ!手!手!」
「あ!ごめん!」
慌てて、手をのけると、自分の両肩に手を置き、
「そう言うわけじゃし」
とか言って、ギクシャクと去った。
僕とジンは、教室に移動する群れの最後尾。
うまい棒の罪で先生達に捕獲される佐竹たちをぼんやり眺めながら思った。
ナディア、あんな無茶してまで大会に出ようとしてるんだ、がんばらないと……
そして、まず大阪大会突破だ!
「あと一人だな、凛」
そうだった。