表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/1079

そういうのイイッスよ






 救出……された少女は6人だった。


暗く、黴臭いガラクタだらけの倉庫を、アジズ達が覗き込んだ時は全員が悲鳴をあげた。

 


 恐る恐る、梯子を登ってきた彼女達は、閉じ込められていた場所からは想像出来ないくらい、綺麗な身なりをしていた。


最新式の韓国製家電が並ぶ、広々としたダイニングで、心細げに並ぶ彼女達を、LEDライトが照らす。ハスマイラが、全員をボディチェックする。

 

 年齢は、10代前半から半ばまで、人種は、中東系が4人、白い肌の少女が2人いた。


 最も年長らしい、ショートヘアーで背の高い少女が、開口一番、ウルドゥー語で言った。


「あなた方は誰です?ご主人様は?」


 血色もよく、派手で、露出が多いとはいえ、身なりも整っている。奴隷の様な、と言う形容は当てはまらない。


私も含め、隊員達、全員、スカーフで顔を隠している。


 理由は簡単だ。


彼女達は、私達を売る可能性が高い。


 私が通訳すると、チャドルで顔を隠した、ハスマイラが日本語混じりの英語で答えた。

語尾のッスのみ日本語だ。


ご主人様(マスタル)?君たちを攫ったゴミの事っスか?ホラ」


 ジェーンとアジズは、引き摺って来た、虫の息のシンを、磨き込まれた大理石の床に放り出した。


 少女達が悲鳴を上げる。


 年長の少女がシンに駆け寄って、意識の朦朧とした、主人の名を叫ぶ。


 ハスマイラが、その少女の腕をひっつかむと、


「そういうのイイッスよ」


 手荒く引き剥がして立ち塞がった。


 現地語で罵声を上げる、少女の目を覗き込むハスマイラ。


「私達は、悪党に天罰を下してまわる正義の味方ッス。君達を助けに来ました」


「私達は、ここで幸せに暮らしてます!おかしな事を言わないでください!」


 やはりな。


 誰も驚かなかった。


 完全に洗脳されている。


 というか、そうでなければ精神が持たなかったろう。


 誘拐犯に同調し、好きになろうとする事をストックホルム症候群と言う。


いじめられっ子が、イジメっ子を好きになろうとするのと同じで、事なかれ主義の拡大版だ。


 シンが、哀れっぽく、ガラガラ声でいった。


「そのクレアは、去年、クエッタのスラムから私が連れてきたんだ……親が売り飛ばしたんだよ」


「そうです、私はご主人様に出会えた事を、神様に感謝してます。体を売るしかなかった私に、こんなに良くして頂いてるんですから!」


 ご主人様……


 少女の一人が呟く。


 ハスマイラは、無表情に言った。

 

「それはそれは。遠慮はいらなさそうッスね……んで、クレアさん」


 ハスマイラは、彼女の肩に手を置いて言った。


「突っ込まれたのは、いつッスか?」


 少女が凍りついた。


「それ、体売る相手がこのデヴに、固定されただけですやん。声優が、仕事貰うために、ディレクターと交際するって言うのとおんなじッスよ」


 そこから、ハスマイラの声が低くなり、少女と、そしてシンが、横っ面を叩かれたような顔になった。


「まァ、クレアさんが、それで良かったらどうぞ。んで、ここにいる女の子全員、親から買ったんスか?……オマエに聞いてんだよ、デヴ」


「いや……それは」


「未成年に突っ込んどいて、何、聖人ヅラしてんだ、ボケェ!」


 ハスマイラの怒声を受け、アジズが、嬉々として、シンの横腹にブーツを叩き込む。

シンが、胃液を吐いた。


 少女達の悲鳴。


「んで、皆さん(ガールズ)、この屋敷は無くなるし、このクズは遠くへ旅に出るっス。外にこいつの仲間の死体が沢山あるので、ゆっくり見てってね!」


 少女達が、目を見開いた。


そうだ、長期間、囚われた人間は、自由を与えられてもどうしていいか分からない。


 だが。


 彼女達は、自分の意志で、告発する必要がある。


でなければ、我々が去ったあとで、この事件は国家によって、無かったことにされ、次のシンが現れるだけだ。


 ハスマイラは、チャドルの頭部を外し、素顔を晒した。


 さっきの情けない姿など微塵もない。


 大きな不幸を乗り越えた者だけが持つ、何かが突き抜けた、透明感を纏っていた。


少女達を見回し、ゆっくりと語りかける。


「私は、昔、レイプされかけた事があります。ついさっきも、こいつの部下達全員にマワされるところでした……

みんなの見てる前でね。


 以前、襲われたかけたあと、私は家に引きこもりました。


そしてわかったのは、自分を助けてくれる人がいても、自分が拒絶したら、ずっとそのまま苦しみ続けると言う事です」


ここで、ハスマイラは言葉を切って、少女達の顔を見回した。

みんな整った顔をしているが、明らかに目つきがおかしい。


 ストレスで、目が据わってしまっているのだ。


 敵意のあった少女達の心にヒビが入るのが分かった。


 ハスマイラは続ける。


「……辛かったね。私にはあなた達の気持が、全て分かるとは言えないけど、ここに分かる人を連れてきました-ゼル、入って」


 ややあって。


 確かな足取りで、都会的な模様のチャドルを着けた少女が、扉を開けて入ってきた。


 おしゃれなサンダルと、ジーンズが裾から覗いているのを、左手に比較的新しい、iphoneを握っているのを、少女達がガン見する。


 女の子はおしゃれに弱い。


 今、彼女達が着せられている服は、露出の多い、シン達の趣味だ。

少女達が着たがるようなものではない。

 これで、里心が付けば、やりやすくなる。


 アジズが見つけてきた、女優の卵は、毅然とした様子を作って言った。


「私はゼル。クエッタで、あなた達と同じ境遇でした」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ