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言葉よりも

私は頭が真っ白になった。


携帯電話による遠隔操作。コードは切ってない。


娘の顔が頭をよぎった。


済まない、梁 梨花。我が娘。


お前の友達を守れなかった。


……だが、携帯は電子音を吐き出し続けている。


……間に合うなら!


私は、銃を捨て、低い姿勢で飛び出した。


私の身体で何処まで爆発を遮れるか。


どうせ死ぬなら、娘が胸を張れるような死に方をしたい。


「部屋から出ろ!」


肉迫する私に驚いた猫が、暖炉に飛び乗ろうとするのを、頭領が素早くひっつかむ。

なんの迷いもなく、流れるようにコードにナイフを走らせた。


私は悪態をついて、方向を変え、林堂君に飛びついた。押し倒し、オリガ君にも覆い被さる。


汗と石鹸と、砂の匂い。私は歯を食いしばり、その衝撃に備えた。


……


赤シャツの声が聞こえた。


「極東の英雄サラディンよ。心配ない、ギャンブルで、 ー神よ、赦し給えー アリーに負けはない」


着信音が止まった。

身体の下でもがく、二人を無視して振り返ると、

頭領がコードを巻いたままの携帯を耳に当てていた。

「アロー、マフディ……………誰だい、アンタ?……なんだい、切れたよ」


視線で問う私に、頭領が怪訝な顔で言った。


「『あなたの行動が、あなたの言葉を裏付けた。孫達を見るがいい』……どういう事だい?」


二秒後、私は理解した。

全身の力が抜ける。


……ジェーンの仕業か。人騒がせな。


発振器から、すべての会話を傍受していたのだろう。


私は、押し倒した二人から退くと、座り込んだまま、壁に凭れた。

抱き合うように倒れていた二人が、慌てて離れた。


「林堂君。取り込み中悪いが、頭領に説明を」


「やめてくださいよ、もう……」


林堂君は私に向かって、くちばしを尖らし、そして、誇らしげにスマホを頭領に差し出す。


「ごめんなさい、お婆さん。写真を見てた時から、ナディア達に、ずっとLINE、繋いだままでした」


呆然とスマホと林堂君を見比べる頭領。


林堂君に再度促され、こわごわといった調子でスマホを受け取った。


スマホと向き合う頭領。


暫くの沈黙のあと、スマホはこう言った。


「………母さん」


頭領の手が震えはじめ、光るものが目に浮かんだ。


お互い、その後の言葉が続かない。


私は理解できた。


誤解させようとしたのはマフディだ。

悪い方に取り続けたのはアリー達だ。


謝罪はおかしい。

かけ違えたボタンは、どちらにも責任があるのだ。


その時女性の声が聞こえた。


「Ali,mother in low must be tired. Call another day(アリ、お義母様は疲れてるでしょ。別の日にしましょう) 」


頭領の震えが大きくなった。


カオリ


頭領の口だけが動いた。


そして日本語。


「そうじゃ、婆ちゃんつかれとるけん」


オリガ君が嬉しそうに英語でそれを翻訳した。  


グランマ、を強調して。


堪えきれない様子で、頭領は天井を仰ぎ、スマホを胸に当てた。頭領が、とめどなく流す涙を見て、オスマンも顔を覆って泣いた。


オリガ君も泣き、林堂君は私を見て嬉しそうに頷いた。


私は溜息をついた。


ジェーン、いいとこばっかり持っていきやがって。






やっとラヴがぶっこめる……

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