貸しはあっても借りはねえ
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。
幼なじみを護るため、父から、戦闘訓練を受けて育った。
任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 健一 （リャン・ジェンイー）
もう一人の主人公。日本名、橘 健一。リーファの父。台湾人。民間軍事会社の社長で、梁財閥の長男。リーファを溺愛している
梁 梨花 （リャン・リーファ）
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公・林堂凜の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
ハスマイラ
二〇代半ば、女。梁の部下で、リーファの護衛。梁に惚れているが、今のところ、特に進展はなし。
左舷組長
産廃とガソリンの密輸を生業とする、黒山組の組長。
四〇前、サーファーの様な見た目だが、昔気質の気合いの入った、極道。
左舷蝶々
黒山組の娘。勤労少女。年齢は十八。がんばると、周りの物が壊れる呪いに取り憑かれている。
以前、エディにガソリンを積んだ軽トラで、特攻させられた。
米沢
日本有数の巨大芸能プロの御曹司。リーファにチカンを働き、梁にシメられ、その後仲間になった。エディに主人公のいる小学校に、ガソリンを積んだトラックで、特攻させられた。
王
梁の最古参の部下。スキンヘッドの大男。リーファの叔父に当たる。
チャン
蛇頭の元締め。以前、HAZEに雇われ、裏切ったエディ達に撃たれた。
大人
犯罪組織、HAZEの元締め。リーファの祖父。梁に根深い恨みを持つ。
エディ・田中（五代）
五代珠乃の、血の繋がらない父。犯罪組織、HAZEの創始者。
ヤクザ、中国マフィア、警察に追われていた。梁家を付け狙い、その関連で、主人公たちと関連する人物を無差別に襲っていたが、現在は休戦中。
ジェーン
梁の相棒。伝説の工作員。
「アンタ、何てことを……！ ハス！」
廊下の向こうで、本部に指示を出している筈の彼女に叫ぶ。
回線の向こうから、どろどろした声が唸った。
『な、慌てまっしゃろ、他人の娘でも？ 自分の娘やったらどんな気持ちになります？』
私は歯嚙みする。
小学校まで電話を掛け、なんらかの言い訳で珠乃を呼び出したコイツを、責められるか？
……SGを攫われた際、対抗するため、私はチャンの妹を捕らえた。
私は、本来なら罪のない、チャンの身内を巻き込んだわけだ。
先日は先日で、
『テメエッ、娘、刻んで売られる覚悟は……』
捕らえた蛇頭の総元締めがそう言った瞬間、ドリルで体中を穴だらけにしてやった。
クズが娘の事を口にしただけで、自制が効かなくなる俺に、エディの娘を巻き込んだコイツを、責めることが出来るか？
俺は思わず口調を崩した。
「わかる！ 俺なら多分、もっと汚い手段をとるかも知れねえ！ だから頼んでるんだ、珠乃には手を出すな！」
しまった、エディの娘の本名を言っちまった！
淀みなく、返ってくる組長の低い声。
『＜蝶々には手を出すな＞…… 同じ事を、なんであの時、エディに言うてくれへんかったんです？』
「あの時は敵だったんだよ、そう言ってるだろうが！」
『今はあいつ側やろがい！』
割れ鐘の様な怒声が、逆に俺を冷静にした。
「……そうかよ。礼儀はつくしたぜ？ それと、米沢には『これ以上クビを突っ込むなら、死んでも知らんぞ』と一度解放した時点で忠告した。それを承知で戦場にとどまったのはヤツだ」
完全に仕事モード、黒スーツのジャケットを羽織りながら歩いて来る、ハスマイラ。
無言の電話相手に、聞こえるように指示をする。
「珠乃を護れ。エディは知らん…… 助けた後、蝶々には二度言った。正直邪魔だ、家まで送るから帰れ…… 頑として聞かなかった」
『……デカイ声なんざ出すもんちゃいまんな。タマノちゃんのお仲間がゾクゾク出てきましたワ…… なら、蝶々が、ガソリン積んで、そちらの倉庫に突っ込まされたケジメを……』
組長の言葉が尻すぼみになった。
「そうだ、気づいたか？ 本来なら、俺の倉庫にガソリン積んで突っ込んできたケジメを、アンタ方に取らせるトコだ…… 立場をはっきりさせとく」
俺は、スウェットの上下のまま、玄関に向かう。着替えは車の中でいい。
「……米沢も含めて、アンタ達に、貸しはあっても借りはねえ…… どのクチで、誰にカマシこいてんだ？」
『……その通りです。失礼しました』
無駄だ。しおらしくしたトコで、割れた皿は元に戻らねえ。
「立ち位置がハッキリしたし、これで良かったんだろうよ。珠乃に手を出すなら、そっちにも相応の覚悟をしてもらう。エディは関係ねえ。俺の娘の友達だからだ」
『それはエディ次第ですわ…… 待たせたな、珠乃ちゃん…… せや、君のオトンと話がしたい。そこの家から覗いてる、ボケたふりしとるジイさんと、ヤバそうな軽トラ、下がらせや……ホレ』
周囲の悲鳴と、源ジイ、朴ジイ、下がれって珠乃の怒声。
『こっち来てくれるか？ トランクの中味はガソリン詰まったペットボトルや。君が来んかったら、右手で起爆する。俺を撃ったら、左手のパイナップルがハジける。逃げる前にみんな死ぬ』
「左舷……！ ハスマイラ、先行部隊の現着は！？」
「５ミニッツ・アウト！」
聞こえるように、そう叫びながらも、一本指と、指で作ったわっかを並べる。
実際には、一〇分かかるのか。
俺は、スニーカーをつっかけたまま、ドアを飛び出す。
廊下も保安のため、建物内だ。
強化ガラスの向こうに見える青空が、何事もなく見下ろしてくるのにムカついた。
なんてこった、あっさり死ぬ腹を括ってやがった。
これだから、任侠の徒はやりにくい。
スマホから流れる淡々とした声に、俺は廊下を駆けながら、冷や汗を浮かべるしかなかった。
『俺がここにおんのは、損得やない。極道としてのケジメや…… 梁さん、悪いけど、後はエディ次第やで？』
快晴の下、俺達の乗ったハイラックスサーフは、国道を疾走する。
この時間帯、混雑がないのが救いだ。
後部座席、隣のハスマイラが、タブレットを操りながら言った。
「ボス、一番早いのは通報する事ッスけど……」
「エディと珠乃の身許が調べられて、一巻の終わりだ。左舷のヤツ、通報されない読みの特攻だよ」
「ッスよね。タンゴの頭、撃ち抜きますか？ 珠乃ちゃんなら、パイナップル処理できそうッスし」
タンゴ。
今まで、仇だったエディの身内をかばい、今度は、共に死地へ走った黒川組を、敵扱いだ。
ネコの目の様に、くるくる変わり続ける、俺達の立ち位置。
正直な所、もう組長に腹は立ててない。
もう、だれが被害者で、誰が加害者なのかわからないからだ。
……考えるのは後だ。
「そっちは、エディに任せる。それより組長にも、娘がいることを、思い出させてやるのが先だ」
(* .ˬ.)) 今日も、お付き合い頂き、ありがとうございます。
毎日深夜0時過ぎ、週7更新を目標にしてます。
宜しくお願いします！
