第二章 四タテ少女 ~スマブラSPは、大体3ストからだけど、スマブラDXは、基本4スト~
「…はあ」
僕はため息を漏らすと、202☓年「スマッシュボール杯小学生団体戦」とチラシを指で軽く弾いた。
ジェイク達とモメてから、1週間。
大阪にある、僕の小学校の、昼休み。
イイ顔で写ってる、小学生スマブラーや、観客たちの写真を見てると、歯がゆくて、たまんない。
「個人戦なら、絶対負けないのにな」
ぼくのボヤキは、昼休みの教室じゃ、騒がしさに紛れて、誰にも聞こえなかった。
この大会に出るには、小学生三人で申し込む必要がある。一人だけ上手くても勝てない。
そして、あと二人が、本当に見つからない。
あのケンカ以来、ジェイクは、スマブラやめたらしい。
今はオンラインで、一緒に別ゲーやる仲だ。
……スマブラってさ、友達に負けたくないけど、じゃあ仲イイヤツに、勝って嬉しいかって聞かれたら、微妙なんだよな。
「スマン、遅れた」
手をズボンで拭きながら、僕の親友のアラディンが、席につく。みんなジンって呼んでる。
コイツもインドネシア系。
背が高く、ハンサムで、イイヤツだから人気がある。
ジンが、給食のコッペパンを手に取ると、班のみんなも食べ始めた。
「ジン、なんか元気ない?」
「……また告白された」
「はぁっ?マジ!?」
同じ班の四人がピタリと会話をやめて、野獣のように眼をギラつかせた。
芸能レポーターと化した、ぼくらの半笑い質問ラッシュに、暗い顔でクラスのリーダーは言った。
「マジついてねえ…せっかく友達だったのにしゃべれねえよ」
ボクは同情を込めて、しみじみ言った。
「モテるなんて、ほんとついてないなあ、ジン」
同じ班の女子が言った。
「そんな言い方、レイカかわいそうじゃん。林堂、妬んでんの?」
「…本気で言ってる?」
僕は驚きのあまり真顔で言った。
「ジンにフラれた奴ら、『もう一度告白してもいいですか? あなたに好きな人ができる前に……』とか、病みツイートするから、ジン、こうやって自爆してんじゃんか!
妬む? 頭大丈夫? お前らの『ゲヘヘ、あの教育実習の玉岡、女おるらしいで!もうヤッたんかな、な? な?』とかいう、キモい会話を、なんとかしてから言え!」
言い負かされた時の定型文、何よ!先生に言うでー!を聞きながしてると、ジンが言った。
「そういう凛も、元気ないな…ああ、それか。団体戦だから、三人いるもんな」
チラリと見せたチラシをしまいながら、僕はうなずいた。
「FPSだったらなあ……悪いな、役立たずで」
僕は何でもできるクセに、やたらと人のいい、親友に言った。
「なんで、お前が謝るのさ…」
その時、背中に巨大な気配を感じ、反射的に、最後の楽しみに残しておいた、プリンを手にした。
振り返って、一六〇センチをゆうに超える身長の上にある、関取の様な顔を、静かに見上げる。
僕は、一回口に入れたプラ製のスプーンを、プリンに突き立てつつ、言った。「なんだ、アンナ。ダイエット中なんだろ? 隣のクラスまで、プリン狩りすんな」
僕の倍の、体重はありそうな体を、ふんぞりかえらせて、辛うじてスカートが女だと教えてくれている、アンナがいった。
「お前バカなの? だから、今日は3個しか食べてないの。まあ、いらないってなら、イヤイヤ仕方なくもらってやるけど……」
ドン引きしながら、僕はプリンより、スプーンを、慌てて隠した。
「冗談よ。ナディアに呼んでくるよう頼まれた」
「……は?」
放課後。
廊下を歩きながら、ニヤニヤ笑うジンが言った。
「とうとう、凛にも春が!? どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」
並んで歩くと、ジンは僕より頭一つ高い。
「うるさい、シバくぞ」
不幸仲間が、増えるかもだから、ジンは上機嫌だ。
「そもそもナディアだぞ? 集団リンチの方が可能性高いだろ?」
「んー、普段は、大人しいらしいぞ? それに、もし告白だとしても、ナディア本人はないだろ。
呼んでる奴と、告る奴とは別がジョーシキだしな」
4組、外国人クラス、大半がイスラム教徒のためイスラムクラスって呼ばれてる。
他クラスとの交流は殆どない。東南アジアと、中東からの、出稼ぎの両親を持つ子供が、大半だ。
「で、放課後にしてってアンナに返事してたよな? 凛」
僕はとても、イイ顔をしてたろう。清々しく言った。
「行くわけないだろ? 帰ってapexやろーぜ」
「お前それ……最高。じゃ、鹿島ン呼んで…… え、俺?どーしたー、オスマン」
廊下に溢れ返る、帰り支度の生徒に混じって、硬い顔で招き猫の、逆の仕草をしてた、オスマン。
慌てて、ジンに向かって、しーっ!てジェスチャーをした。
「ジン……先生、呼んでる」
「……何故に?」
凄く言いにくそうに、オスマンが言った。
「さっき、松本、お前にフラれて泣いてたろ?
そン時おった女子らが、お前が泣かしたって、先生に……」
「ふざっけんなあああ!!」
温厚で、心の広いジンが、ガチギレするとこ、初めて見た!
けど、神様だって、キレるよな、これ!?
僕らはビビリながらも、逃走を勧める。
周りの生徒達が何事かと、見てるから、もう遅いかもだけど。
「ブッチしたら、明日授業潰して話し合いだろ?それこそ、晒しモンじゃねえか!」
僕らは呻いた。
そうなのだ。
話し合いという名の拷問。
しかも内容が、内容だから、絶対笑われる。
コロす、そして俺も死ぬ!
とか、相手が喜びそうなことを喚きながら、オスマンと会議室に向かうジンを、僕は悲しく見送るしかなかった。
その時。
誰かが、ポンと僕の肩に手を置いた。
上品な、お香の匂いに、僕は固まる。
両脇に黒ずくめのチャドル(イスラム教徒の女性がスッポリかぶる、眼だけ忍者みたいに出した服だ)を着た女子達が立っていた。
「計画どおり。いこっか少年?」