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最終話 ちょっとそこまで




通訳の話を聞いて親戚が更にわめき出した。


完全にキレてる。


「フザケるな!オリガをそんな危険な仕事に就かせられるか!もういい、コイツには私の家で母の介護の仕事を充てがうつもりだった!帰るぞ、支度しろ…おーおー、最初からそう言っときゃいいのに」


完全に虚をつかれたオリガ。


立ち直ると、親戚に喰ってかかり出した。


肩越しにわめき返す親戚。

僕らにはわからない言葉で激しくやりあう二人を通訳はニヤニヤしながら見てる。


「キリねえな…お館さんに聞くとこだろソコ」


通訳が声をかけ、スマホをかざすと二人ともピタリと言い争いをやめた。


親戚は苦虫を噛みつぶしたような顔で、自分のスマホを操作した。


LINEの呼び出し音。パキスタンでも通じるんだ、LINE。


親戚が早口で喋り始めた。


感情剥き出しでわめく。


緊張した顔で、見ていたオリガに、スマホを突きつける。


オリガは、子供がほしいものをねだるみたいに、強い口調で拳を振り回していたけど、だんだん元気が無くなっていった。


ショボンとした顔で項垂れる。


通訳がウンウン頷いてる。

僕らが見てると、気がついたように言った。


「オリガの家族とお館さん、遠い親戚なんだ。おかしな仕事につけられるかって言われたんだろ、多分」


僕は反射的に言った。


「ぼくの勝ちはどうなるのさ」


「知るかよ。他のにするんだな。ついでに言やあ、俺もアリ家とは遠縁なんだ。このガキも他人じゃねえ」


「なら、日本であんた達が彼女を雇ってくれ」


オリガと通訳が振り向いた。


それを意識しながら、一気にまくし立てた。


「あれもこれもだめなんだろ?じゃあ、それくらいしろよ。契約は今日までだっていったじゃん。ホントはこっちも、言う必要なんかないのに、伝えたんだぞ?」


通訳が顔をしかめて、親戚にそれを告げた。


親戚はいまいましげに、ぼくを睨みながら、スマホに喋り続ける。


小さい子みたいに、親戚のスマホに耳を近づけていたオリガが、はっとして言った。


「…リンドウ、お館サンが代われって」




「ウチのオリガを、ズイブンな目にあわせてくれたそうダネ……って言ってるヨ、ゴメン」


僕は怯まなかった。


胸を張って言った。


そのためだけに全力を尽くしたんだ。


「勝負でしたから。1ミリも手を抜かずに戦いました」


オリガは一瞬微笑むと、それを告げる。


狭い控え室にぼく、ナディアとリーファ、オリガと親戚。


鏡台に置かれたスマホをみんな見ていた。


通訳は暑苦しいと言って廊下でタバコを吸ってる。


「話は聞いた。お前の言う事も分かる。何より、勝ったのはそっちだからね。で、オリガの生活費とギャラ、いくらかかるか、わかってんのかい?」


「だから、こっちで働くっていってるじゃないですか」


「勝っ…ゴメン、そんな道に外れた仕事で、オリガを不幸にしたいのか?勝手に不幸になるって決めんナ!……言っとくが、オリガには、暗い仕事をさせたことないよ」


出端を挫かれ、僕は言葉に詰まる。


そこは一番痛いとこだ。


リーファ自身も家業を嫌ってるし、ナディアも同じ。


完全に読み間違えたのは、お婆さんたちが、凄くオリガを大事にしてた事だ。


「……僕らは、オリガと一緒に遊べたら、他には何にも望みません。そもそも……」

子供が働くって……


これは言っちゃいけない。


「そもそも、僕ら子供は、遊ぶのが仕事だし。お婆さん達が、オリガを大事にしてるって、よくわかりました。なら、オリガが同級生と、一緒に遊ぶのを見たくないですか?僕の学校のヤツらと、凄く仲いいんですよ」


お婆さんが顔を歪めた。


親戚も自分の服を、バンと叩いて頭を抱え、背中を向けた。


そうか。


この人たち、オリガの幸せを第一に考えてるんだ。


だから、苦しんでる。


僕は、意を決して言った。


「お婆さん、もう一度、ぼくと話し合いませんか?オリガも言ってたけど、僕は、そんなにあなた達が、悪い人には思えないんです……ナディア、分かってる、仲直りしろって言うんじゃない。ただ、僕が知りたいんだ。なんでこんな事になっちゃったのか」


驚くナディアをとどめ、戸惑うオリガに頷く。


お婆さんは、画面の向こうで、人差し指を足もとに向けて言った。


「なら、ここに来な。私の目の前にね」


僕の全身に電流が走った。ナディアが大声を上げる。


「台湾にいるなら、パスポートは問題ないね? ちょっ…オリガの事もここに来て、私に頭を下げて頼み込め。そうすりゃ、南極にでも住まわせてやるさ。それくらいのガッツを見せろ。口だけならなんとでも言える……ってお館サン!」


僕は久々に笑った。心の底から。


最高だ。


オリガを地獄みたいな目に合わせた、帳尻が合う!


団体戦の出場権をゲットした時よりたぎって来た。


僕はまばたきもせず、底知れない圧を感じさせるお婆さんの眼を見据え、口もとを吊り上げた。


もう取り消せないぜ?


「言いましたよ?……いや、ユー セイド ザット」


「一族に二言はない。私の気が変わらない内に決めな。来るのかい?……イクナ、バカ!もうすぐ大会ダロ!?」


僕は画面に向かって大きく頷き言った。


通訳の必要が無いように。

間違いなく伝わるように。



「イエス。アイ、ゴー」



「アホー!」


三人が声を揃えて叫んだ。



『……もしもし、父さん?ちょっと、お願いがあってさ。なる早で行きたいとこあるから、付いてきてもらえない?……ナディアの実家。いや、滋賀って……どっから出てきたのさ。うん、ちょっと遠くて…パキスタンのバロチスタン。えっと、ここからそのまま向かいたいんだけど、どっかで合流出来る?じゃないと、ヤバイんだ、大阪大会が1週間後だから……いや、もうバンコク行きに搭乗するんだ、マジでゴメン』



今続きを書いてます。


それでは、また!

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