ジョーシンなら、九時まで開いてる
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。
幼なじみを護るため、父から、戦闘訓練を受けて育った。
任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
五代珠乃
小6、女。リーファの宿敵である、犯罪組織、HAZEの創設者を、経歴上の父に持つ。
朝鮮語に堪能。下品で、勇敢な、拗らせ美少女。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
吉田カナト(カナト)
五代の近所に住んでる、小4、男子。
大人しく、クラスでイジられている。
すっかり日が落ちた住宅街。
三人ともボーンに追い払われ、大慌てで公園を離脱する。
『お陰で後片付けだ。B班をよこす、RVを送って後で合流しろ』
街灯もまばらな工場街。
田んぼのカエルや、虫の声を聞きながら、自転車で追われるみたいに爆走する。
驚いたことに、カナト、自転車漕ぐの速い。
さっき、チビにタックル行ったときのダッシュも、四年にしてはかなりのモンだった。
『ラグビーのコーチに、チームで一番タックルが強いって、褒められたことあるよ』
そう言ってたよな。
……って事は、ダッシュ力があるって事だ、何で気づかなかったかな。
現場から、充分離れたけど、リーファは護衛のいない恐怖、カナトは初めて味わう、強烈な体験から逃れる為に、必死でペダルを漕ぎつつける。
自転車の曲乗りに自信があるのと、五代の店までの道を把握している僕が、先頭を走る。
道中、話す気力もなく、ほぼ全力疾走で『シュリ』にたどりついたのは、19時前だった。
シャッターは半開き。
テイクアウト・カウンターから、光が漏れている。
自転車のブレーキ音を聞きつけ、扉から出てきたユリさんが、ぼくらの姿を見て悲鳴を上げた。
「カ、カナ!? どないしたん!」
テイクアウトの小窓から顔を出した五代も、僕らの腫れた顔、襟が伸びきって破れかけたカナトのTシャツを見て、顔色を変えた。
「林堂、何があってん!?」
店長の険しい形相に、僕は怯みそうになる。
何度も、二人からLINEもらってるのに、
『無事、19時頃』
ってしか、返信出来なかったからなあ。
今、考えたら、この文面、
『事故にあったけど、大丈夫』
って風にしか、受け取れないじゃん。
汗だくのリーファも、不安そうな顔。
『危ないし帰れ。僕がカナトのママに説明しとく』
って言っても、
『冗談。そんなカッコ悪いマネ出来るかよ』
って、きかなかった。
予想どおりだったけどさ。
僕が謝ろうとしたその時。
カナトが自転車のスタンドを掛け、ふて腐れた様に言った。
「3対3でケンカした……勝ったよ」
言葉を失うユリさんと五代。
その前を、すたすた通り過ぎ、自分ちみたいに店へ入る、四年坊。
ユリさん、五代とも、口を開け、眼で追うだけ。
カウンターのテーブルに座り、クーラーの冷気に息をついてから、五代に言った。
「おねえちゃん、喉渇いた……あのお茶が飲みたい。ししょー達にもお願い」
今はサイドテールにしてる、かぐや姫カット。
戸惑ったように、ユリさんと顔を見合わせ、僕達を見てから、カウンターに身を乗り出した。
「その前に言うことがあるやろ? ユリさんも、オレもどれだけ……」
「なんで、ぼくがひどい目にあったって、決めつけるんだよ!」
初めて聞く、カナトの怒声に、全員が凍結した。
顔を真っ赤にして、五代に喰ってかかる。
「言ったじゃん、勝ったって! 公園で知り合ったヤン、チャン、チェンにリュウ……凄く、イイお兄ちゃん達……それを」
ぎっ、と顔を上げると、五代に向かって吼える。
「アイツら、『チョン共』って言いやがった! ししょーにペットボトルぶつけてから!」
興奮して立ち上がる、カナト。
知らない生き物を、見てる顔した、五代相手に勝ち誇る。
「だから、リュウが教えてくれた通り、顔に砂をぶつけてやったんだ! タックルして! 上から殴ってやった!」
「カナト……話、ズレてる。お母さんも、五代さんも、オマエを心配してただけだろ?」
店外からリーファが、静かに言った。
ハッとして、ボーンに殴られ、顔を腫らしたジャージ姿を、振り返る四年坊。
驚いた様に呟く。
「ビューティ・サオリアニ……」
「橘です。林堂くんと同じクラスで、相棒です」
食い気味に遮り、唇を震わせてるユリさんに頭を下げる、リーファ。
ちょっと顔が赤い。
五代の方を見て言った。
「あなたが、五代さん? 私、橘 梨花。台湾名は、梁 梨花」
「知っとる。親同士が知り合いやしな……五代珠乃。五代でええワ」
眼をそらし、そっけなく返す店長。
どこか、元気がない。
僕も、リーファも自転車のスタンドを掛け、ユリさんに頭を下げた。
「心配をかけて、すみません。カナトを危険な目に合わせてしまいました」
あわてて、駆け寄ってくる、砂だらけのマッシュヘア。
「ししょー、サオリアニキ、何で謝るんだよ!? アイツらが悪いんじゃないか!」
僕は頭を下げたまま言った。
「関係ない。理由なんかどうでもいい。俺達が連れてった公園で、取り返しの付かない事になるとこだったんだ」
「でも……!」
「相手、どんな奴らやってん?」
顔を上げると、五代がうすら笑いを浮かべながら、僕らを見下ろしてた。
「まさか、幼稚園児ちゃうやろな?」
「おねえちゃん、何てこと言うんだよ!」
「……せや、カナが勝ったなんて怪しいワ?」
「ママ……母さんまで!」
顔を上げると、ニヤニヤしてるユリさんを、激おこで叩いてる、その息子。
リーファと顔を見合わせる。
二人とも、話を軽くしてくれようとしてる。
「とんでもない。メッチャタチの悪い、三人組でした。僕とタメか、年上でしょうね」
リーファが続ける。
「カナトくんが倒した相手、カナトくんより大きくて年上でした。止めなかったら、相手……取り返しの付かない事になってたかも。だから……」
「カナぁ、すごいじゃん!」
店の前、感極まった様に息子を抱き寄せ、頬ずりするユリさん。
眼には涙が浮いてる。
「よく逃げへんで、闘った! サイコーや!」
「ちょ、やめてよ、はずかしい!」
ぬははと笑う、ユリさん。
「えー、ハズカシイって何それ。急になんやねん……ね、これ……」
キラキラした顔で、僕をチラリと見るユリさん。
言ってイイ? って眼で問うママに、僕は笑ってGOサイン。
「これ、もう、泉くんにも負けへんのとちゃう?」
カナトは、お母さんから身を離し、ちょっと驚いた顔で言った。
「忘れてた……いたよね、そんなヤツ。 ね、ししょー、アニキ……」
次の言葉で五代は笑い、僕らも笑った。
ユリさんは泣き出したけど。
「明日、泉の事、ぶっ殺してイイ?」
リーファがわざとしかめっ面で言った。
「いや、明日くらいは大人しくしとけ。それと殺すな?」
えー……あ! Switch! そうだ、Switch! 今から買いに行かなきゃ!
よっしゃ、ジョーシンなら、開いてるやろ?
そう言いながら、連れだって、店に入って行くユリさん。
僕とリーファも笑い合う。
「じゃ、僕達、帰り……」
五代がさえぎり、アゴをしゃくった。
「あほ、この時間まで面倒見させて、手ぶらで帰らせられるか。橘も食ってけ」
「……え、いいの?」
リーファには、五代の家に上げられない事、伝えてあったから、驚いた顔。
五代は意地悪く笑う。
「食うてる最中に気が変わったりしてな……来んかい、五代は借りも貸しも忘れんのじゃ」
街灯の光る、夜の生活道路。
リーファの笑顔が眩しかった。
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