エピローグ ~ケニーと呼んでくれ~
《登場人物》
梁 健一 (アシュラー)
台湾人。名門、梁家の次男。
民間軍事組織、イージス・システムの社長で、戦闘狂。
梁 梨花の父。
エディ・田中(Joker)
五代珠乃の、血の繋がらない父。
犯罪組織、HAZEの一員。
ヤクザ、中国マフィア、警察に追われていた。
梁家を付け狙い、その関連で、主人公たちと関連する人物を無差別に襲っていたが、現在は休戦中。
五代珠乃の父。
香咲 アリ=マフディー(パンサー)
パキスタン人。バロチスタンの名門、マフディ家の長男。
神の声が聞こえるギャンブラーで、凄腕の暗殺者。
香咲 ナディアの父。
林堂 凜
主人公。 小6、男。
幼なじみを護るため、父から、戦闘訓練を受けて育った。
任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
五代珠乃
小6、女。リーファの宿敵である、犯罪組織、HAZEの創設者を、経歴上の父に持つ。
朝鮮語に堪能。下品で、勇敢な、拗らせ美少女。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
午前2時前の幹線道路。
俺達はアリのバンで、嬢とのRVへ意気揚々と向かっていた。
「サムネもベッピン、通話でもベッピン、大当たりや! ババア様々やで!」
「聖戦を勝ち抜いた我々に、神が与えたもうた聖なるギフトダヨ……二輪車なんて何ヶ月ぶりだイ?」
コンビニおにぎりを頬張りながら、後部座席から身を乗り出したアリが、子供のように目を輝かせてはしゃぐ。
話す内容は、これ以上ないくらい、汚れきっているが。
フロントガラスの向こう、不夜城の様な、すき家や、ファミレスの看板が輝く、国道の彼方を見つめ、俺も頬を緩めた。
サムネイルを見ただけでは、不信感を拭いきれない。
何せ、俺は純情変態JKにシゴかれ、全員、柔術ババアにシメられたんだ。
白塗り……いや、ウメはそれを、心得ていた。
3台のipadを通じて、各々気に入った嬢と、ビデオ通話させてくれたんだ。
ヴィトンのでかいバッグに整然と並んだ、ipadとiPhoneは8台を超え、職業的に女を扱ってるのが見て取れた。
本物の女衒だ。
俺は、先ほどの時間を思い出し、柄にもなく胸がざわめいた。
ipadの向こうのアリサ。
控えめな笑顔と、時折みせる、切なそうな眼差し。
『お客さんを見てたら、懐かしい人を思い出して……なんて呼んだらいいですか? ……やだ、今の忘れて』
口元を覆い、俯いて頬を染める彼女に俺は思わず言った。
「ケニーと呼んでくれ」
梁 健一、英語圏では、ケニーで通してたから、ほぼ本名だ。
最近は、ハスマイラも含めて、クソガキにばかりモテるのだが、世界中でロマンスを経験してきた俺だ。
安い芝居にはひっかからねえ。
だが、アリサは違う。
俺にはすぐ分かった。
こんな仕事に就がざるを得ない、理由が、何かあるはず。
『私、今日が初出勤で緊張してて……」
頬を赤らめ、少し涙を目にためながら、不安そうに微笑んだ。
『優しそうな人で良かった。お待ちしてますね……ケニー』
なんてこった。
俺は運命を感じた。
ある作家が、女性を賎業から救おうとする心理を、椿姫になぞらえ、『カメリア・コンプレックス』と名付けていたが、今の俺がまさしくそれだ。
俺は、通話を終えた後、何も映らない画面を見つめたまま、ウメに言った。
「彼女の事で話がある……明日でいい」
ウメは目をそらし、辛そうに頷く。
柔術ババアがウメに叱られ、スゴスゴ部屋を去るのを見届け、ミナはユリの介抱をしてる内に爆睡しちまったらしく、そのチャンスに、そっと抜け出す。
アップリケは頑丈に縫い付けられていたから、俺とエディは、空冷ベストを無理して腰に巻き、アリは、黒いシャツの裾で隠して、車に乗り込んだ。
耳は痛いし、疲れ切ってもいる。
大人の問題も忘れてる訳じゃねえ。
だが、それ以上に使命感が、胸を焦がす。
深夜のせいもあるだろうが、柄にもなく感傷的になっちまってる。
助手席の窓に額を預け、頭の中で木霊する、アリサの声に耳を傾ける。
「いや、聖戦って、『聖』のトコ、性別の『性』に変えるとこやろ、このダブルヘッダー!」
「ウマイね兄弟! 次回はボクが、キミの選んだリリィちゃん、指名するヨ!」
「まさしく兄弟!」
うるせえぞ、性獣ども。
俺はため息をついた。
全く、気楽でうらやましいぜ。
……俺達が、大量虐殺犯だって事は自覚している。
あちこちで警察が走り回ってるはずの今、この時間に外出するのは自殺行為だって事もだ。
が、あの屋敷にいたら、良くて殺人犯、悪くて殺される側になっちまう。
かといって、ホテルも監視カメラでアシがつく恐れがある。
俺達が向かっているのは、ウメが管理している、マンションの部屋だ。
民泊として管理しているので、知らない人間が出入りしても、通報されることはない。
本来は、VIP客用らしいが、今の俺達は正しく特別。
孫達の恩人だからな。
目指すマンションは、10分足らずで着いた。
工場街にある、ごみごみした、築の古い8階建てのファミリー向け、分譲マンション。
俺は、感心した。
こんなとこで、高級売春やってるなんて、思わねえよな、完璧な偽装だ。
車を駐め、エレベーターで6階まで上ると、3人胸を躍らせながら、ドアを開けた。
この時間に、呼び鈴を鳴らすのを、近隣に聞かれたら、不自然だから、予め鍵は開けてある。
この世界の常識だ。
俺は、出来るだけポーカーフェイスを保ってダンディを演出した。
だが。
玄関に仁王立ちしていたのは、肩までの髪を揺らした、童顔のジャージ姿だった。
整ったかわいらしい顔をしてるが、多分、二十歳は超えているだろう。
只、今は鬼神もかくやという顔をしてるし、手に持った金属バットが部屋の明かりを鈍く反射している。
え、こんな嬢いたっけ?
背後で気配が動き、同時にその女が動いた。
あわてて、道を空けた私とアリをマッハで通過、脱兎の如く走り去るエディに向かい、バットをぶん投げる。
得物は、うなりを上げて回転しながら、ヤツの後頭部を直撃。
「ウチに手ェだしといて、どこで何やっとんじゃ、クソゴミィィ!」
近隣に響き渡る怒声を上げた。
「なんで……カナトのオカンが、おんねん……」
スローモーションで倒れながら、呟くジョーカーの声。
あっけにとられてみていると、横にいたアリの顔が消えた。
違った。
夜目にも白い肌の女性にぶん殴られ、消し飛んだのだ。
一本だけの三つ編みを垂らし、グラマラスな肢体を備えた、妙齢の美女。
すぐに分かった。
アリの奥さんに違いない。
ある結論に思い至る前に、一番聞きたくない声がした。
「任務オツカレっす、ボス」
隣の部屋のドアが閉じる音。
出てきた、黒スーツのハスマイラ。
ブラウスにヨガパンツを履いた、アリの奥さんと、そこで身を潜めていたのだ。
据わった目が会話を拒否していた。
何故、と問う間もなく語り始める。
「ユリちゃんってコから、XのDMに連絡があったんスよ……頭の良い子ですね、ボスに渡した仕事用・iPhoneの通知に出てくる、アイコンとハンドルネームから、ジブンを探し出して、連絡くれたッス。lineは入って無いから、あのスマホ」
私の中で、破滅の音を立てて、色んなモノが崩れていく。
すまん、アリサ……キミを救えない。
「ここにいた嬢、吉田さんのバット見た途端、『あ、修羅場? 隣で馴染みの客待ってるし、そっち行きますワ……ミホ、リリィ、アン、退避……ええと、サンスポは』って……流石プロ、感心したッス」
え……じゃ、そのコ、アリサ?
馴染み?
サンスポ?
え、どゆこと?
それどころじゃなかった。
ハスマイラの爆発寸前まで内圧がかかった、震える声。
現世に降臨した死神の顔を、俺は確かに見た。
「DMくれたユリちゃん……ボスとローションプレイしたって……ヤッちゃって……もとい、話、聞かせてもらうッスよ、ボス?」
遊郭が俺を離さない 編
~了~
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