父はいません 2
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい。
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
鈴香
ナディアの姉。高校生。
香咲 ヨシヒコ=マフディー
ナディアの父。パキスタン人。
お館様
ナディアの祖母。ヨシヒコの母。
オスマン
ナディアの叔父。
「いやあ、助かったヨ!財布が手元になくてねぇ。paypayも、そろそろ限界で」
公園のベンチ。
スーパーで買った、強炭酸レモンをグビグビ飲みながら、おにぎりを嬉しそうに頬張るナディアパパに、僕は当然の質問をした。
「……何かあったんですか?」
「ママを怒らせてしまってねぇ、沈黙する者は、安全とはよく言ったものさ。凛くんの分も買っておいたよ、さあ、遠慮はいらない」
と、僕から借りた500円で買った炭酸水を差し出した。全然うれしくなかったけど、頂きますと受け取った。
「……5先の事ですか?」
ナディアパパは情けなさそうに笑うと、少し真面目な顔になった。
「関係ない……と言えばないかな。あの時は、すまなかったね。恩人に八つ当たりしてしまったよ。情けない限りさ」
「いえ……で、一体何が」
遠い空に目を細め、ナディアパパは語った。
「あれから、私達はより一層イチャ……もとい、互いに離れ難くなってねぇ。片時も離れず、日々を過ごそうとした訳さ」
「はあ」
「その時も、カオリと一緒に美しい昼下がりを過ごしてたんだけど、
『いやあ、秋葉原だとお尻枕1分1000円なんだよ』
ってつい、言っちゃって……もう少しでアラーの身許へ赴くところ……どこ行くの?」
「失礼します。500円は返さなくていいです」
「い、いや、マチタマエ!小6に500円恵まれるって、色々とマダオすぎるだろ!?イダダ、待って、ケツを包丁で刺されたんだ、走られたらキツイ」
「娘の友達に、そんな話する時点で終わってるでしょ!?」
心配して損した!
5先と、『関係ない……といえばないかな』って1ピコも関係ないじゃん!
ゲーム時間とお金を返せ!
「いや、たのむよ、なんとかママに、いや、ナディアでもいいから、取次いでもらえないかイ?電話に出てくれないんダヨ」
「いや、うちはオネエが生まれる前から、母子家庭じゃけ。オトンの話されても困るのう」
「えぇ……」
玄関のたたきまで、静かに出てきたママが、ナディアを叱った。
「凛くん、こんにちは。ナディア!そんなプラバットを持ちだして、何するつもり?」
「ママ。最近、黒くてエロいんが、うちに入ってこようとするけん」
「それなら……こっちでしょ」
「……5番アイアン!ありがとう、ママ」
目を細めて微笑むママ。
その場だけ、異空間だった。
あまりのサイコパスさに、震える。
笑顔の向こうの狂気に逃げ出したくなった。
「……ところで。凛くん、最近知らない人に、お金を貸してくれとか言われなかった?」
二人とも、目以外は笑ってぼくを見てる。
だらりと垂らした傷だらけの5番アイアンが鈍く光った。
「……いえ」
なんだか、ホントのこと言ったらボクも殺されそうで怖かったんだ。
「ママ……うち、これ以上恥かかされたら、うっかり、頭部にフルスイングしてまうかもしれん。ピーチみたく」
「そうねえ、軽トラックとブルーシートは広島の実家だし、大阪の山は土が固くて……」
掘ったの?ねえ、それ、経験談?
僕のツッコミは、声になることは無かった。
「まあ、2割は冗談として……いつもいつもすまんのう、林堂」
えっ、パーセンテージ低くね?
って使い込まれたゴルフクラブを立て掛けるナディアに、ツッコむのはよした。
「あのままウロつかれて、これ以上迷惑かけられてもたまらんけん、庭の物置きの前くらいなら許しちゃるか」
物置きの中はダメなんだ。
ママが、
「そうそう、もらってほしい物があって」
紙袋から出された箱を見て僕は叫んだ。
「こ、構築済みヘヴィメタル!」
デュエマの、40枚セットの入ったヤツだ!
一万超えるぞ!?
「お歳暮でもらったんだけど、ウチには必要ないし……そう、お歳暮。細かい事は気にしちゃダメ。うちにあっても捨てるだけだし。ついでにナディアもつけるわよ。コラコラ、ナディア、ぶたないで。痛くないけど、顔はイタいわよ。」