夜の素顔
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい。
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
鈴香
ナディアの姉。高校生。
香咲 ヨシヒコ=マフディー
ナディアの父。パキスタン人。
お館様
ナディアの祖母。ヨシヒコの母。
オスマン
ナディアの叔父。
「場所と日時は、林堂君側に任せるそうだ……対戦ルールも」
ナディアのパパは、ベランダの手すりにもたれて言った。夜八時前の夜景が広がっている。
肌寒い。
ナディアが不安そうに、リーファは無表情で立ってる。
結局二人で話せなかった。
一緒に聞くと言い張るナディアに、パパは、陽気な時間は終わりなんだが、と呟いた。
「相手も小学生なんですか?」
「パキスタン人ではないけどね」
「……知ってるんですか?相手の事」
「そこまでしか教えてくれなかった。済まない」
「いえ」
随分、丸投げだな。よっぽど自信があるのか。
流石にちょっと気になる。
「パパ、実家の方はどうなっとるん?『大丈夫、あとで話す』言うて教えてくれんかったけんど」
パパは苦笑すると遠くに目を向けた。
「その連絡を寄こしたのは、オリガなんだけど、それだけだ。正しく他人だね……望みがやっと叶った」
僕達は言葉を失くした。
そうだ。息子に殺されかけたんだ。
僕には想像もつかない世界だ。
僕が、お母さんを殺す……
ありえない、言葉にするのも嫌だ。
目の前のチャラい印象のパパが、違う生き物に思えてきた。
パパが、僕に目を向けた。何もかも見通すような眼。ホントに変わった人だ。
「林堂くん達のおかげで、やっと僕らは呪いから開放された。アッラーに讃えあれ……でも何故か、関係無い君が苦しんでる」
パパは表情を変えずに言った。
「その勝負、私と変わってくれないか?これではあまりにも情けなさすぎる」
「スマブラできるんですか?」
「まさか。別の方法になるだろうね」
パパのまくりあげた、袖の下から細長い傷が見える。刃物の古傷だ。
僕から目をそらした、パパの目つきが険しくなった。
「君のママにもバカにされたままだ。バロチの男はそういうのに慣れてないんだよ」
あ、根に持ってたんだ。
「パパ!」
「下がりなさい、ナディア」
「……実は、母さんに言われてたんです。今日ナディアのお父さんにそう言われるだろうから、どうするかは任せるけど……」
ナディアパパが、凍りついた。
「メッセージを預かってます。血を流すのだけはやめろ、私と娘らが体張った意味ない。それぐらいの恩義は感じろ」
ナディアパパが、ベランダの取っ手に、拳を振り下ろした。
何度も。
何度も、何度も。
肩が震えている。
手すりが震える金属音。
誰もが無言。
「どこまでも……君のお母さんは何なんだ!」
チャラい仮面を剥ぎとられて震えているパパに、ナディアが寄り添った。
ナディアが僕に何か言おうとした。
「続きがあります。当然、ナディアちゃんが自分にやらせてくれって言い出すやろうけど……言われるまでもなく論外だ。僕に恥をかかすつもりか?」
黙っていたリーファが吐き捨てた。
「男って、どいつもこいつもアホすぎる」
「ナディアパパ、納得行かないだろうけど、これは僕のケンカなんです。それと……」
僕が言いよどんでいると、パパが俯いたまま問うた。
「何だ」
「母さんからです。自分が死んだら悲しむ人がおるって自覚しろ。簡単だ。大事な誰かが自分のために死ぬ所を想像するだけでいい」
手すりに伏せたお父さんの、足元に水滴が落ちた。
「……気合だけは認めたる、以上です」
「偉そうに……私達の何が分かるっていうんだ」
「ホントですよね……あんな母ですみません。母さんNGOの職員だったんです。紛争地帯にずっといました」
リーファ以外が僕を振り返った。
「だから、生きようとしない人に厳しいんです」
「誰が……好き好んで……カオリ」
「それと……すごいですね。母さん誰かに『認める』っていったの、父さん以外では初めてです」
しゃがみこんだナディアパパに一礼して、僕はリーファと階下に降りた。
ナディアのママが、背中を向けて洗い物をしていた。
……きっと、ナディアのママは、こうなる事を知ってたんだ。
どんな気持ちで、僕達を呼んだんだろう。
パパが、消えてしまうの、怖くて仕方ないだろうに。
僕が口を開く前に、リーファが言った。
「大丈夫です、ナーのお父さんは、どこにも行きません」
ナディアのママは洗い物を続けている。
「危ない事もしません。必要ないから」
ナディアママの肩が震えている。
「悪夢は終わったんです。お願いです、ナーに普通の生活をさせてあげてください」
僕は心が痛んだ。
普通の生活。
リーファ、オマエのフツーの生活っていつ叶うの?
「僕の心配は1ミリも要りません。……勝つんで。今日はホントにごちそうさまでした」
僕とリーファは、激しくしゃくりあげるママに一礼すると、玄関に向かった。
「凛……会場の手配は任せて」
「任せた」
ナディア、今日のお泊りはなさそうだ。
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!