五歳にしては、いい肩してる
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。
幼なじみを護るため、父から、戦闘訓練を受けて育った。
任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
五代珠乃
小6、女。リーファの宿敵である、犯罪組織、HAZEの創設者を、経歴上の父に持つ。
朝鮮語に堪能。下品で、勇敢な、拗らせ美少女。
エディ・田中
五代珠乃の、血の繋がらない父。
犯罪組織、HAZEの一員。
ヤクザ、中国マフィア、警察に追われていた。
梁家を付け狙い、その関連で、主人公たちと関連する人物を無差別に襲っていたが、現在は休戦中。
オリガ・エレノワ(オーリャ)
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
氷室 恵
小5、女。女優志望。主人公と、市街戦をくぐり抜けた。主人公が好き。
鈴木
メグのママ。事務所では、メグのメイクを担当。
田中
メグのパパ。小さな、芸能事務所を経営。
生地の焼ける、香ばしい匂い。
昼過ぎの、店の前に並ぶ人の多さに、僕は頭が空っぽになっていた。
長蛇の列って訳じゃないけど、テイクアウト窓口の所に、人の山がタカっている。
いや、美味いものって、みんな知ってるもんなんだな。
窓口から、のぞき込んできて、スットンキョウな、声を上げるオバちゃん。
「なんや、タマちゃん、右手どないしたん!?」
「いやー、転んで手ェついた時、やってしもて」
ヘラヘラ笑う、五代店長。
ソウッ、何故か店長呼びさせられる事に、なっテシマッタ!
なんでも、ケジメが大事らしい。そんなもんなのかな?
「あらー、ソウナン?…… あ、おおきに、コレ、お代と、飴ちゃんな? ケガ、大事にするんやで?」
「まいど、おおきに!……店員、焼けたで!」
「あ、はい!」
僕は慌てて、五代の右隣、店の奥側の、焼き場に置かれた、チヂミをコテで寄せる。
アツいから、軍手の上からビニール手袋をはめた手で、折りたたんだ。
五代……店長くらい慣れてたら、コテだけを使ってあっという間に、使い捨て容器に詰め込むんだけど、ロクに経験がない、僕にはムリ。
「ハイ、一丁!」
並んでた別のオバちゃんが、むっつりした顔で、言った。
「……なんや、可愛いコおるやん? オトコノコ?」
ぷちっと、キレそうになったけど、決して『男の娘』という意味じゃない、と気づいて、クールダウン。
オバちゃんだもん、そんなワード知らんって。
さすが、大阪の下町。グイグイ来るなあ。
「んー、親戚やねん。女装癖がバレて、今、不登校やから、社会勉強しとるんやわ」
ハイ、キレちゃった。
でも、腐っても客商売。
暴れる訳にはいかない。
多分、凶悪な顔に、なってるだろうから、下を向いたまま、キック。
白いふくらはぎを狙ったけど、客の相手をしながら、ヒョイと足を上げてかわす、クソ女。
背中にも、眼ェつけてんのか?
「んまァっ…… そんなん、アカン、アカンで! カワイイ顔しとるのはわかるけど……親御さんは、なんて言うてはんの!?」
ナンも言ってネェワ、ボケ!
全身に、血管が浮き出るほど、力が入っちゃう!
五代は、ふっと笑いながら、申し訳無さそうに言った。
「オバちゃん、このコ、知ってる日本語、『ギャル神輿』と『カブトムシ』だけやねん、ゴメンな?」
「……そうなん? 偏っとるなあ」
ほんごーっ!
僕は、もう少しで、千枚通しを腰だめにして、『五代ィィ、死ねやあ!』って鉄砲玉ごっこするトコだった。
スマブラSP各キャラの、技のフレームを暗唱して、自分の殺意と闘ってると、
「嬢ちゃん、ニラチヂミまだかよ!?」
と、柄の悪いオッサンの声がした。
「あ、スンマセン、スグ!」
五代が、オバちゃんに、お釣りとチヂミを渡しながら、ヘコヘコ、アタマを下げる。
神経質そうな、メガネのジジイが、嫌な顔で立っていた。
体がアツくなったし、かなりイラッとも来たけど、五代が差し出した、ニラチヂミを、黙って畳む。
……意外なことに、五代は仕込みの仕方や、仕事をていねいに教えてくれたし、イビられることも無かった。
けど、のれんを上げる前に、強く言われた。
『オマエ、何があっても、客の方見んなよ? 色んな客おるし、オマエ、チャカぶっ放しそうやしな』
「はい、一丁! サーセンした!」
下を向いたまま、五代にチヂミをトス。
500円玉をカウンターに、叩きつける音がして、否応なしに緊張感が増す。
「おしゃべりして、客待たせてんちゃうぞ!」
「あ、スンマセン」
ヘラヘラ頭を下げる、五代の声。
僕は、コイツを尊敬した。
カウンターの下で、握りしめた千枚通しを、プスプス、粘土に突き立て続けてるから、尚更だ。
メッチャムカついてるのな。
フツーだよね?
でも…… こういう手合は、自分より弱くて、からみやすい相手を、探してるだけだ。
ペコペコしたとこで、満足しないのも事実。
「エエか? 粉もんなんか、利益低いんやから、どんどん、客、捌かにゃならんねん。色々知っとるから、教えたってんねんぞ?」
うわ…… 説教始めたよ、しかも恩着せがましく。
あ、ハイ、ハイ、と愛想笑いする店長。
これ、好き放題ウサを晴らした後、『キミは、ええ目をしとる!』とか言って、イイ話にしようとするヤツだ。
僕は、目の前が暗くなった。
え、客商売って、こんな大変なもんなんだ!?
五代、オマエが、なんでここまで、やらなきゃいけないんだよ?
お父さん、働いてるんだろ!?
後ろから、別のオッサンの声がした。
「コンデ、客捌け言うといて、オマエが、売の邪魔してどうすんじゃ?」
僕は、思わずそっちを見た。
一瞬固まってから、血相を変えて振り向く、キラワレ者。
ペンキだらけの、作業服達が、険しい顔で立っていた。
体格も、圧力も全然違う。
言葉に詰まったところで、その日焼けしたペンキ屋が、とどめを刺した。
「客待たせてんちゃうぞ、オッサン?」
仲間らしい、ピアスの兄ちゃんが、通りの向こうを指して、おちょくる。
「ボクたちに、そのイイ話してくれるぅ? あっちで」
イイぞ、カッケー!
心の中で、エールを送る、僕。
「マアマア……これ、お釣りッス。あ、次の方ぁ」
店長が、ペコペコしながら、ペンキ屋に声をかける。
周りのお客さんも、ビビってるけど、嫌がってる感じはない。
みんな、ザマァな表情。
ソイツは、ブツブツ言いながら、カウンターに置かれた、お釣りを集めると、足早に場を離れようとした。
ただ。
小声の悪態が聞こえてしまった。
「……チョーセンが」
僕の頭で、パチンと何かが切れた。
ゴメンな、五代。
カウンターを飛び出した。
とりあえず、タックル行くわ。
それより、ペンキ屋に聞こえたのが、もっと問題だった。
コンデって口にしてた。
つまりは、在日コリアン。
ペンキ屋達の、眼つきが、狂気を帯びた。
あ、ヤベ。
あの老害、歯くらいは、逝くかもな。
そう思ったのと、五代がカウンターの足元を蹴るのが同時だった。
3つ並んだ、ボタンの真ん中につっかけの爪先を叩き込む。
アレ何?って聞いても、押すなよ? としか答えてくれなかったヤツだ。
「ふんぐおおおう!」
雄叫びと共に、通り向かい、2階の窓に、もう、死にかけにしか見えない、爺さんがニョッキリ顔を出す。
「僕、5歳ィィ!」
訳の分からない、雄叫びと共に飛んできた、豪速球の缶コーラ。
振り返りかけた、老害の後頭部に、ヘッショをキメて、垂直に舞い上がった。
そばの自販機に顔をぶつけ、棒のようにぶっ倒れた、オッサンの横で、落ちてきたコーラが、シュワシュワ泡を立ててる。
誰も、一言も発さない。
何事もないかのように、降り注ぐ、セミの声。
『イラッシャイマセ…… イラッシャイマセ』
衝撃を受けた、自販機が繰り返す。
店長が、地声でボヤいた。
飛び出そうとした、ポーズで固まる、僕にだけ聞こえる声で。
「今日の上がり、飛んだやんけ……ゴン爺、ウハウハやろな」
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
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