生産者の顔が見える野菜と、サイキック雪女
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。
幼なじみを護るため、父から、戦闘訓練を受けて育った。
任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
オリガ・エレノワ(オーリャ
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
氷室 恵
小5、女。女優志望。主人公と、市街戦をくぐり抜けた。主人公が好き。
鈴木
メグのママ。事務所では、メグのメイクを担当。
田中
メグのパパ。小さな、芸能事務所を経営。
ハスマイラ
二十歳半ば。女。リーファの護衛。
リーファのパパが好き。
シヴァ
リーファパパの社員。元・英国特殊部隊隊員。
ボーン
リーファパパの社員。元・米国海兵隊員。
午後2時。
平日のこの時間、家にいるのは、不思議なカンジだ。リビングで……
食事を作るとこはキッチン、食事をとるとこを、ダイニングって言うらしいね、こないだ初めて知った。
2LDKのLDってのは、リビング・ダイニングの事で、台所と一体になってる部屋を、言うらしい。知らんけど。
その、台所と一体のリビングにある、大型テレビからは、時間帯的に、見慣れない番組が流れてる。
プチ非日常。
しかも。
部屋中が、メグの不思議な香りで、一杯になってたら、プチどころじゃない。
モップがけまでされた、フローリングに、僕が雪女を、押し倒してるとなれば、なおさらだ。
「痛い! 『ちょっぴり乱暴に』なら、イイけど、タダの『乱暴』はやめてよう!」
「うるせえ!」
馬乗りになった僕は、メグの両頬をニョーンって引っ張る。
「なんてお弁当を、作りやがんだ? 見られたら終わりだから、学校中、逃げ回ったんだぞ!?」
「ひ、ひどい!」
目を見開き、絶望した目で叫ぶ。
「おむすびも卵焼きも、個包装して、みんなに配りやすく、配慮したのに!」
「自撮りのプリクラ、全部に貼ってあったよな? 『生産者の顔がわかる野菜』でも、そんな事せんわ!……あっ」
僕は、ある事に思い当たって、メグの上から身を引いた。
「な、なんです?」
ゴクリ。
思わず生ツバを飲んでしまった。
……いや、まさか。
そんな訳無いって!
「なな、なんですか?」
僕のただならぬ様子を見て、不安そうに、上体を起こすメグ。
「オマエ……自分の学校でも、これやった?」
「やるワケないでしょっ! 修学旅行、先生とまわれってんですか!?」
真っ赤になって、喚くメグにホッとする。
ヨカッタ、一応僕と同じ、思考回路だ!
音速でヘッドロックをかける。
「いや、良くないワ! 確信犯で、あんな弁当持たせたワケか!?」
「いたぁい! だって、だって、ナディアさんも、リーファさんも、同じクラスなんでしょ? メグだけ、仲間はずれっ!」
「からって、あんなモン見られたら、押しかけて来るだろうがっ!」
メグの動きが、ピタリと止まる。
フフフ、と漏れてくる、不敵な笑い声。
ヤダ、このコ、コワイ……
思わず技を解いて、距離を取る。
「……望むところですよ。誰がイチバン必要とされてるか……ワタシたちのキズナを、見せつけてやるんだもん」
「何言ってんの!? ……言ったろ、彼女とか、そんなの……」
エッヘンと、5年にしては、それなりの胸を張る、雪女。
「仲間、友達、彼女……呼び方はどうでもいいんでしょ?」
き、キッタネェ!
昨日、言ったセリフを、逆手にとられた!?
「……それより」
言葉に詰まる、僕の前で、不思議な事が起こった。
部屋の中が、心なしか暗くなり、肌寒さが増す。
え?
何? ナニ?
慌てて、辺りを見回す、僕。
壁に貼られた、低学年の頃、描いた絵、棚の上に並べられた、買い置きのティッシュペーパーなんかがある、いつもの景色。
「……昨日の、『オ』……とうさん、お母さんってセリフ……"オリガ"って言いかけたんですよね?」
「!!」
ガクゼンと向き直る僕を、さらにガクゼンとさせる光景が、待ち構えていた。
長い髪がユラユラと踊り、背後の壁に映る、メグの影は、口が耳まで裂けて……!
いや……!
本体もッ……
口裂け女に、なっているぅ!
「……さしずめ、『オリガは、僕の部屋で、寝てたじゃん』かなー?」
「ギャー!」
こええ!
特に、右手の裁断バサミと、左手の裁縫セットがッ!
それでも、発動してくれた、僕の防衛機構!
「かか勝手に決めつけんなよ、バカじゃないの……!?」
口裂け女が、裁縫セットをもつ手で、かざしたモノに、目玉が飛び出す。
赤く、怪しげな、光が照らすのは。
キラキラ光る、長い一本の毛。
オーリャの、ブロンドヘア!
黒目と、白目が反転した、あやかしアイに見据えられ、ちょっぴり、おもらししたかも、な僕。
「……凛のマクラにぃ、埋まってましたあああ」
僕はモノも言わずに、背を向けた。
げっ、玄関!
に、逃げっ!
だっ、ダメだっ!
腰が抜けるってこういう事ナンダ!
四つん這いのワリには、頑張ってるスピードで、へこへこと、現実世界へ激走する。
クスクス
「ヒィィィ!」
ゆっくりと、近づいてくる笑い声に、みっともない悲鳴が漏れる。
い、イヤだ、死にたくないっ!
あのハサミで、どんな刻まれ方をするのか、想像したくないよ!
クスクス
「うわあああ!」
最後の、四つん這いジャンプは、僕の人生の集大成。
ドアノブが、レバー式だったのも、幸運だった。
引き下ろすと同時に、転がって体当たり、エレベーターホールに、脱出する。
途端に降り注ぐ、熱気と、セミの声。
涙。
「ひ、光! 悪霊退散っ!」
だけど。
転がりすぎて、左手のエレベーターを通り過ぎ、向いの柵に、ぶつかった。
「どこに、行くんですかああ?」
圧倒的な闇を背負って、玄関に立つ、雪女。
僕は、柵を背中に押し付けながら、必死で命乞いする。
「と、泊まった! 確かに、オーリャ、泊まった! けど、僕はリビングで寝たぞ、ホントだぞ!」
「……さっきも、言ったけど、まくらに付いてたんじゃない……埋められてたんですよ。毛先だけちょっと出て」
ビョオオ、とエレベーターホールに吹きすさぶ寒風。
マイク、何てこと!
コイツってば、気候まで操れるっていうの!?
三日月の様な口の端が、さらに歪んで、シワが刻まれた。
「あれ……明らかに、女除けデスヨネ?」
「……え」
メグの笑顔が剥がれ、般若の顔が叫んだ。
「その、うれしそうな、『え?』 は、なんですかあああっ!」
スパパパっとハサミが閃き、オーリャの金髪は、粉状になって、寒風に消えた。
あっ……
記念が……
「今、形見ナノニ、とか、思いましたね? 思い出が、とか思いましたね?」
くッ、このサイキック雪女!
そんな、怒りも、血走った目でかざす、ハサミにしおれた。
「気づいたんです……」
昏い陽光に、鈍く輝く、刃先。
「『コレ』で、『おイタ』の元凶を切り離して……メグが預かっておけば、いいんだって」
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!