全気候型・雪女
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。
幼なじみを護るため、父から、戦闘訓練を受けて育った。
任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
オリガ・エレノワ(オーリャ
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
氷室 恵
小5、女。女優志望。主人公と、市街戦をくぐり抜けた。主人公が好き。
鈴木
メグのママ。事務所では、メグのメイクを担当。
田中
メグのパパ。小さな、芸能事務所を経営。
ハスマイラ
二十歳半ば。女。リーファの護衛。
リーファのパパが好き。
シヴァ
リーファパパの社員。元・英国特殊部隊隊員。
ボーン
リーファパパの社員。元・米国海兵隊員。
抱きしめた、座布団枕に顔を埋める、雪女。
リビングから、漏れてくる明かりで、見える耳は真っ赤だ。
僕は、上半身を起こしたまま、凍りつく。
……何の冗談さ?
勿論、この状況で、メグがそんなウソ言うはずがない。
父ちゃん、母さん、何考えてんの?
メグの背後に、影が差した。
メグの頭越しに、父ちゃんが言った。
「リビングで、寝んのは俺や」
僕は、慌てた。
「……まさか、HAZE関連? 昨日はフツーに……オ……父さんもお母さんも、過ごしてたじゃナイデスカ?」
アブネえ!
よくやった、僕!
『オリガは僕の部屋、僕はリビングで寝たじゃん』
って口走るとこだった!
ドックンどっくん、言い出した、心臓が口からはみ出そうな、恐怖と闘いながら、メグをチラ見する。
ヨカッタ!
座布団で、顔を隠したままだ。
気づいてない。
気づいてないよね?
父ちゃんは、真顔で言った。
「……俺の部屋の、クーラー壊れた」
「あー……古いもんね」
10畳ほどのリビング。
ベランダに向かって、右隣に母さんの寝てる部屋、同じく右隣だけど、玄関側に僕の部屋がある。
リビングにも、大きめのエアコンが付いてるから、これで、3部屋まかなってるんだけど……
母さんが、僕の部屋とを隔ててる、ふすまを開けて、呟いた。
「こうやったら、大部屋で寝とるようなもんやし、エエやろ」
「そ、そだね……」
いや、ビックリした。
……それにしても。
それだけが、自分を護ってくれる、アイテムみたいな勢いで、座布団枕を抱きしめてる、メグを見て思う。
自業自得とはいえ、ほぼ面識のない、オトナたちに囲まれて寝るって、罰ゲームだよな?
ん?
そう言えば……
「母さん、予備の布団って、あったっけ?」
「無い。アンタら、一つの布団で寝る事になる」
「はああ!?」
な、何言ってんデスカ!?
「そ、それなら、僕が父さんの部屋で……」
言いながらも、返事は分かってる。
「俺の布団、汗だくにする気か? 布団のクリーニング、ナンボほどかかるおもてんねん……
こっちの部屋に、持ってくる言うんも、ナシやぞ」
そう、布団に関しては、父さん、メッチャ潔癖症なんだ。
洗ってない足で、踏んだりしたら、関節技をかけられる。
「わ、わたしは、こっちで……」
泣きそうな顔で、僕の足もとの畳を、指差すメグ。
母さんは、布団に潜り込みながら、興味なさそうに言った。
「好きにし。親のおるとこで、ヘンな事出来るもんならやってみ」
父さんも、サッサと、リビングの電気を消した。
えー、冷たくね?
どうしよう。
メグは、座布団を盾にしたまま、三角座りで、ふすまにもたれてる。
もう、午前1時前だ。
迷ってる場合じゃない。
僕は、敷布団の横に、夏掛けを広げた。
サッサと、そこに寝転ぶ。
ジェスチャーで、敷布団を指差す。
声出したら、叱られそうだし。
おずおずと、静かに横たわるメグ。
座布団は抱いたままだ。
横になったまま、不安そうに、僕を見つめるメグ。
今頃になって、自分のしでかしたことが、怖くなってきたのかな。
僕は、安心してほしくて、軽く微笑んだ。
『オヤスミ』
口パクで伝えると、返事を待たずに、天井を見上げて、目を閉じた。
程なく、母さんの寝息と、父さんのイビキが聞こえてきた。
僕は、そっと目を開け、メグの様子を伺う。
やっぱり、起きてる。
こわばった顔で、天井を見つめたままのメグ。
何を考えてるんだろう。
一番ありそうなのは。
『ここに、来てしまった理由』……じゃないかな。
ナゼ、あんな無茶をしたのか、メグ自身、分かってない。
そして。
ここで何をしたら、自分は満足するのか、何を求めて来たのか。
その、理由を、考えてるんじゃないかな……
『もう会いません』
僕の胸に、刺さったその言葉は、宙にぶら下がったまま。
拒否された僕に、何かできる訳でもないけど。
僕自身が、気づいた事。
『考えるヒマはない方がいい』
「メグ」
びっくりした様に、こっちを振り返る雪女。
今は、タオルを解いてるから、黒髪が、ぼくの敷布団に広がってる。
「歌、うたってくれないか?」
しばらく呆然と、僕を見つめてたけど、チラリと、頭上方向、母さんの方を見る。
「母さん、簡単には起きないよ……お願い。眠れないから」
父さんは、寝たフリをしてくれるだろう。
メグはためらってたけど、ハラをくくった目で囁いた。
「手……握っていいですか?」
「……ん」
僕が差し出した両手を、そっと握るメグ。
柔らかい手。絆創膏だらけの手。
僕を守ってくれた手。
切なくなった。
命を預けあったのに……
あんなに、あっさり、サヨナラ言えるもんなのかな……
僕は、慌ててその考えを打ち消す。
オーリャを選んだのは、誰だよ?
不安そうな顔の、雪女。
「メグも……英語の歌、練習したの」
へえ。
僕は微笑んで、それを、促す。
メグは、頭上を気にしながら、緊張した様子で、小さく咳払い。
掌で、僕の手の甲を、優しくタップする。
囁く様に、歌詞を口ずさむ。
「……When the night ……has come」
僕の全身を、衝撃が貫いた。
「……And the land is dark」
何で。
なんで、よりによって、その曲なのさ?
「……moon is the only light we’ll see」
やめろよ。
オーリャが去った日、空港で聞いた曲なんだぞ。
「Just as long as you stand, stand by me……」
ひどくね?
なあ、ひどくね?
そりゃ、僕がした事に比べりゃ……
でも、奇襲すぎんか?
……分かってる。
あの日の、僕ほどの不意打ちじゃない。
メグの優しい声。
子守唄。
一生懸命歌ってくれてる。
僕のために。
自分の方がボロボロなのに。
目が熱くなり、鼻がツンとした。
……やっぱり。
僕はクズのままだ。
「Stand by me, oh, stand by me, ……凛!?」
メグの切迫した囁き声。
僕は、鼻をすすり上げるだけ。
メグの、顔が近づく。
「どうしたの? どこか……」
僕は首を振る。
それで精一杯。
……僕はクズだ。
「……辛い事……思い出しちゃったの?」
僕はうなずく。
「そうなの?……ごめんね」
いつの間にか、年下をあやす様な喋り方。
ナンダヨ、謝るくらいなら……
……僕は、やっぱりクズだ。
メグが、そっと、僕の髪を撫でてくれた。
目には、気遣うような光と、涙。
「オリガさんの事……思い出しちゃったの?」
僕はただ、泣き続けた。
メグの笑顔は、透明だった。
次の言葉で、僕は壊れた。
「そっか……ごめんね」
限界だった。
目をこすり、声を殺して泣く僕を、優しく抱きしめる。
そして、僕の口からは。
クズとしか、言いようのない言葉しか出なかった。
「何で、そんな歌……歌えるんだよ……」
困ったように、笑うメグ。
どこまでも、僕に優しい雪女。
……なのに。
「ゴメンね、思い出の歌……」
「『もう、会わない』って言ったくせに……あの時、心が……ショベルカーでえぐられたみたいに、苦しかったんだぞ……」
全身を、凍りつかせて、目を見開くメグ。
「違う……あの時だけじゃない」
唇を、震わせ始めた、雪女。
「今でも、だ」
くぐもった悲鳴をあげて、僕の唇を塞ぐメグ。
舌が口の中に潜り込んできて、メチャメチャに動き回る。
僕は、ただ、震えながら、メグの手を握りしめるだけ。
いなくなる。
オマエも、いなくなっちゃうんだろ?
僕の顔を流れる涙と、鼻水さえ舐め、頬ずりとキスを繰り返して、気持ちを伝えようとする、年下の雪女。
僕はただ、みっともなく、泣き続けた。
……どれくらい、そうしてくれてたかな。
僕の頭を胸に抱えて、キッパリ囁いてくれたんだ。
「わたしは、逃げません。オリガさんとは違うもん」
安心して、意識が遠のいていく、僕の耳に、届いた言葉……
多分、僕は笑ったと思う。
「雪女は、オールシーズン、凛の側にいるんだから」
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!