キミの胸の中で
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
オリガ・エレノワ
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
ジン
小6、男。クラスのリーダー。インドネシア人。優しい。
佐竹
小6、女。クラスのボス。
ナディアが、瞬きせずに、僕を見つめてる。
少し濃い眉。優し気な二重。
どことなく丸みのある童顔からは、女の子らしい、彼女本来の性格がにじみ出てる。
今は、保健室で借りたジャージを着替えて、Tシャツとデニムだ。
前髪はカチューシャで上げてる。
昨日のオーリャとダブった。
ナディア、身長は僕より少し小さいくらいだけど、スタイルがメッチャいいから、よく似合う。
今は、ダイニングのテーブルで向かいに座ってるから、上半身しか見えないけど。
「戦場て……あの、戦場か? ドンパチやっちょる?」
僕は頷いた。
「そう。場所はタイの北部。ビザ無しで行けるから。目的は、ミャンマーとの国境で、避難民をタイ側に逃がす事…… 非合法のボランティア活動」
……瞬きしなよ。
眼、乾くよ?
「難民ってね、ウソつきで自分勝手で、どうしょうもない奴らの、集まりなんだぜ?
考えてることは、僕からどうやって、金目の物をせしめるか、って事だけ。
僕は、父さんに食ってかかったよ。あんな、クズ共、勝手に死ねばいいじゃんって。
あんな奴らのために、カスリ傷だって負いたくないって」
凍りついたままのナディア。
「父さんは言った。『心配いらない、2、3日すれば分かるから、お前は自分の事だけ考えてろ』って。
そのとおりだった。山の中で、足止め食らってた難民、ゲリラだか、山賊だかわからない奴らに襲われて、片っ端から撃たれてた。
僕の仕事は、難民の奴らを、安全なタイ側まで……つまり、ドサクサで、越境させる事。
ゴー、ストップ、ダックって3つの単語だけでね。銃はもたせてもらえなかった……
ヤンキーたち相手にやってた、鬼ごっこの総仕上げだ」
ナディアの黒い目に、涙が浮かんだ。
「ホント、何にも聞こえないんだよ、必死過ぎて。
耳鳴りだけがするんだ……… 気付いてみたら、僕だけ、タイ側のキャンプに辿り着いてた。
しばらくしてから、僕の後を追ってきた連中、半分以下になってた……そいつらも、何人かは撃たれてて」
ナディアが、口許を覆って震える。
「初めて、人が死ぬとこ見たよ」
その眼から、涙があふれた。
でも、僕は泣けなかった。
「『難民は、自分の家族を護る為なら、平気で人を騙すし盗む。間違っても、可哀想なヤツらを、助けに来たなんて思うな』そう言う父さんに、僕は泣き喚いたよ」
僕は言葉を切って、苦いものを飲みこんだ。
なんで、こんな時まで、オーリャのスネてる顔が浮かぶんだ?
マジで、薬もらいに行くか?
「じゃあ、何でこんな事させるんだ? 僕より、名前も知らない難民の方が、大事なのかよって。
父さんはあっさり言った。『こんなトレーニング、お前にさせるのは可哀想だ。だけど、させないと、もっと可哀想な事になる。
橘の娘を、お前に会わせたのを、今は後悔してる』って」
「ウチ……うち……」
必死で、言葉を探すナディア。
「僕らは、彼らをトレーニングの為に、利用した。つまり、自分達の為にやったんだ」
ナディアの言いたかった事は、こういう事じゃ無いかもしれない。
でも……
『自分のため』っていう言葉は、難民の死体を連想させるんだ。
僕にとっては。
「ちゃう……ちゃうやろ」
「でも……でも」
僕は唇をかむ。声が震える。
「でも……ナディアを引き止めた時は、違う」
僕の心も決壊した。
大声で喚く。
「ナディアを助けたい、それだけだったんだ!」
椅子を倒して立ち上がり、テーブルを、回り込んで来たナディアは……
みっともなく泣いてる僕の顔を、胸に埋めて叫んだ。
「凛、なんでもしちゃる! してほしい事言うて? 何でもじゃ!」
Tシャツごし、頬に触れるナディアの胸。
すすり泣く僕を抱きしめる。
「利用……したんじゃ無い。絶対に違う……」
「すまん、スマン! ごめんなさい!」
その言葉は、保健室で怯えて泣いてた、ナディアを思い出させて……
死にたくなった。
空っぽになった頭に、オーリャとの思い出、自分がしでかした事、ものべに言われた事が一気にのしかかってきた。
呼吸が速くなる。
苦しい。
息が出来ない。
「無理だ……もう無理。助けて……」
ダレカタスケテ。
「凛!……凛、こっち見い!」
ナディアがおでこ同士をくっつけて、叫んだ。
「もう、許してって言わん! だから、何でも言うて? 何でもしちゃる! うち、ここにおるけん!」
最後の方は絶叫だった。
ナディアの濡れた顔が、歪んで見えた。
「なら……僕を助けて。もう無理。心がバラバラになりそうなんだ」
「んっ!」
ナディアが、また僕を抱きしめ、引っ張り上げた。
座ってた椅子を蹴り飛ばし、フローリングの床に僕を倒すと、膝の上にのせ、抱き寄せてくれた。
「うち、ここにおるけん! どこにもいかん! 独りにせんけん! 凛の事……独りにせん!」
「………ウソつけ」
オーリャ。
もう……会えないのかな。
僕の頭を、はがして覗き込む、優しい女の子。
天使でも、女神でもなくて……
等身大の、僕のそばで、泣いたり笑ったりしてくれる、傷つきやすい、同級生。
自分の痛みを我慢して、僕の為に泣いてくれる…… 柔らかくて、穏やかな陽射しみたい。
「ウソちゃうけ!? 何でそんなこと言うんじゃ!?」
彼女の腕の中。
唇の震えが止まらない。
「だって……僕、最低じゃん。枕投げたり、髪の毛引っ張ったり…… 」
僕は声を上げて泣いた。
「こんな風に……フラレたから、なぐさめてって……クズじゃないかあ!」
うわああん
赤ん坊みたいに、泣く僕を、あぜんと見下ろす、褐色の泣き顔。
その顔が微笑んだ。
僕と同じ位ひどい顔で。
僕をゆっくり、胸の中で揺らしながら、ため息をついた。
「……ほんにのう。しかもウチの、昔っからの友達じゃぞ?
よりによって、イッチバン、アカンやつ選ぶとか……
あーあー、わかった、わかったけん、足バタバタすんの、やめんちゃい。ウチが悪かったけ。
だから泣き止んで……」
僕の額にキスしてくれた。
母親みたいに。
優しい声に、僕はぐずりながら、目を閉じた。
「少し眠りんちゃい。ウチ、ずっとそばにおるけん…… な?」
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
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