魔術師の夜 ~ごめんね、アッラー!~ (4)
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
鈴香
ナディアの姉。高校生。
ユンファ
リーファの会社の社員。リーファのボディガード。
ヨシヒコ
ナディアのパパ。
オスマン
ナディアの親戚
通訳
親戚の仲間
「お館様は、別室で休んでおられます。只、一言。全員殺すとだけ伝えよと」
母さんのスマホの画面の向こうで、チャドルを纏った年齢不詳の女性が、結構上手な日本語で言った。
「婆さんに伝えーや。写真送ったのはまだ、四人だけ。親戚のオッサンの携帯アドレスに二件、アンタの地域の店に二件。もみ消せる範囲やで」
言い終わらないうちに、画面が揺れた。
おばあちゃんのとこに走ってるのだろう。
「この娘っ子、仕事できるな」
事務所内。
皆が見守る中、立てたスマホに、母さんは呟いた。
「……送った相手を言え、命だけは助けてやる、そうおっしゃってます」
「焦っとる焦っとる」
碇提督のポーズで隠れた母さんの口許が、笑いの形にひん曲がった。
「逆や。うちらに一生関わるな。それが条件や」
「良かろう、そうおっしゃってます」
母さんが険しい顔で、親戚から取り上げたスマホを構えた。
「交渉下手やのう。素直すぎるんじゃ……大方、後になって、異教徒との約束は無効とか、通訳が勝手に言ったとか言いよるつもりか?写真、今すぐばら撒くで」
数秒後、画面の向こうで年寄りの喚き声。
「こっちにいる自分の息子がどうなってもいいのか、そうおっしゃってます……何いってんのこの人……失礼」
面白いな、この通訳の人。
母さんは、ナディアママをちらりと見た。
ナディアママ、片手にスマホを持ったまま、オッケーのハンドサイン。
ナディアパパは安全なとこまで、逃げれたらしい。
母さんは、いつもより高いヨーグルトでも、ねだられたかの様に言った。
「うーん……イイヨ!」
静寂の中、母さんがかじるうまい棒のショリショリ音だけが間抜けに響く。
スキンヘッドも、珍しそうにコンポタ味を齧ってた。
「……一族の血にかけてこのままでは済ませない、そうおっしゃってます」
僕は落胆した。
そうだ、ああいう連中は、面子だけで生きている。
このままやられっぱなしで、終わるわけがない。
母さんはニヤリと笑った。
「それが本音やろな。ええよ、血を流さん決闘なら受けるで」
僕は思わず叫んだ
「僕と勝負しろ!」
母さん以外全員が僕を見た。
母さんのスマホを取り上げ、僕は向こうで通訳してる女の人と向き合った。この子若くね?
「僕の名前は凛。今話してた女の息子、学校で一番のスマブラーだ」
「あ、写真のリンリンだ」
「それ忘れて!? ……パキスタンはeスポーツ世界一、鉄拳ってゲームで最強なんだろ?パキスタン、いや、イスラム圏内でスマブラ最強小学生連れてこいよ。負けたら、配信で坊主にして裸で土下座してやる……通訳さん、スマブラって何か……」
「知ってる。しゅーとん最強。ソーリー、ボーズとドゲザの意味が……」
「スキンヘッド、アッラーに祈るポーズをカメラに向かってする」
「……つまり、最悪のネットタトゥーって事ね」
横を向いて話始めた。
程なくして。
「いいだろう、アッラーと一族の名において、息子家族と断絶することを誓う。貴様らにも手は出さない。そちらも何もするな。そっちの通訳は、ムスリムか?そいつらが証人だ、とおっしやっています」
「リーファちゃん、このオッサンのスマホの中身は?」
「可能な限りのバックアップを取りました」
「ええやろ、後は勝手に話せ。決闘の準備できたら、このスマホに連絡せえ……平日は16時までパートで出られんけどな」
椅子に座らされていた親戚は、僕から自分のスマホをひったくると、お婆さんと急いで話始めた。
縋りつこうとするナディアママの顔をキャッチして、母さんはうっとうしそうに言った。
「暑苦しい!礼なら娘に言いや………こんな時間か。ファミレスしか開いてへんやんか、まったく」
明日、最終話投稿します!