エピローグ 〜スタンド・バイ・ミー〜
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
オリガ・エレノワ
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
通行人に頭を下げるハスマイラさん、動かないままの、リーファ達。
僕に叩きつける拳、がゆっくりになり……
「ゴメンネ、コッチノムネ、痣がアッタネ……右肩モ……デモ」
オーリャが情けない顔で、泣き出した。
「ナンデそんな、嘘ツケルンダヨ? ドンナ気持ちで、ワタシがリンにバイバイしたか、ワカッテル? それが出来るんナラ、離すモンカ……」
僕にまたがったまま、子供みたいに泣きじゃくる、オーリャ。
もう、見なれた、泣き顔。
僕は、衝動的に、彼女の右手首を握る。
……行くな!
なんでもいい、行かないでよ!
「リーファの時ハ? ナディアの時ハ? ジャスミンの時も…… その痣ナンダヨ? メグダロ? カバンの中のピストル…… 心臓が止まりソウダッタヨ……」
僕は……
体が震え始めた。
破滅が近づいて来ている。
僕の恋人は ――まだ、恋人だろ?――
僕のオーリャは、悲痛な声で続ける。
通行人も、ここを避けてるのか、いない。
「好キでも無かっタ、おーりゃのために……パキスタンマデ、来たヤツが……命をかけたダーリンが、かんたんに生き方、かえられるわけないダロ」
……いやだ。
「浮気もがまんする。はたらかなくてもいい。ダーリンが、いてくれたらなんでもいいくらい……スキだよ。おーりゃ、大嫌いだったママのソンナトコ、わかっちゃった。ケイベツできなくなっちゃったんだよう」
……なのに……僕を捨てるのか?
「それよりも…… タエラレないのは…… ダーリンいつかいなくなる」
「ならないっ!!」
オーリャが、また泣き出した。
「なるんだよう。誰かのために、きっと死ぬよ。実績だらけじゃん。そんなの…… おーりゃのためでもいやだよう…… 何より」
もういい。
たのむ。やめてくれ。
「何よりユルセナイのは……ソンナ奴ダッテワカッテルノニ、好きデ好きデたまらナクテ、ナニモカモ……」
やめて、たのむから。
「何もかも、投げ出してもイイッテ思っテル自分自身ダヨ!」
それに賭けた。
「オリガッ!!」
思い切り抱き寄せた。
離さない、絶対離すもんか!
死んでも離さねえ!
だけど……
なのに……
暴れて抜け出そうとするんだ。
オリガは。
「ハナシテ! ダメナノ、リンドウはイチバン駄目なの!」
頭を、肩を叩かれる。
オリガの柔らかさ、匂い。
時間が止まってくれるなら、何でもする。
何でもするのに。
「オリガ、壊れたくナイ! オーリャジャ駄目ナンダヨッ!」
とうとう、僕を叩くのをやめて、空を仰いで泣き出した。見なくても、子供みたいに目をこすってるのがわかる。
「アダジ……ヅヨグナルンダ……オーリャどナダージャみだいな、オモイ…… コドモニ、ざぜだぐないカラ…… アッダガイ家庭………… アッダガイ家庭……」
あったかい家庭。
彼女がいつも口にしてた言葉。
彼女がこの世で、一番欲しいもの。
僕はその気持ちを、甘く見ていた。
恋人から手を離し、ゆっくりと仰向けになる。
僕は負けを認めた。
顔を覆う。
何も見えなくなった。
顔が熱い。
目と鼻の奥が痛くなる。
ゔああああん
オーリャの子供みたいな泣き声。
体が軽くなった。
そして離れて行く。
お別れのキスもなく。
サヨナラさえ無いままに。
ゔああああん
遠ざかっていく。
もうひとつの、情けない泣き声。
それは、僕の口から漏れていた。
ゔああああん。
エスカレーターを登っていく、金髪女神の、みっともない泣き声。
リーファ達のすすり泣き。
顔を覆った暗闇の中、僕は悟った。
僕の恋が終わった。
誰ひとり幸せになれなかった……
僕の初恋が。
気がつくと、僕は飛行機を見送る、展望デッキのベンチに座っていた。
どうやって、ここまで来たんだろう。
覚えてない。
……人はまばらで、夏休み最終日だから、学生らしき年代の人達も、混じってる。
相変わらずの快晴。
空さえも、空っぽの心を、憐れんではくれない。
父さんには、家を発つ時点で、帰りは電車で帰るって約束してた。
周りに知ってる顔はない。
公園になってる5階、滑走路の向こうに、海と低い山が見える。
お気楽に、柱から標識がつきだしていた。
シドニー、北京、シンガポール……
何で、モスクワが無いんだよ、アホウ。
オリガの乗った飛行機は、多分とっくに飛び去ってる。
涙は出ない。
多分、枯れたんだと思う。
少し離れた柵のところで、3人組の、JKか何かが、きゃいきゃい、はしゃいでて、カンに触った。
「……あ、あの飛行機じゃね?」
「いよっし、歌って送るぜ……って恥ずくない?」
「いや、うちらの歌声、本家、ビートルズ超えてるしな? あとであげよーよ」
歌いだした曲を聞いて、呆れた。
スタンド・バイ・ミー。
それ、ビートルズじゃない。
カバーしたのは、ジョン・レノンだし、元歌は、ベン・E・キングだよ、アホウ。
それほど上手くない、その歌が、ジェット機の轟音の中、微かに聞こえた。
JK達は、悲鳴を上げて笑いだし、ヤケクソみたいに、声を張り上げる。
When the night has come
And the land is dark
"夜が来て、辺りは暗くなる"
僕は、涙の枯れ果てた眼で、空を見上げる。
Oh, I won’t be afraid
Just as long as you stand, stand by me
"何も怖くはないよ
君が僕のそばにいてくれたら"
ジェット機の後ろ姿。
僕も乗っけてくれないかな。
叶うなら。
彼女の許へ。
又、罵られてもいいから。
So darlin’, darlin’, stand by me
Oh, stand by me
"だからダーリン、そばにいて
そばにいてよ"
オーリャ。ずっと、そばにいたかった。
もう少し、早かったら。
恋に落ちるのが、もう少し早かったら……
何か変わっていたんだろうか?
Oh, stand
Stand by me, stand by me
ふり仰ぐ空に、いわし雲。
僕の恋も、夏も終わる。
…………僕一人を、置いてけぼりにして。
金髪女神は、振り向かない編
〜了〜
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!