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魔術師の夜 ~ごめんね、アッラー!~ (3)

《登場人物》


 林堂 凜

 主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。



 香咲 ナディア=マフディー

 小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。



 梁 梨花リャン・リーファ 

 小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。


 ジン

 クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい


 

 佐竹

  クラスメイト。女。クラスのボス。


 

 鈴香 

 ナディアの姉。高校生。


 ユンファ

 リーファの会社の社員。リーファのボディガード。


ヨシヒコ

ナディアのパパ。



オスマン 

ナディアの親戚


通訳

親戚の仲間

「アッラー!!」

ナディアの親戚が、悲鳴を上げた。

突きつけられた自分のスマホに飛びつこうと暴れる。

無駄だ。

スキンヘッドと、ユンファさんが、ガッチリ両腕を固めている。

母さんの指示を完璧に遂行したであろう、通訳の怯えた声が外から聞こえた。


「何食ったら、こんなひねくれた事思いつくんだ?こえーよ……」


同感だ。

でも、声が出ない。


もう僕は、無邪気に笑えない。

魂まで、汚されてしまったんだ。




五分前に遡る。


事務所内。

もはや、服だった、と言うしかないものを纏った姿で取っ組み合いをしているナディア達を残して、ノロノロと外に出た。


僕は、魂まで汚され、ヨダレを垂らしそうな顔で、何度も自分のスマホをスワイプした。

母さんが、念の為、何台ものスマホで、撮ったんだ。

三枚の写真を、ノロノロと繰り返し眺める。

僕の見間違いになってくれるかもと願いつつ。


一枚目は。

ドヤ顔の僕の頬に、ナディアとリーファ二人が、両方からキスしてる写真。

猫耳が、二人に描き足されてるけど、スノーとかで顔は隠してない。


『ご主人様にチュッ。ウチら、リンリンのペットだニャン!』


と、見られたら3人とも舌を噛んで死ぬしかない痛いキャプション付。


本来、ナディアと僕だけの予定だったのに。

リーファが、ナディアだけにそんな事、させるわけに行かない、ええんよリーファ、大丈夫やからすっこんどき、チビ……私達友達でしょ、いらん言うとるやろしばくぞ細目、は?ぐるぐる回してバターにするよチビクロ、話長いわ二人で撮りや……となった。


モチロン僕の人権は無かった。


2枚目は。

僕とナディアが、駄菓子のカツを両端からくわえてる写真、ナディアは片手をお腹に当てて、カメラ目線で横ピース。


『ぶたさんおいちい。お腹のエルマたんに、バッチリ栄養!』


のキャプション。

ナディアのむき出しのお腹に二ヶ月目(照れ)と書かれた矢印。ちなみに、僕は上半身裸。

ナディアは辛うじて下着が隠れる程度まで魔改造された服で、元気よくポーズをとってる。


そして。

何故かリーファとも同じ様な写真を撮らされた。


……ナディアとの写真に関してはわかる。

文字通り、みんなの命が掛かってるんだ、無理にでも笑うさ。


でも、リーファとは必要ないやん!?


必死で抵抗する僕に、母さんが、平等にせんとゴテてめんどくさいから、我慢せえと押し切られた。

なんで?


三枚目は。

ナディアのお姉さんが、公園であぐらをかき、とてもイイ顔でハイネケンビールを煽っている写真。その前には、雑に開けられたホルモンのパックと、真っ赤なキムチ。

その下に敷かれた『三連勝!優勝か!?……だけど、阪神だからなあ』と書かれたサンスポが、イヤな大阪感をかもし出している。


『この一杯の為におっちゃん生きとるでえ!』

のキャプションと、アル中、二年目の矢印。


これらを、震える通訳にウルドゥー語で書き直させ……


母さんがすっごく悪い顔で、オスマンの携帯をかざして言ったんだ。

「これ、アンタの携帯に登録されてるアドレスと、あんたらの地元付近にある店のフェイスブックに、無差別投下しといたから」


親戚は、まじまじと画面を見つめ、数秒経ってから、真っ青になった。

画面をスワイプしながら、母さんは高らかに笑う。


「タイトルは『マフディー家の美人姉妹参戦!ごめんねアッラー!』


通訳の言いづらそうな翻訳を聞いた、親戚の悲痛な声が、墓場のような工場街に響く。例えるなら、ケンがお星様になった時のアレ。

そりゃそうだ。

しつこいけど、男女同じ部屋で歌を歌っただけでも、土地を追われるんだよ?

あと、神様の名前は気安く出しちゃいけない。

これで香咲姉妹は神様から、何万光年も離れている事を印象づけた。



そして現在。


「アンタらが出来るんは、自分らは無関係、そう言い張る事だけや。違うか?」


皆があんぐりと口を開けて言葉をなくす中、母さんは、親戚の右手だけ開放させた。

親戚の前で携帯をヒラヒラさせながら煽る。


「これで、この子ら姉妹は、アンタらが一番、家に来て欲しない人間になったわけや……とっとと帰れ。次は、言い逃れでけんように、この子らのオトンと映っとる写真送るで?」


僕は慌てて母さんを突き飛ばした。

親戚の右手が空を切る。

スキンヘッドが、腹を殴り、ユンファさんが足を払って押さえつけた。


「凛!邪魔しなや!最後の仕上げやったのに」


そう、痣を作った母さんが、警察を呼んで仕上げだ。

銃を持った社員が去れば、後はどうにでもなる。

強制的に連れてきた事さえ。

今のは動画に撮ってたから、被害者と加害者、どちらの言い分を警察が聞くかなんて、わかりきってる。


でも。


「母さん、それ父さんのリアクション計算に入れてない。面倒くさい事になるだろ」


母さんが、初めて目を背けた。苦々しそうに。


実は、母さん、父さんに弱いんだ。

親戚が油で汚れた地面に押し付けられまま、ゆっくりと言った。


「キル。オールオブユアーズ」


オマエラ全員殺す。

シンプルで、それだけに本気度が伝わる。

今度は本気だろう。

僕は母さんを見た。

この先は予測していたのだろうか。

母さんは、頭を掻いた。


「留置所放り込んで、ちゃんちゃんの予定やったのにな……取調室で、カマされた後お礼参りしようなんて、ヤクザでも思わん」


みんな不安そうな顔をしている。


「しゃーない、オッサン。婆ちゃんにつなげ」

























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