デュエマが、教えてくれたこと
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
オリガ・エレノワ
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
「もともと、心も、身体モ、強い人ジャナイノ。パパがヨソで女作って、帰ッテ来なくなってカラ、お酒のむようにナッテ……」
僕は、なんて返事していいか分からないから、黙って膝の上の横顔を見つめ続けた。
寝そべって、大型のテレビに顔を向けてるけど、映ってるのは、通販専用チャンネル。
ただ、流しているだけだ。
エアコンが回り続け、14時になろうとしてる、リビングを、快適なものにしてくれてるけど……
オーリャの表情はユウウツそう。
そして、そのユウウツは、僕にも直接関係してくる。
やっぱり、一旦、ロシアに帰るのかな。
日差しはそんなことお構いなく、白い薄手のカーテンを通して、僕たちの影をフローリングに映す。
くっきりした明暗。
エクストリーム・ハッピーと、エクストリーム・アンハッピー。
今の僕たちの、気持ちみたい。
「ママ、日本相手ニ、中古車ノ貿易シテタ。美人で、バリバリノビジネス・ウーマンダッタヨ。カッコヨカッタ」
「……オーリャみたいだな?」
悲しげに小さく首を振る。
金髪が乱れた。
「キャリア・ウーマンは、ヒモみたいな男ヲ選ぶヨ。ヤサシイダケの…… ママ、パパのコト、ダイスキだったカラ、超・甘かっタ……パパ、カッコヨクテ、ヤサシかったケド……ダレニデモヤサシカッタから、イッツモ、トラブルばっかりだったナ」
「……」
僕は無言で聞いてた。
どっかで聞いたセリフだから、スルーしたってのが正しいかも知れない。
オーリャが、天井を見る、
カチューシャで晒された額に、白い手首をのせて、僕の方じゃなく、天井を。
僕とは違う、青い色の瞳。
何を見てるんだろう?
気になる。
彼女の頭を持ち上げ、驚くのも気にせず、キスをした。
不思議そうな顔。
僕は、いつの間にか、彼女に夢中になっていた。
「したかったんだ……ゴメン、続けて?」
オーリャは嬉しそうに微笑むと、自分から顔を起こして、僕に長い口づけをくれる。
「……プルプル震えてますよ、奥さん?」
唇をふさがれたまま、モゴモゴ返す。
オーリャは、ぷはっと、僕の太ももの上に落下して、微笑んだ。頬が赤くて、青い目が細くなってる。幸せそう。
「おーりゃのほうがすきだから、まけたくないもん……Я без ума от тебя.」
間伸びした、小さい子みたいな日本語、流暢なロシア語。
僕の心をかきむしる。
何で今まで、コイツの魅力に気づかなかったのかな?
抱きしめたいのを我慢して、困ったように微笑んで見せた。
「……そっか。オーリャのご両親、ケンカが絶えなかったんだね」
「ウウン。イッツモ、パパ、平べったくなってアヤマッテタヨ。ケンカにもナラナカッタ」
僕は、顔が引きつらないように、全力で笑顔を保つ。
……それって、昨日から今日にかけての、誰かさんをオマージュしてなくない?
ロシアにも、土下座ってあるの?
ロシアン土下座?
「パパ、ウソがヘタで、ナンデモ顔に出るカラ、仕事モ、続カナカッタヨ……」
じっとりと嫌な汗がにじみ出す。
何、この親近感?
オーリャのパパ、他人に思えないぞ?
メッチャ自分の未来が見えるみたいで、超・怖いんだけど?
遠い目をした恋人の、流れ弾に被弾し続ける、僕。
「仕事クビにナッテ、ノンダクレテ……」
僕は嫌な予感が、押さえられなかった。
その……
「聞きにくいんだけど……暴れたりしたの?」
「……飲メバ飲ム程、ハウス・チョアヲバッチリ、コナシテタヨ……」
「……ゴメン、何言ってるか分かんない」
腹立ちさえ感じてる、真顔の僕をよそに、恋人は続ける。
「くちグセハ、『勉強シナイト、パパみたいにナルンダゾ、ママを見習イナサイ』……毎日、オイシイ料理ツクッテクレタネ。ママ、料理も家事モ、ゼンゼンダメだかラ」
「タダのいい人じゃんかよ!? 想像と違いすぎるぞ、オーリャパパ! 専業主夫なだけじゃん?」
オーリャが、スッゴクイヤそうに僕を見る。
「エ……ロシアデ、ソレは『ナシ』ダヨ? 日本モ同ジジャン? 凛のパパが、ハタラカナクてもイイ?」
う……
「確かに……ヤかなあ。ってか、修行させられてる頃は、休みの日なんかベッタリでしごかれて、死ねって思ってたし」
オーリャが、目をパチクリさせる。
「シュギョー? ナニソレ?」
しまった。
僕は、暗い顔になったと思う。
オーリャが、あせった様に身を起こして、僕の頬を挟む。
「凛。何がアッタ? オーリャ、知りタイヨ……凛のコトはナンデモ」
心配そうな顔が、僕の眼を覗き込む。
僕は観念した。
ジャス子やメグに話して、恋人に話さないのは裏切りに思えるし。
……でも、どこまで話そう。
僕は、ぽつりぽつりと、メグ達に話したのと同じ内容を口にした。
怪我で、首から下が動かなくなった事に話が及ぶと、泣きながら抱きしめられた。
「ツラかったね……」
鋭い痛みが、胸を刺す。
それと同じセリフを、ジャス子にかけられた事を、思い出してしまったから。
リーファの事も思い出してしまった。
相棒の泣き顔が、脳裏を横切る。
ナディアの笑い泣き。
ぼくを護る為、ショックバトンを握った、泥だらけの、メグ。
……この場所から、出たくない。
アイツラに会いたくない。
オーリャを恋人にした……どころか、妊娠させちゃったって知れたら、軽蔑されるだろうな。
この時初めて、僕は現実を肌で感じた。
もう、元には戻れない。
僕は、そっと歯を食いしばる。オーリャに気付かれない様に。
……デュエマやってて良かった。
アレの良いところは、デッキは40枚って決まっているところだ。
子供って、欲張りだから、何でも詰め込もうとする。
昔、父ちゃんにデュエマの説明をすると、嬉しそうに言ってた。
「こりゃええな。4桁の暗算、難しい漢字、何より、ガキの苦手な、『捨てる』って事が覚えられる」
……そうだ。
欲しいカードを入れたければ、お気に入りの何かを捨てなきゃならない。
僕を抱きしめて、泣いてくれてる、オーリャの体温を感じながら、みんなとの関係が、終わる覚悟を決めた。
そっと背中に手を回す。
僕に足りなかった物。
それは『無くす覚悟』だ。
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!