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魔術師の夜 ~ごめんね、アッラー!~ (2)

《登場人物》


 林堂 凜

 主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。



 香咲 ナディア=マフディー

 小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。



 梁 梨花リャン・リーファ 

 小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。


 ジン

 クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい


 

 佐竹

  クラスメイト。女。クラスのボス。


 

 鈴香 

 ナディアの姉。高校生。


 ユンファ

 リーファの会社の社員。リーファのボディガード。


ヨシヒコ

ナディアのパパ。



オスマン 

ナディアの親戚


通訳

親戚の仲間






母さんは振り返り、呆れているユンファさんたちに命令する。


「そいつら……通訳連れとる言う事は、日本語わかるん、そっちだけか。口抑えといて」


リーファがあごをしゃくると、スキンヘッドが、通訳の口を覆って、一本指を立てた。

通訳が何度も頷く。


「鈴香ちゃん、繋がった? オカン、あんたは出たらアカン、貸して……あ、鈴香さあん?林堂凛の母ですぅ」


いきなりよそ行きの声に変わった母さんに僕はズッコケそうになる。


「いや、久しぶりやねえ、元気してるう?大阪来てるんやて?うわあああ、懐かしいわあ……」


ナディアの耳許に口を寄せると鋭く命じた。

「そいつら、叔父の仲間。あんたのパパは屋敷から逃げた。指示に従って脱出しろ……書け」


母さんは、ニパッと笑い、お姉さんに話し続ける。

「おばちゃんも年取るはずやでぇ。あ、今、Line、来たやろ?今の音したやつ。見てみて!驚いたらあかんで?……驚いた?せやろせやろー!」


ナディアに告げる。

「ゲロ吐け。何とか窓際に寄れ。信号待ちで脱出、店に飛び込み、叫び続けろ」

「……なんか、声おかしない?今どこにおんの!深江のマクドの前?車なんや!気分悪いん?四駆乗ってんの?そりゃ酔うわあ」


リーファに目配せ、頷いたリーファ、指令を送り、仲間の座標を確認。

「チャーリー班、三分後に接触する。合言葉はグラスゴー」


母さんは、頷くと、ナディアに目配せ。ナディア、スマホに、指を走らす。

みんな、固唾を飲んで見守っている。


「え、どないしたん!吐いてるん?あかんやん……ちょっと!ちょっと!」


スマホから、微かに流れる騒音。

全員が耳をすませる。

母さんも、今は口を閉じて、険しい顔をしている。


三十秒後。

リーファが告げた。

「パッケージ確保。タンゴは逃走。警戒しつつ、撤退せよ」


「あー、疲れた!」


母さんは喚くと、首をコキコキ言わせながら、事務所前の、ソファーにどっかり腰掛けた。

もうもうと埃が立つ。


「あ」


天井を見て、母さんが呟いた。

「どうせ下降りるんやったら、資源ごみ捨てときゃよかった。あー、めんどくさ」


全員が声もない。


母さんの独壇場。


母さんは、鬱陶しげに、日本語がわからなくて取り残されてる親戚を見た。足許のスマホに手を伸ばし、


「いっちゃん面倒なんがも一つ。オッサン、オカンと繋ぎっパか?……これやな、借りんで」


抗議の声をあげようとした、親戚をしっしっすると、キレ気味に喋り始めた。


「あー、もしもし。ばあちゃん、あんたには、一っミリも用無い、横のオトンの方や。ファーザー、ファーザー……もうええ!ナディアの父ちゃん聞こえますかー!? アンタの娘の同級生のオカンですー。日本語はー?」


母さんが、ナディアたちの方を見ると、二人ともガクガク頷いた。


「長話嫌いやけ、サクッといくでー! 鈴香ちゃん? 取り返した。なんや、その泣きっつら……あーイライラする……みんな無事や。後、お荷物はア・ン・タ・だ・け。こっちとそっち、人質一対一になっとるやん、余っ計な事するから。うまいこと丸め込んでそっから消えて。安全なとこついたら連絡しなさい……あん?」


間の抜けた静けさ。母さんがユンファさんに、二本指をちらつかせる。

スキンヘッドが、慌ててくしゃくしゃのタバコを取り出した。


「んな事わかっとるわ!話長い!アンタのオカンに、娘ら、諦めさせればええだけやのに、何で包丁やら爆弾やらいんねん……アホか!」


ナディアママが、ビクッと身をすくめる。

ユンファさんが、何か納得行かない顔で、それでも恭しく火を付けると、母さんは煙を思い切り吸いこんだ。

あーあ、禁煙が。


「アタシが、20分で終わらす。ただし、あんたがそこフケてからや。ヤッラー(行け)!」


盛大に煙を吹き出しながら、ブチッとスマホを切ると、上着のポケットに突っ込んだ。


「バカオヤジはこれでええ……バカオカン。アンタや、あんたの事や」


ソファで、碇提督のポーズをとる母さんに、ナディアママは、はい、と項垂れた。


「包丁は、料理作るもんや。他の事に使ったら……誰が子供に料理作るんじゃ、どあほう!!」


「申し訳ありません!」


ナディアママは平べったくなって、泣き出した。

ナディアは、オロオロしながらも抗議する。


「好きでしたわけやないです!どうしろ言うんですか!?」


母さんは、ナディアに視線を向けた。


「あんたと鈴香ちゃん次第や。全員救える」


「……ホンマですか?」


「ナディアちゃん。鈴香ちゃんもやけど、恥かく覚悟ある?」


ナディアは言葉に詰まった。


「一生ネットで晒されるかも知れん、鈴香ちゃんは、場合によっちゃ、補導されるかもしれん……」


母さんは、淡々と続ける。


「それでも、コイツラと縁切れる。引っ越しせんでええ、お父さんとも、きっと暮らせる……」


「やります」


ナディアは食いついた。


「どんな事でも」


「了解」


母さんは、立ち上がって歯切れよく言った。



「んじゃ、まず、うちの馬鹿息子にチューしてもらおか?」

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