5番目のキス
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
オリガ・エレノワ
日本で言う、小6、女。ロシア人。ナディアの実家のメイド。凜の五先の相手。バロチスタンで、彼女の命を救って以来、主人公の事が好き。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
ここ数日のハードモードで、大分ヘタっている、僕製スーパーコンピューター。
何回エンターキーを押しても、同じ答え。
……あれ、今回は違うな?
画像が出て来たぞ?
お! カラ太郎とカラ次郎! 久しぶりじゃん?
GIF画像みたいに、交互に背中を流し合って仲いいな。
『カラ太郎兄ちゃん、お風呂は気持ちいいね!』
『そうだろう、弟よ! お風呂は下級生の口をふさいだり、同級生の下着を剥ぎとる場所じゃないぞ。先っぽの色を想像するとか、もっての他さ!』
「マダしてねえよ!?」
僕はこわごわ、上半身を風呂場の床に横たえている、金髪を見る。
きれいな髪も、吐いたもので汚れてるから、洗わない訳にはいかないなあ。
ドライヤーや、バスタオルはきちんと用意されてる。
そもそも、メイドだもんな、きっちりしてるよ。
なのに、なんで荷物がダンボールに入ったままなんだろう?
次の行動を躊躇していると、オリガが苦しそうに横を向いて、えづき始めた。
そうだ、いらん事考えてる場合じゃない!
父さんの修行でも、小学生の飲み過ぎをナントカする方法なんて無かったけど……
そうだ、単純に飲んだモノを吐かせよう。
そうだ、それだ!
抱き起こして、背中を擦る。
雪みたいに白い背中、そのきめ細かさに心臓が高鳴った。お腹に回した手が、柔らかく沈む。
いや、引き締まってるのになんで?
七不思議過ぎんか?
「オリガ、全部吐いちゃえ」
「……クトエタ?」
うつむいたまま、ガラガラ声で呟く。
ロシア語なの? 分かんない。
「僕だよ、林堂」
「………ダーリン?」
ソウデース、とも言えず、
「大丈夫か? 話は後だ。アルコール吐いちゃえ」
オリガは無言。
僕は背中をさすり続ける。
「苦しい? 水持って来ようか?」
オリガは、少しして小さく頷く。
「待ってろ」
僕は薄い石で出来た、足拭きマットで足の裏を拭くと、冷蔵庫に向かって駆け出す。
整然と並べられた食材。
几帳面なオリガの性格が出てる。
仕事が出来るって、こういう事なんだよな。
見習わなくちゃ。
2Lのペットボトルから、急いでコップに注ぐと、あわてて風呂場に引き返す。
カーテンを開け、洗面所を兼ねた脱衣所に飛び込む。
シャワーの音に混じって、ゲェゲェやってる声がした。
洗濯機の上に、コップを置き、閉じられた折りたたみドアに手をかけた。
「開けるぞ」
「アケルナ……ミナイデ」
僕は慌てた。
「あ……服脱いだの?」
「チガウ……クサイシ、キタナイ」
ムッとした僕は、ドアを全開にして、裸足で入りこんだ。
四つん這いで、排水口に顔を寄せて、えづいてる金髪の後ろ姿。
吐いたもののイヤな臭い。
だから何だよ?
オリガが、か細い声で抵抗する。
「来ンナ……」
「断る。絶対離れないからな?」
オリガが金切り声で喚く。多分ロシア語。
僕は怯まない。
「……気が済んだ? リーファん家で僕が吐いた時、助けてくれたろ」
「ナンデ……? ナンデコンナとこ、見るんダヨ!? タクサン、キレイにシテも、シランフリだったクセに!」
オリガは叫んだ。
「オマエも、ワタシノコトなんか、キョーミナイジャン!? もうイイ、カエレヨ、ヤサシクスンナ!」
……『オマエも』
オマエもって何だよ?
何言ってんだコイツ?
オリガは排水口に顔を寄せて、胃液を吐いた。もう、吐くものが無いんだ。
僕よりも、大きな体。
でも、頼りない背中。
せっかくの長い金髪が、濡れた排水口に触れている。
「……モウイイヨ。カミサマ、ワタシにダケ、キビシイモン。ワタシにキョーミモッテクレルの、ママとナターシャダケ……ナノニ……」
オリガは顔を覆って泣き出した。
僕は、体が痺れる様な、ショックを受けていた。
この感覚、最近どこかで……
「ロシアデモ、ミンナイジワルで……凛、ヤサシイケド……ミンナにヤサシイモン……ヘイキデ命カケテ」
次のオリガの言葉が、ハンマーになって僕を叩きのめす。
「チガウ……凛、キット、リーファパパと同じデ、スリルが、ダイスキナンダヨ」
僕は体が震えだすのを、止められなかった。
違う!
叫びたかった。
俺はそんなんじゃない!
オリガは、声を上げて泣いている。
「ロシアデモ、ボッチ、バロチスタンデモ、トモダチ、イナカッタ……ビューティーダッテ、イワレテモ……イイオモイシタコトナイヨ」
……そうだ。
美人だから、ロシアでは、告白を断わったヤツらにイジメられ、バロチスタンでは、ロリコンに攫われかけた。
残念美人な、ワーキングガール。
笑えない。
ヒドすぎないか?
「ママ、病気デ、ニュウインシタ……ドウシヨウ」
「えっ!?」
僕は思わず大声を上げた。
お酒、呑んでた理由はそれか!
「ナターシャ、ボッチにナッチャウヨ……ワタシミタイニ……ナッタラドウシヨウ……」
ペッタリ座り込んで、背中を向けて泣く姿は、僕より年下に思えた。
頼りない。
コイツ、こんなに無理してたんだ。
あ。
さっき受けた衝撃。
最近味わった様な気がしてたショック。
ジャス子だ。
アイツがあんなに無理してたって、理解した瞬間。
その時に、味わったアレだ。
そう気づいた瞬間、僕はオリガを後ろから抱き締めた。
言葉は自然に出た。
「ゴメンな……勝手にオマエは強いって思い込んでた」
オリガは、僕の腕を両手で握った。
「ハナセヨ……ワタシナンカ、3番目……ヨリ下ナンダロ」
そう声を絞り出す、ボッチの外国人。
ジャス子の時みたいに、シャワーは、流れっぱなし。
「……僕の事好きか?」
「……キライ。だれにデモヤサシクテ、シュガーみたいに甘クテ……カワイクテ、サムライデ……」
首に巻き付けた腕は、離してくれそうにない。
「そっか。僕も……キレイで、太陽みたいに明るくて、短気で、優しくて、頭のいいオリガなんか……こっち向けよ」
オリガは素直に振り返り、涙を溜めた眼で僕を見上げる。
僕は無防備な、オリガの泣き顔を、心底可愛いと思った。
守りたい。
独りにしたくない。
「僕みたいな、取り柄のないチビにはつり合わないって、ずっと思ってたけど?」
オリガは、酸っぱい顔で呟いた。
「ばか……ヤー、ベズ ウマー、 アット ティビャー」
僕は笑った。
「わかんないよ」
「ワカレヨ……意味ハ」
顔を近づける。
慌てて、指で唇を拭う美少女。
そっと目を閉じるオリガ。
僕も。
……生まれて初めて、自分からキスをした。
世にも柔らかい感触が、唇を覆って……
離れた。
「意味は……『アナタしかミエナイの』……イワセンナ、バカ」
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
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