エピローグ 〜悪夢が微笑む時〜
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
エディ・田中
犯罪組織、HAZEの一員。
ヤクザ、中国マフィア、警察に追われ、逃走中。梁家を付け狙い、その関連で、主人公たちと関連する人物を無差別に襲う。
珠乃
エディ・田中の経歴上の娘。小6。
カン軍曹
北朝鮮から派遣された軍人。作戦に失敗、部隊は彼を除いて全滅。
梁リャン 健一ジェンイー
日本名、橘 健一。リーファの父。
台湾人。民間軍事会社の社長で、梁財閥の長男。リーファを溺愛している。
梁 梨花リャン・リーファ
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
ジェーン
リーファの父の相棒。伝説の工作員。
王
リーファの父が営む、民間軍事会社のオペレーター。
米沢
芸能プロダクションの二代目。
ヤクザに顔が利く、金持ち。
元々は、リーファに痴漢したロリコン。
さっきの場所から、充分離れた展示室で、ボンヤリと作品展を眺める、私と王。
真っ青な顔でシヴァが現れたのは、5分過ぎてからだった。
強張った顔で唇を舐める、シヴァ。
最悪な内容しか想像出来ねえ。
一体何なんだ?
冷静沈着な戦士の声は、掠れていた。
「ボス、俺はあの場所に立ってた事を、後悔しています……ボーンだったら良かった」
「残念だが、オマエはボーンじゃねえ。報告しろ」
「先に王と話させて……」
俺はキレた。
「いい加減にしろ! 今更勿体ぶってどうすんだ? 先に王と話して、何になんだよ!?」
命令だ、と言う前に素早く、手に持ってたものを、私に見えない角度で、王に見せた。
王の背中に、電流が走ったのが見えた。
「大人の娘……らしい」
私が覗き込む寸前に、王がそれをひったくった。
巨大な、震える背中が、俺の視線を遮る。
背中だけじゃない、全身だ。
何だ、何を見せられた?
弾かれたように、地を蹴る王。
シヴァが、全力で胴にしがみつく。
予測していたように。
王の圧倒的なパワーに引き摺られながら、小声で叫ぶ。
「よせ、王! エディがHAZEを作る前から、ターレンは、活動していたんだ……分かるだろ?」
廊下の向こうで、見つめていたエディが、近づいてきた。疲れきった顔。
「ソイツの恨みの深さは、尋常ちゃう。死ぬまで諦めへん……分かるやろ?」
巨大な拳を握りしめる王。
後ろ姿で、表情は分からない。
一体、何なんだ?
俺に恨みがあって、王に関連がある……。
………。
俺の心臓が爆発した。
膝が震える。
合う。
辻褄が合う。
俺はそっと壁に寄りかかった。
立っていられる自信が無い。
王は、殴りかかる代わりに、エディに掌を突き出した。掠れた声で囁く。
「タバコあるか?」
エディは、王をみつめたまま、懐からセブンスターと百円ライターを取り出した。
ソイツをひったくると、王が駆けるように出口に向かう。
「王!」
後を追う俺。
エディもシヴァも、俯いたまま動かなかった。
自動ドアを出ると、熱気と蝉の声が、同時に降り注いでくる。
ギラつく太陽が、何故か昏くしか見えなかった。
入り口を出て、申し訳程度の階段を降りたところに、スキンヘッドの白スーツが立っていた。頑なに背中を向けて。
ある時、タバコも酒も薬も辞めた、元ヤクザ……俺の最古参の部下が、震える手でセブンスターに、火を付けようとしている。
何度も百円ライターで、着火するのを失敗し続ける。あれだけ手が震えてたら……無理だ。
俺は、スロープの手摺に凭れる。
手が震え、膝が笑うのを隠すために。
吐く息が熱く、全身が鉛のように重い。
蝉の容赦ない声が、アブグレイブで拷問の為に使われた、メタリカの曲にしか聞こえねえ。
気が触れたように、安物ライターと格闘する、元・日本人の背中に……掠れた声をかけた。
「王……」
雄叫びを上げて、灼けたアスファルトに、叩き付けられたライターが、砕け散った。
怯えたように、足を速める通行人。
肩で息をする、巨漢に俺は、言った。
『問い』では無く『確認』だった。
「そうなんだな?」
5秒後、王がゆっくりと、スーツのポケットから、写真を取り出す。
こちらを向かずに裏返しで、差し出す手は震えていた。
俺の手も震えている。
……もし。
もし、この写真が、想像と違っていたなら、今日が人生最良の日だ。
娘以外なら、神様とやらに、何でもくれてやる。
悪夢なら覚めろ。
頼むよ。
折り目の付いた、写真を裏返す。
バストアップの写真。
悪夢が俺を見返していた。
ガラガラと、胸の片隅に巣くっていたものが崩れていった。
みっともなくよろけた。
座り込みたかった。
王、よく立ってられたな?
L版サイズの写真から、30代の女性が微笑んでいる。
大人の娘が。
リーファそっくりの顔で。
「深雪……」
王の妹でもある、元妻の名を、俺は囁いた。
王には、本部への連絡と、情報の精査を命じ、先に大阪へ帰らせた。
本音を言えば、顔を合わせているのが辛すぎたのだ。
俺も帰宅して、酒を飲んで引き篭もりたかった。
そうせず、こうやってさっきのベンチに座っているのは、ただの意地だ。
ベンチで待っていたエディに、
「娘と廻ってこい。その間に、真偽を確認する」
と告げたのも、強がりだ。
俺の勘が、すべての出来事が、真実だと喚いていた。
エディは、目をそらして頷くと、無言で展示室に消えた。
元の位置に立つシヴァ。
無表情に戻っている。
俺は床を見つめて、なんとか平静を取り戻そうとしていた。
あれから、どれ位経ったろう。
気づいてみれば、目の前にスーツと、青いスカートと品の良いローファーを履いた足が立っていた。
俺は、慌てず立ち上がり、エディを見据えた。
「そちらの要望に沿う。情報の裏はまだ取れてねえが、そう考えれば、全ての辻褄が合うからだ。オマエ、何であの写真を持ってたんだ?」
エディが表情を変える事なく、言った。
「アンタを殺りにいくヤツらは、全員ターレンに持たされる。殺す前に見せるように……ってな」
その言葉は心臓に刺さった。
「楽しかったで」
私は、まっすぐに自分を見上げる少女に顔を向けた。
そこには、なんの他意も、悪意も感じられない。
「オトンから聞いた……大きなお世話や。自分の身くらい自分で守れるわ。こんなコンデ……老害死んだら、せいせいするっちゅーねん。後追いなんかするか、ボケ」
俺は思わず笑ってしまった。
全く、ガキってのは……いいもんだ。
「そうだな、海でも、今日親父さんと離れる時も、全然平気そうだったもんな、すまん」
俺のイヤミに、目を吊り上げた珠乃は、スネを蹴ってきた。頬が赤い。
イテェ。
「テメェは仇や……でも……おおきに」
俺は仰天した。
まさか、感謝を口にされるとは思っても見なかったからだ。
何か言う前に、エディが口を開いた。
「やられっパは、好きやない。だから、一つだけ……」
エディは、私を真っ直ぐに見て言った。
「アンタの娘が困った事になった時は、言うてくれ……俺は頼りになるで?」
私は天を仰ぎそうになった。
全く今日はどうなってるんだ。
思わずボヤいた。
「もう、とっくに困った事になってんだよ……」
「どういう事や?」
エディが眉を顰めた。
俺は舌打ちをしたくなった。
エディが本気で気に掛けてるのが、分かったからだ。
口に出すのもイヤなんだが。
「ここ暫く、引き篭もってんだよ。美人でスタイルも抜群……いや、かなり美人でスタイルも……」
「そうか、そいつは心配やな。珠乃が超美人で、いらん虫が寄ってくるから、よーわかる。スタイル良すぎるから、スイミング辞めさせたくらいや」
「……キショイで、ジジイ共。やめるも何も、クビになったんやんけ、オマエのせいで」
小娘が何か言ってるが、エディの言う事は全く理解できるので、俺達は無言で頷きあった。
「性格も良く、頭もいいんだが、男の趣味は悪い。ソイツ関連だろうよ、あの落ち込み様は」
……俺、何で殺し合ってたコイツに、愚痴ってんだ?
今の窮屈な生活、コイツのせいじゃ無いって分かったからか?
義父が黒幕ってのがデカ過ぎて、コイツが霞んじまったってのが、正確なところだろうか。
こんな愚痴、言える相手もいねえしな。
ハスマイラは、『そっとしといてあげるしかないッスよ』の一点張りだ。
「アイツ、ゲイにでもなってくんねえかな、ッたく」
「……知り合いか? なんでシバかへんねん?」
心底不思議そうなエディ。
羨ましいぜ、全く。
「オトンら、娘に嫌われる毒親、ブッチギリで首位やぞ……そっか。なあ、梁のオッサン。よーするにソイツ追っ払えばええんやろ?」
エディの娘は、人差し指を唇にあて、典雅な顔に悪い笑顔を浮かべた。
それでも、魅力的だと認めざるを得ない。
あくまで、リーファの次だが。
「その男子、ウチに惚れさせたろか? 芝居は得意やで?」
The death need rounders編
〜完〜
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!