魔術師の夜 ~ごめんね、アッラー!~
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
鈴香
ナディアの姉。高校生。
ユンファ
リーファの会社の社員。リーファのボディガード。
ヨシヒコ
ナディアのパパ。
オスマン
ナディアの親戚
通訳
親戚の仲間
「おい、いい加減にしろ!何時まで待たせんだよ!?」
事務所から出てきた通訳の男が喚いた。後ろから、ナディアの親戚が出てくる。
ナディアのママを見て、表情を変えた。
「カオリ」
ナディアのママが、英語で何か吐き捨てた。
視線だけで人が殺せそうだ。
リーファが、通訳に言った。
「働け、通訳」
「いや、帰るよ!?オマエラおかしいだろ、いきなりぶっ放すか、フツー? こっちは何もしてねえし、丸腰だぞ!」
「なにを言ってる?ペンギン、ホントに飼ってるなら、見せてみろと言ってついてきたのはそっち」
「八歳児かよ!?微妙にマジっぽいカタリ入れんな!」
ナディアのママが、蒼白な顔で何かを親戚に言った。英語だ。
オスマン、鈴香だけ聞き取れた。
オスマンと呼ばれた親戚は、肩をすくめた。
飛びかかろうとするママとナディアを、僕とリーファが止めた。
親戚が、厳しい顔で通訳に告げると、チャラいアラブ人は舌打ちした。
「そもそも、私がこの国に来たのも、お祖母様の所に来ると、お前の夫から連絡があったからだ」
ナディアママが目を見開いた。
「アキヒコさんが……」
「誘拐しにきたわけではない。話す間も与えなかったのはお前たちだ」
「でも、正面から迎えに来たって訳でもなさそうだけどな?」
僕の言葉を、通訳はちらりと目を向けただけで無視した。
その時誰かのスマホが鳴り始めた。
ママのだ。一瞬気まずい空白。
僕はつなぎっ放しの携帯に向かい、母さんに小声で実況しつづける。
「ナディアのママの携帯に着信……ナディアママ!それ、鈴香さんか、ナディアのお父さんかも」
ナディアのママは目を見開き、スマホの画面を見て、愕然と僕を見た。正解みたいだ。
「アキヒコさん!?今どこ……」
「リーファ、親戚のスマホは? そっちも鳴るかも。それと、鈴香さん、騙されて親戚の手下の車に乗ってるかもしれん」
リーファが、慌てて、スマホをさわる。
事務所から、スキンヘッドの男がアラブっぽい音楽を奏でるスマホを持って現れた。
リーファが、電話でしゃべりながら不思議そうな顔で僕を振り返る。
「多分、黒幕……ナディアのおばあちゃんから。そいつに返して」
ガタガタの木戸から、出ようとしていた親戚が、怪訝な顔でスキンヘッドから、スマホを受け取る。返してもらえるとは思わなかったようだ。
耳に当て、一言二言話すと、ぎょっとして、画面を見直した。そのまま凍りつく。
ナディアママの悲鳴。
「やめて、アキヒコさん!……お願い、お願いよ……」
親戚が、激おこで、ナディアママの方に踏み出すと、冷たい眼をしたスキンヘッドと、ユンファさんが、立ちふさがる。
親戚が、スマホをかざした。
画面には椅子で寄り添う二人の姿。
キツそうな顔をしたチャドルの老婆と、ハンサムなおじさんが映っていた。二人とも険しい顔だ。
……そりゃそうだろう。
おじさんは民族服の上に、もこもこしたベストを着て、左手にスイッチみたいなものを握っていた。
僕は体が凍りつき、頭の血がいっぺんに下がった。
僕でもわかる。
ナディアのお父さんが、おばあさんを道連れに自爆しようとしているのだ。
そうだ、ここまでやるしかないんだ。
根元から刈り取るしか。
唇が、恐怖でしびれる。
僕は、へたり込みながらも、母さんに言われたとおり、力の限り叫んだ。
「ナディアパパ!あと、5分!いや、3分! 誰も死なずに、全て解決出来ます!」
全員が、僕を見た。僕は、スマホに叫んだ、
「全部母さんの言ったとおりだった……!リーファ、今から母さんが来る、見張りに撃たせるな!
早く!いまどこ?……そう、突き当り、自販機が2台ならんでる!……入口?……それ、ナディアの親戚……」
ド派手な破壊音が響き渡る。
磨りガラスと、油の染みた木枠が弾け飛ぶ。
木戸を突き破った黒い塊に、親戚と通訳は、ゴリパン食らったピチュー並にぶっ飛ばされた。
「ブルー!待て!」
反射的に銃を向けたスキンヘッドをリーファが叱りつける。
……飛び込んできたのは、古びたスクーターだった。
ライダーは、ハンドルに突っ伏して肩で息をしている。
パラパラとガラスの破片が安物の上着からこぼれた。
そこにいる全員が。
地面に転がり、顔のあちこちから、血を流している親戚と通訳さえ。
弱い逆光を浴びる弾丸ライダーを見ていた。
僕の母さんは、ずれたメガネを直しながら、血走った目で呟いた。
「死ぬか思うたわ……こんなん乗ったことあらへんしな」
そして。
天井を見て、大きく息を吐くと……
父さんのスクーターから降り。
台風と化した。
「香咲さん、スマホ!鈴香にちゃんかけて!ナディアちゃんも、スマホ!合図したら、鈴香ちゃんに打って、アタシが言うとおりに。一言一句間違えるな!」
つっかけでネジを蹴散らしながら爆進してくる、僕のお母さんをナディア達は呆然と見ている。
お母さんは、もどかしげに、ナディアママの横っ面をひっぱたくと、すべてを吹き飛ばすような怒声を上げた。
「しっかりしぃや、オカン!娘さらわれてもええんか!」
「は、はいっ!……アキヒコさん、鈴香がさらわれた!絶対何もしないで!すぐかけ直します!」
ナディアもあたふたと、スマホを取り出した。
親戚と通訳が、喚いた。
「ババア、殺す気か!」
リーファが、人差し指を振ると、スキンヘッドが、自動拳銃を向けた。
固まった親戚と通訳に、リーファは下のまつげ越し、冷たい視線を送った。
「あなた達が転んだのは、スマブラXごっこをしてたから。PMごっこにしとけば、コケたりはしなかった」
通訳が呆然と呟く。
「……スマ?……は?」
説明してやりたかった。
スマブラXは、ランダムにキャラがスリップする仕様になってて、それが気に入らないから、PMが有志によって作られたのだと。
そんなの、一般人にわかる訳もなく。
ちょっと赤くなったリーファは呆然としている通訳たちから顔をそむけた。