エディ・田中は、老後を気に掛ける
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
エディ・田中
犯罪組織、HAZEの一員。
ヤクザ、中国マフィア、警察に追われ、逃走中。梁家を付け狙い、その関連で、主人公たちと関連する人物を無差別に襲う。
梁 健一
日本名、橘 健一。リーファの父。
台湾人。民間軍事会社の社長で、梁財閥の長男。リーファを溺愛している。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
ジェーン
リーファの父の相棒。伝説の工作員。
王
リーファの父が営む、民間軍事会社のオペレーター。
米沢
芸能プロダクションの二代目。
ヤクザに顔が利く、金持ち。
元々は、リーファに痴漢したロリコン。
「同志、起きてください。異分子が、炭鉱内に侵入しました」
「……んあ?」
海の底から浮上する様な感覚。
現在地どころか、上下の区別もつかない、寝起き独特の混濁は、2秒ほどで終わった。
俺……えっと……そうや、今はエディ・田中やったな?
んで、ここは炭鉱の中。
10畳程の空間にモニター四台と机、長椅子や簡単なキッチンがある。
事務所兼守衛室? みたいなトコに二人だけ。
俺は、張り詰めた顔で見下ろす、短髪の男……カンやったな、確か……を手で追い払いながら、長椅子から身を起こした。
顔近いわ、アホ。
「ラリ共、梁トコの連中、何人殺してくれた?」
俺は背中を掻きながら尋ねた。
空調利いてるから、そんな汗かいてへんけど、蚊だけはどうしょうもない。
「梁は俺が殺したかったけど……ジャンキーに難しいこと頼んでもなァ……で、どうなん?」
伸びをしながら、宅配で届くプレゼントを待ってるチビっ子の気分で尋ねた。
潜入工作員を5年もやってりゃ、資本主義に染まんのもしゃーないで。
そもそも、共産主義の方が狂っとるしな。
立ち尽くしているカンは、言葉を選んで言った。
「……車両破壊、梁首魁への痛撃……ヤツラに大きな痛手は追わせましたが」
「……ハ? つまり、一人も殺れてへんの?」
「申し訳ありません。橋の破壊により、後続の足止めは出来ましたが、バイクで駆けつけた反動分子が手強く」
「えー、それ寝てたから知らんわ……マジかー」
俺は、天井、むき出しの岩盤を仰いだ。
それは、誤算が過ぎるで……
梁の会社、"イージス・システムは、アジアでは堅調な経営を維持している。
需要がある、つまり腕がええって事や。
にしても、ヤク中共は、42人おったはずやし、本国から派遣されてるコイツ達は精鋭や。さっきから日本語で会話出来てるのが、その証拠。
ソイツラを3人で殲滅するとか、ランボーでも無理やろ? どないなっとんねん?
けど、チラリと見上げた、長身の兵士 ――181cm言うてたな―― は細かく震えている。
嘘つくわけないわな。
死ぬ事より、本国に失態を報告される方が怖いんや、残された家族が別荘送りになるから。
それは、流石に気の毒。
俺も人に同情出来るような、人生送ってへんけど、やれる事はやってやりたい。
念の為、祖国のサッカーくじ並に結果のわかった事を聞く。
「IED、引っかかってくれたか?」
「……いえ。残念ですが」
マジで残念やな、オマエラ?
使えんわー。
……まあ、済んだことはしゃーない。
この切り替えの早さが生き残る秘訣や。
俺は口調を改めた。立ち上がり、母国語でハッパを掛ける。狭い洞窟で木霊する。
「震えてる場合じゃないぞ、同志」
ハッとして、顔を上げるカン。
「胸を張れ。負けを認めるつもりか?」
「いえ……まだ負けておりません!」
「そうだ、栄光ある共和国に敗北は無い! 先ずは脱出、体勢を整え、猛烈なる反撃に出る。出来るか、カン軍曹!?」
「勿論であります、チュン同志!」
「祖国に栄光あれ……万歳」
「万歳!」
感涙に目を潤ませて吠える、祖国の犬 ――マア、俺もそうなんやけど―― に向かい、イイ顔で頷いて見せつつ思った。
アホやコイツ、と。
炭鉱は、迷路になっている。
複雑に小径が分岐し、初めて来た奴にはムリ。
ここでそれなりにお偉いさんやっとる、地元のヤクザに、地図見せてもろた俺しか辿り着けん。
尤も、その地図、きっかり30秒見てから突き返したけどな。
俺もカンもこの施設初めて来たけど、そのハゲヤクザが入って来た山中にある裏口まで、すぐに辿り着いた。
似たようなトンネルを何度も曲がり、迷わずゴールした俺を、カンが驚嘆の目で見る。
「同志……何故、道が分かるんですか? 確か初めてですよね?」
エエ気分や、もっと褒めろ。
自分のこめかみを小突きながらフカす。
「俺の記憶力は特別製やで?……それより、この扉。外からは偽装されとるから、敵にバレてる可能性はない。けど、街中に降りたとき、その戦闘服は目立つ……これ持ってけ」
俺は、開襟シャツを脱ぐと、カンに差し出す。
むき出しの岩盤に沿って、点々と光る裸電球が、カンの呆然とした顔を昏く照らす。
「同志……」
タンクトップ一枚の俺は、USBメモリを差し出した。
「コイツを本国に送信してほしい。かなり重いデータだ。だから……なんとかしてくれ。俺は残らないといけない」
「同志!?」
「もう、気付いてたろ? 右足の腱が切れてる。君をここまで、案内するので精一杯だ」
俺は力なく座り込んだ。
涙を流し、何かを呟くカン。
「行ってくれ。少しでも早く離れろ。私はここに火をつける……これ以上、言葉が必要かね?」
カンは直立不動で、涙を拭った。
元々は純朴で、良い青年だったのだろう。
それだけに……手柄を立てさせてやりたい。
「出たら、右にある幹線道路を目指せ……」
俺はそっと、錆び難いステンレスドアのノブを回し……内側に引き、鋭く囁いた。
「走れ、振り向くな!」
期待通り、カン軍曹はダッシュした。
「チュン同志……万歳!」
……俺はドアを閉め、しっかり鍵を掛けた。
だって、戻って来られたらかなわんやん?
案の定、怒声と銃声が響き渡り、右の方向へと遠ざかっていく。
ずっと引きずって見せていた、右足を曲げ伸ばしして、凝りをほぐす。どっちか言うと、ずっと支えてた左足の方が痛い。
足の腱切れてたら歩けるかいな。気付けよ。
俺は、尻ポケットのタバコを取り出しながら、首を捻った。
「いや……敵サン、人数おるんやから、裏口押さえるに決まってるやん……気づくやろ、フツー?」
そりゃ、裏口バレてるかどうかは分からんかったけど、バレてる前提で動こうよ?
ジッサイ、バレてたやん。
こち亀と、はじめの一歩、全巻の入ったUSBを死守して駆けているだろう、カン軍曹を想像して、首を振った。
「また、どっかのサイトから、落とさにゃならんやんけ……だっる」
咥えようとしていたセブンスターを、すんでの所で思い止まった。
タバコは1日3本までって決めとるんや。
肺ガン怖いしな。
なんであれ、本国にはええ知らせが出来そうで気分がエエ。
――カン軍曹は、雄々しく死んだってな。
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
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