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彼女が泣いた夜(2)

《登場人物》


 林堂 凜

 主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。



 香咲 ナディア=マフディー

 小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。



 梁 梨花リャン・リーファ 

 小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。


 ジン

 クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい


 

 佐竹

  クラスメイト。女。クラスのボス。


 

 鈴香 

 ナディアの姉。高校生。


 ユンファ

 リーファの会社の社員。リーファのボディガード。



髭面 

ナディアの親戚


通訳

親戚の仲間


「私の夫……ナディアの父の実家はパキスタンの西部、法律の及ばない辺境にあります」


古くなった機械油の臭い、病人の顔色みたいな、電球が照らす工場の中で、ナディアのお母さんは話し始めた。顔色が悪く、疲れきっている。


リーファが向けた迎えの車に乗ってやって来たのだ。僕の親には連絡させてない。


「夫は、実家と折り合いが悪く、絶縁状態でした。けど、二年前……私が一度彼の母に、会おうと提案しました。あまりにも不義理ですし、話せば理解しあえる、そう思ってました。私は、どこまでも日本人だったんです。夫とは何日も話し合いを重ね、とうとう彼が折れました」


ナディアのママの話を、僕、ナディア、リーファ、そしてユンファさんの四人が、部品や機械が散らかった工場の入口で聞いてる。

ちらりと、事務所の明かりを見た。

そこに、連行されたナディアの親戚たちと、会社の人の三人が詰めている。


「実家では歓迎されましたが、様子がおかしかった。鈴香どころか、ナディアの結婚相手まで準備されていたのです。私達は帰らせてもらえませんでした」


本来は僕達子供が聞いていい事じゃないけど、ナディアのお母さんに、頼まれたんだ。寂しい笑顔で。


「のんびりした夫ですが、実家に行く前から、その事を予測していました。私達は、笑って相手にしませんでしたが…… 見張りを付けられ、娘たちが、半人質状態でしたが、予め外部の人間を雇っておいたので、脱出する事が出来ました。それでも2週間掛かりましたが」


隣に立つナディアが、僕の服をぎゅっと掴んだ。

僕は拳になってる柔らかい手を握った。

リーファにふくらはぎを蹴られた。


「彼の母が狙っているのは、夫と、鈴香と、ナディアです。跡取りの問題と、血族が異教徒の地にいる事を恥と考えていますから。実家はナディアくらいの年の女の子が、男の子と一緒に遊んだだけで、不浄として殺されかねない土地です」


しょげかえるナディア。


路地でのやり取りで、大体は把握出来たけど、こうやって聞かされるとショックだ。

ナディアのママは、深々と頭を下げた。


「本当にご迷惑をおかけしました。後のことは私達で話し合います。林堂くん、リーファちゃん、迷惑ばかりでごめんね。後で必ず連絡するから」



……ウソだ。


ナディアにも分かっているんだろう。

啜り泣き始めた。

来週中には、僕達の知らないところに転校するつもりだ。そして、スマホを解約するだろう。

たったそれだけで、僕らは二度とあえなくなる。


僕にだってわかる。

ナディアの親戚が、ホントに僕やリーファにちょっかいを出してくる事はないだろう。

それどころじゃ無いはずだし、何のメリットもない。

つまり……僕達には何の口出しも出来ないんだ。


家族の問題。

そう言われたら僕に何ができるだろう。

さっき偉そうな事を言った自分が恥ずかしくなった。

……ヤバイ。考えが、悪い流れに入ってる。


「ナディア、お母さん叔父さんと話して来るから、少し待ってて」


事務所に向かおうとした背中にユンファさんが言った。


「奥さん、カバン預けなよ……いや、ボディチェックしてなかったな」


ナディアのママの足が止まった。


「うちの資産内で、それは迷惑だ」


ナディアのママの肩が震える。

何かに気づいたリーファが、

ナディアのママに近づくと、そっと手をとり、首を振った。

顔色を変えたナディアが叫んで抱きついた。


「ママ、あかん!」


ママは糸が切れたようにくずおれ、顔を覆って泣き出した。ナディアが、ママの背中を捲り、そこに……


木製の握り手を見つけて、凍りつく。


僕も心臓が止まるかと思った。


次の瞬間、それを遠くに投げ捨てる。

包丁は喧しい音を立てて跳ね、工作機械のそばに、転がった。

二人の号泣が工場内を虚ろに反響する。


僕の世界が、ぐるぐる回って反転した。


      さっきまで みんな オフで 笑ってたんだぜ?

……そうだ。


ナディア達を守るには。


逃げ続けるか。相手を殺すしかない。


でも……あの親戚一人を殺しても、きっと終わらないだろう。


「ごめんね、ナディア、ごめんなさい……私のせいで、お友達も、大会も……何一つ、邪魔ばかりで」


「ママ、そんなん言うたらいや!ママ、ママは悪ないじゃろ!」


……一体、ナディア達が何をした?

なんで、コソコソ隠れて生きなきゃならない?

なんで、自分達を責めないといけないんだ?

普通のお母さんが人を刺す覚悟をしなきゃならないって……

なんだよ、おかしすぎんだろ!?



……俺は頭が沸騰してくるのが分かった。


憎い。


事務所でふんぞり返ってるだろう、ナディアの親戚が憎い。


まだだ。


考えろ。


……駄目だ


頭が回らない。熱くなりすぎてる。


包丁を拾いに行ってしまいそうだ。


何回も失敗してきた時と同じ匂いが。


死にかけたあの時と同じ匂いがした。




『今あるものは全部使おう』



いつか、リーファが言った言葉。


今、必要なのは俺と反対。


氷のような思考。


理詰め、理詰、全て理詰め。


一歩も動かずに相手を封じる魔法。


……要は結果。


俺のプライドなんか、どうでもいい。


俺は魔法使いの携帯に、Lineではなく、電話した。手が震えて、何度も失敗する。

2コール目で相手が出るなり、俺は言った。


「助けて……何でも一つ言う事聞くから」


せんべいを噛み砕く音。

ボリボリ言わせながら、魔術師は言った。


「……誰かが終わるんやな?なら、一言一句、正確に伝えろ」



















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― 新着の感想 ―
[良い点] 小学生が甘ったるい恋をしゃがって、こら、羨ましいぞ。おっちゃんはと思っていたら、なんか、えらい展開になってきた。
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