ラウンダー
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 健一
日本名、橘 健一。リーファの父。
台湾人。民間軍事会社の社長で、梁財閥の長男。リーファを溺愛している。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
ジェーン
リーファの父の相棒。伝説の工作員。
王
リーファの父が営む、民間軍事会社のオペレーター。
米沢
芸能プロダクションの二代目。
ヤクザに顔が利く、金持ち。
元々は、リーファに痴漢したロリコン。
「おい、ジェーン! 増援が来るまで待て!」
巨大バラックの向かい、広場を挟んだ荒屋群に向かって駆けていく、仏陀仮面。
『神の子らよ、不信心者を滅せよ。さもなくば、汝らも永劫の闇を彷徨う……武器を取り立ち向かうのだ』
ジェーンが変声機を使った時のような、歪んだ声での放送は、まだ続いていた。
だが、ヤク中5人は、座り込んで動かない。
注射器を腕に突き立てた白装束の頭上を、陰気な煽り文句が、虚しく通り過ぎる。
俺は、巨大な朽ちかけたバラックを見上げ、ある事に気付いた。
放送の内容が変わってる……録音じゃ無いのか?
「王! そいつらなんかより、この放送……どっかで見張ってる奴がいるぞ!」
呆けている5人の頭を、次々と銃床で割って回っていた王が、素早くバラック群にミニミを向ける。
これで、視界に入る敵は全員斃した。
ジェーンが低い姿勢で、バラック群に沿って走りながら、次々と石を投げ込んで行く。
舌打ちをこらえる。
何やってんだ?
だが、ジェーンのやる事は、突拍子は無くても、いつでも意味がある。
感覚の戻って来た右手で、辛うじてAKを握り、ジェーンの投石した先を銃口で追う。
助けられっぱなしじゃカッコがつかねえ。
誰でもいいから、ジェーンを襲え。
かなり自分勝手な事を祈ってると、三軒目の二階建てバラックの窓を飛礫が割った。
『神の子は不死である。無限である。蘇れ……』
不愉快で、空疎な呪詛にガラスの割れる音が混じった。
そういう事か!
あの家から放送している!
「ジェーン!」
叫ぶまでもなく、相棒は猛然とダッシュした。
俺はジェーンの向かう先で、動きがあれば速射を叩き込める様、痛む右肩にストックを押し付ける。
飛び上がる程痛いし、撃ったら反動で悲鳴をあげるだろうが、知ったことか。
白装束のジェーンは石塀を蹴って、二階の窓の下に張り出す屋根に飛び乗った。
懐から缶コーヒーを取り出すと、プルタブを引き、割れた窓から投げ入れた。
数秒遅れて、地響きと閃光が割れた窓ガラスを揺する。
「あの野郎!」
俺は怒りで血管がキレそうになった。
やっぱり持ってんじゃねぇか、缶コーヒー型のヤツ!
「趣味悪いなぁ、ジェーンさん」
げんなりと、王が呟いたのが救いだ。
窓から、ジェーンが押し入った。
2分後。
ジェーンが、ぐったりした男の襟首を掴んで引きずり、玄関を出てきた。
「あれ、コイツさっきの!」
王が私より先に、声を上げた。
ジェーンが連行してきたのは、街中まで送った筈の、薄らハゲのヤクザだった。コイツも白装束だが、金色の羽織を着ている。
俺は口許が吊り上がるのを、止められなかった。
「でかした、ジェーン」
「あが! あづ、熱い!」
未だ燻る四駆の後部座席から、飛び出して来ようとするハゲを、俺は嬉々として蹴り戻す。
反対側では、王が不機嫌な顔で立ってるので、焼けた車体の中で、立ち往生するチビ。
「お、オマエラ、我らの聖地でかの如き、暴挙、必ずや天罰が……」
王が馬鹿でかいタクティカルブーツで、車体に蹴りを入れると、片側のタイヤが浮き、ハゲが悲鳴をあげた。
「うるさいよ?」
静かな声が余計に不気味だ。
ハゲは言葉を飲んで、ガタガタ震えながら、何とか熱い部分に、触らないようにしている。
「オマエ、どうやって先回りした? 隠し通路でもあんのかよ? 何より……」
俺は怯え切った、ヤクザの目を覗き込む。
「エディ・田中はどこだ?」
ハゲは震えながらも突っ張った。
「し、知らへん」
そうこなくっちゃな?
俺は清々しい笑顔を浮かべてたろう。
「ジェーン、吐かせろ……スズメバチはまだ……」
そこから先は言えなかった。
相棒が掲げた虫かごの中にいる物体は、車の燃えかすに照らされ、底に転がっていた。
2匹とも死んでいる。
項垂れているジェーン。
俺は顔を顰めた。
メンドくさい事になった。
ジェーンは、虫であれ、動物であれ、罪のないものを巻き込むのを嫌がる。
マフディの実家で、ジェーンは、猫に偽物の爆弾を仕掛けたが、もし私が撃ち殺していたら、しばらくは立ち直れなかったろう。
ジェーン曰く、マフディ家と香咲家の為に、泣く泣く決行したのだ。
俺は慎重に言葉を選んで言った。
「そうか、死んじまったのなら仕方ねぇ……何処行くんだ……いや、埋めんなよ……埋めんなとは言わんが、今はよせ。ホラ、こんなとこじゃ可哀想だと思わんか? せめて、元の場所、故郷の近くに返してやれよ、な?」
悪党は容赦なく殺すクセに、この辺のメンタルが理解出来ない。
まあ、理解するのは諦めている。
俺達ラウンダーはどうせ壊れた、似たりよったりの人種だ。
納得したのか、悄然と頷き、ジェーンは丁寧にモトクロス後部の物入れにカゴを仕舞うと、代わりに何かを取り出した。
隙に乗じて、そっと抜け出そうとしていた、ハゲの襟首を掴み、地面に引き倒すジェーン。
俺と王が近寄り、手足を押さえつける。
悲鳴をあげる、薄らハゲを見下ろす仏陀の面。
薄闇の中では、能面並に不気味だ。
持っているものを、高熱で赤く光るシャーシーに押し付けると、煙をあげた。
線香だ。
ジェーンは、側頭部と後頭部に残った髪の毛数本を指に巻くと、一気に引っこ抜いた。
ハゲが痛みに悲鳴をあげた。
次の瞬間、絶叫を放つ。
痛みと……恐怖に。
ジェーンは、抜いた部分の皮膚に線香を押し付けたのだ。
さすがの王の顔にも、恐怖が浮かぶ。
「なんて、蛮行だ……」
王の言い分は分かる。
俺も笑っているが、多分引き攣っているだろう。
焼かれた毛根からは、二度と発毛しない。
「やめろ、育毛に幾らかけとる思てんねん!?」
ハゲが怒るというより、哀願した。
俺は気を取り直し、精一杯凄味を利かす。
「吐け。10秒で10本抜いて焼く……1分で丸ハゲだ」
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!