光の母教団
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 健一
日本名、橘 健一。リーファの父。
台湾人。民間軍事会社の社長で、梁財閥の長男。リーファを溺愛している。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
ジェーン
リーファの父の相棒。伝説の工作員。
王
リーファの父が営む、民間軍事会社のオペレーター。
米沢
芸能プロダクションの二代目。
ヤクザに顔が利く、金持ち。
元々は、リーファに痴漢したロリコン。
逃亡するのに、田舎を選ぶのは犯しやすい間違いだ。
なるほど、人口も少なく、Nシステムも監視カメラも、殆ど存在しないのは確かだ。
だが、そいつらは田舎を甘く見ている。
奴等は余所者の侵入を、偵察衛星より迅速に発見するのだ。
「そうなんよ、何か、引っ越しトラックみたいなんが、入って来ちゃったで!」
山の麓、闇に沈んだデカイ農家。
蚊取り線香の匂いと、頭上の玄関灯に、羽虫がぶつかる音。虫の声のBGM。
カーラーを巻いた寝間着のオバちゃんが、口角泡を飛ばしながら、コーフンして喚いている。
京都・北部にある綾部市。
絹織物で有名な、自然豊かな地域。
ハッキリ言えば田舎で、この辺りになると、コンビニまで30分かかる。車でだ。
綾部のインターチェンジで降り、合流した地元のヤクザ ――チビでハゲ、どう見ても声のでかい作業員のオッサンにしか見えないが―― が大げさに驚いてみせる。
「ほんまこ!? それやわ! あっちこ? ちょ、出てきてお世話になれるこ?」
何を話してるのか、微妙に分からん。
私は相手が怯えないように、少し離れて地面に落ちてるスイカの種を見ていた。
二人は私の前を通り過ぎ、街灯のみが照らす舗装されてない私道まで出て行くと、オバちゃんは、指差し、道を説明した。
オッサンは、"あー、ハイハイあそここ?"
と叫び、オバちゃんに調子を合わせている。
話が長くなるのを危惧していたが、オッサンがでかい声で、尿道結石が如何に辛かったかを語りだすと、オバちゃんはすぐに話を切り上げたそうな顔になった。
私は感心した。なるほど、ああやって相手を追い払うのか。
いやあ、助かったワ、おおきに!
上機嫌で手をかざしたヤクザは、次の瞬間、不機嫌な顔になってこっちに歩いてきた。
不審な顔をする私の前を、ハゲの小男は、足速に通り過ぎる。砂利を踏んで、後を追う私より早く王の待つ四駆に乗り込むと、苦々しい顔で窓の外を眺めた。
私から聞くのも癪なので、こちらも黙って相手が口を開くのを待つ。
気詰まりな沈黙。
コイツは、今、入院している米沢のツテで紹介された、綾部市のヤクザだ。シノギはパチンコと山林開拓らしいがどうでもいい。
問題は、こんな吹けば飛ぶよな、木っ端ヤクザが私相手に勿体ぶってることだ。
米沢が仕事を頼んだ相手は、日本でもトップクラスの組織、湯坂組だ。
その紹介と言う形で我々は紹介されたはずだが……
変に対抗意識でも燃やしているのか?
それなら。
私は、目を細めた。
こういう連中はサル山のサルと同じだ。
どっちが上か認識させてやらねばならん。
「田中さん、最悪ですわ……スンマセンが、タクシー拾えるとこで降ろしてもらえませんやろか?」
オッサンは苦悩を顔に浮かべ、蚊の泣くような声で言った。
運転席の王が、半分振り返った程の弱々しさだ。
私はさっきまでの考えをあっさり捨て、出来るだけ穏やかに聞いた。
「何がありました?」
荒事と無縁そうなヤクザは、早くここから去りたい気持ちを隠しもせずに、早口で言った。
「ソイツラ、海に向かう為にこの場所選んだんちゃう。逃げ込む場所があるから、ここに来たんですわ」
「……と言うと?」
オッサンは、怯えたように囁いた。
「『光の母』って知ってますこ?」
『ああ、それ、中身は大麻の栽培施設ですよ。元々は、地元のよく分からない仏様を祀ってる団体なんですけど、外界との接触を絶ってる連中だから、やりたい放題なんだよね』
スマホの向こうから、米沢が言った。
どこか生き生きとしている。
まだ、入院しているはずなんだが。
私達は、オッサンヤクザに教わった真っ暗な田舎道を、四駆のヘッドライトで切り裂きながら走る。
目的地は、山奥のある施設だ。
『光の母』教団。
戦後すぐ、発生した仏教系の宗教組織らしい。
新しいものは白い目で見るが、古来からのものは、「伝統だから」と、盲目的に守るのが田舎だ。
そこは、日本も台湾も変わらない。
山奥の隔絶された場所で、イスラムやキリスト教の様な終末思想を信じ、釈迦の教えに沿った集団生活を送ってその時を待つ、と言う集団だ。
ソイツラとエディが、どんな関係かは知らないが、逃げ込まれたらかなり厄介だ。
さっきのハゲヤクザが、
『もう、無理ですわ』
とボヤいていたのは、故なき事ではない。
あの地下鉄サリン事件が起こった際、麻原彰晃が逮捕されるまで、実にニヶ月近くを要したのだ。居る場所が、殆ど特定されているにも関わらず、だ。
六十日弱。
それだけあれば、余裕を持って隠れ、充分に逃げおおせる。
無理に押し入ってくる者があれば、あちらとしては、エディを隠して、警察を呼べばいいのだ。
だから、私達が取る方法は決まっている。
「よくわかった。米沢、悪いが湯坂組を通して連絡を頼む。時間が無い、このまま俺と王で施設に侵入する。ここからエディが逃げ出した場合にそなえて、網を張るよう伝えてくれ。地元のヤクザはブルっちまって役に立たん」
『だろうな。『光の母』に楯突いたり、批判的な報道した人間は、陰湿な嫌がらせを受けるって地元では有名なんだ。事件にならない程度のね』
私に対し、対等の口をきくようになった、元痴漢。
昔のことはもういい。
いまは頼れる仲間だ。
私は礼を言って衛星電話を仕舞った。
山の中過ぎて、スマホの電波は心許ない。
街灯すらない、山道。
光るのは、時々道路に出て来て、こっちを見つめる狸の眼くらいだ。
同じ様に、インマルサットで本部に連絡していた王が告げた。
「増援の到着まで、30分です」
私は即答した。
「待てん。逃げられる前に捕獲する」
そして、その言葉の、根本的な思い違いを……
この後、私は思い知る事になる。
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
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