ヲタクの迷い道 〜好きな人が女装して、フィギュアのパンツを覗いてたらどうしますか〜
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。あ
1号
スマブラー。デブの巨漢。今回の宅オフの主催者。
2号
スマブラー。1号の相棒。小男。
オリガ=エレノワ
金髪のロシア人。日本で言う小6。女。ナディアの遠い親戚。主人公が好き。
ジャスミン(ジャス子)
金髪のアメリカ人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会では敵だった。主人公が好き。
氷室 恵
日本人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会で、主人公の替え玉を演じた。主人公が好き。
15時過ぎのオタロード。
うだるような熱気、ゾンビの様な通行人を避けながら、中国語に溢れた通りを速歩きで進む。サイズの合わない、サンダルの痛みを我慢しながら。
普段から半パンにTシャツで生きてるから、日焼けは何とも思わないけど、足の甲が赤くなって来てるのに驚く。
こんなの、海水浴で、ビーチサンダル履いた時以来だ。
リーファ達をまいた本屋から、1km程、背後を気にしながらやって来た。
着いた。
僕は逆光に顔をしかめなら、八階建てのビルを見上げる。
全階、おもちゃ、フィギュアから鉄道模型なんかで埋め尽くされた魔窟、バークスビル。
……さっき、メグがショックバトンを握っているのを見て確信した。
捕まったらどんな目に、遭わされるか分からない。
何ていうか、四人とも違う言葉の凶器 ――つまり、それぞれが僕にされた事―― で殴り合ってた上、Twitterで振り回され、イライラと怒りはMaxのはず。
僕ら三人、オレンジ色のツナギを着せられ、孔雀の羽根を持った四人に囲まれてるのを想像して震えた。
僕は狭い店内に、熱くなった顔を向ける。
ハズカシイとか言ってらんない。
絶対にミッションをコンプリートしてやる。
そして、泊まるところを確保するんだ。
無理とか考えんな。
後、2、3日。
何とか逃げ切るんだ。
僕はとっくにぬるくなった、ペットボトルから一口飲むと、店内に足を踏み出した。
狭い通路、仕切るように商品が並べられた棚を背にし、僕は壁一面に掛けられたフィギュアを睨んだ。
セロファンで個包装された、掌に乗るサイズの台付き人形が、所狭しとフックで引っ掛けられている。高さは2m、巾は1mくらい。
全部のフィギュアを調べるのに、1時間くらいでいける……か?
ちらりと周りに目を走らせる。
お客さんは少なく、特に注目もされてない。
フィギュア好きの腐女子もゴマンといるし、きちんと元に戻せば、店員からも文句は言われないだろう。
一番上は背が届かない。
一番下から、攻めていこう。
僕はスカートが、汚れた床に付くのも構わずしゃがみこんだ。
あれから、どれ位経ったろう。
スマホは無いし、店内の見えるとこに時計も無いから、分からない。
冷房は効いてるけど、単純作業と、追われてる緊張で、頭がぼーっとしてきた。
段々、要領が分かってきて、フィギュアのスカートの中を調べる速度も上がった。
片手に2個づつ持って、ひっくり返して素早くパンツを確認する。
壁に掛かっているフィギュア、僕の腰の高さまで調べたけど、該当は無しだ。
ふと、店員のお兄さんと目が合う。
なんて言うか……あんまりいい顔で見てない。
そりゃそうだよね。お金持ってなさそうなJSが、店の商品を、片っ端から手にとって、イミフな事をしてるんだから。
急に我に返って、顔が熱くなる。
なにやってんだろ、僕。
おかしいな、なんでこんな事するハメになったんだっけ?
曖昧に会釈して目をそらし、作業に戻り、ペースを速める。
追い出される前に、少しでも。
今夜、泊まるとこないと、困るんだ。
色んな記憶が頭をよぎる。
メグの家、ドローンの羽音、バイクの振動、銃の手応え。
そして、1号が僕に突き付けた条件。
『いいか。盗まれた我が妹達を見つけてくれ、1体でもいい。"リアルの方" なら、のしを付けてくれてやったのに……それと、万が一、追手に捕まったら……泣け。本気でな。後は何とかしてやる』
そんな訳で、僕はこんな事をしている。
……それと、泣き真似必要なさそうだぞ、1号。
ミジメ過ぎて視界が滲んで来たもん。
手が震える。
僕、そんなに悪い事したのかな?
頑張って来たつもりなのに。
ふと、その時誰かに見られてる気配を感じた。
アレって多分、人が立ったりして空気の流れが変わるから気づくんだろうな。
そして、よく知ってる匂いと。
入口を見た。
時間が止まり、全ての音が消えた。
ハスマイラさんが履いてるようなスラックスにパンプス、白のゆったりしたカットソー。
その上に乗ってるのは、蒼白なリーファの顔だった。
空っぽになった頭。
カレー堂で、1号にされた質問が、頭をよぎる。
『ベルにゃんの女装を見破る可能性が、一番高いのは?』
僕は、ブッチギリでリーファだって即答した。
……なんで。
なんでだよ。
相棒だぞ?
多分、一番見られたくないヤツだったのに。
僕らは、互いに視線がそらせなかった。
僕は今、どんな顔をしているんだろう。
ぐにゃりと視界が歪む。
リーファの眼に浮かんだのは……
涙。
そして……悲しみ。
僕の中で、ぷつりと何かが切れた。
フィギュアを落とし、顔を覆った。
……仕方ないだろ、どうすりゃよかったんだよ?
その言葉の代わりに、僕の口から出たのはみっともない泣き声だった。
軽い足音が響き。
殴られる代わりに、抱きしめられた。
……1号にされた質問。
『今の状況、一番許してくれそうなのは?』
僕は、ブッチギリでリーファだって即答した。
「……ごめんね、凛。一人で辛かったよね?」
嗅ぎなれた、リーファの匂い。
相棒の声も震えていた。
「アンタが逃げた後、みんなで話し合ったんだ……一人に背負い込ませて……みんなで追い詰めた。そりゃ逃げるよね」
「……パンツに……『1』って書いてあるフィギュアを……見つけたら……実家の物置に……泊まらせてやるって」
リーファにくっつけた頬。
とぎれとぎれの僕の言葉。
リーファの抱きしめる力が強くなった。
しゃくりあげる速度も。
「……ごめんね……そんな事しなくていいんだよ……」
近づいて来る足音。
迷惑そうな顔をした店員。
僕が落としたフィギュアを拾おうとしてるのに気づき、慌てて手を伸ばした。
出来なかった。
リーファが高そうなパンプスで、それを踏んづけたから。
「相棒……オマエはそんな事しなくていいんだよ」
リーファは店員を軽く見上げ、ドスの効いた声で言った。
「悪いね、ニーサン? このクソみたいなキモいの、壁にあるヤツごと全部くれよ……マイラ!」
身を引き、怪訝な顔した店員が、リーファの吼えた方向を見て、ギョッとした。
黒スーツのハスマイラさんを先頭に、ドヤドヤと目付きの悪い連中が入ってきたからだ。
「マジすか、リーファちゃん? そう言うオトナ買い一番キライッスよね?」
「相棒が、ナメられんのは、100倍許せないんだよ! パパでもこうする……違う?」
「……ッスね。店員さん、手持ちこれしか無いワ」
「……ブラックカード!? ち、ちょっと店長に聞いてきます!」
「ゴミ袋に詰めて。クソヲタにくれてやるのにちょうどいい……そう思わない、ニーサン?」
店員は、怯えた様に走り去る。
その後ろ姿を睨む、鋭く切れ上がった眼。
金色のピアスが眩しく輝く。
何が起こってるのか分からず、ボンヤリしてるだけの僕。
1号にされた質問がまた、頭をよぎる。
『君が不正されて、一番怒りそうなのは?』
僕は、即答した。
ブッチギリでリーファだって。
毎日23時頃、週7更新を目標にしてますが、火曜と木曜は、25時になる事が多いです。
祭日、日曜は、早めに投稿する事もあります。
宜しくお願いします!





