スリー・ドッグス・ナイト
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
1号
スマブラー。デブの巨漢。今回の宅オフの主催者。
2号
スマブラー。1号の相棒。小男。
オリガ=エレノワ
金髪のロシア人。日本で言う小6。女。ナディアの遠い親戚。主人公が好き。
ジャスミン(ジャス子)
金髪のアメリカ人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会では敵だった。主人公が好き。
氷室 恵
日本人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会で、主人公の替え玉を演じた。主人公が好き。
『凛……大変じゃったな。こっち来んちゃい』
四方、見渡す限りの砂丘。
日本では見られない色のブルーから、降り注ぐ太陽のシャワー。
点在する椰子の木の上を、一反もめんがフワフワと通り過ぎる。
砂の海に浮かぶ、8畳間に座ったナディアが腕を広げて微笑んだ。
砂漠の踊り子みたいな露出の多い衣装より、優しい眼差しに眼を奪われる。
学校指定のジャージを着た僕は、その腕に飛びこんだ。柔らかい感触に顔を包まれ、涙が出そうになる。
ナディア、僕すごく疲れてるんだ。
「ワカッテルヨ、ダーリン。いっぱいガンバッタモンね」
顔を上げると、頭飾りを付けたオリガが目を細めて、僕の頬にキスしてくれた。
オリガ……どこ行ってたの?
僕はブロンドの髪に頬ずりした。
「へへ……寂しかったろ。会いたかったか?」
ミントの香りに顔を離すと、ジャス子の小さな赤い顔が微笑んでた。
髪には、極彩色の羽根飾り。
……そだな。それよく似合うぞ。
照れ笑いしたジャス子が、プロコンを操作すると、背後から伸びてきた手が、僕をビヨーンと引き寄せた。みるみる、踊り子姿のジャス子が遠ざかる。
「凛。もうすぐ全国大会……天ぷら食べてる場合じゃない」
抱き上げられたまま背後を見上げると、中国服にスニーカーのリーファが立っていた。
スマブラのミェンミェンと良く似た姿だけど、足が長くてスレンダーだから、メッチャ似合う。
僕達の周りを、メグがせっせとスティーブの様にブロックで囲んでいく。
リーファがため息をついた。
「ここももうじき、腐海に沈む……命があればまた」
僕を石畳に下ろすと、ジャンプして青空の彼方に消えた。
「あなた!」
ぼーっと空を見上げてた僕は、その声にハッとした。
薄暗い石造りの部屋で、松明が優しくベッドを照らす。
シーツを胸まで上げたメグが、満面の笑みで、手を広げている。
「おかえりなさい! ゾンビが来る前に仕事しなきゃです!」
そっか、仕事なら仕方ないな。
僕は急いでジャージを脱ぐと、ひんやりしたマイクラ造りの床を駆けて、ベッドに飛び込んだ。
ネイティブ・アメリカンの様な羽飾りとメイクのメグが、僕を抱き寄せた。
「……幸せ。やっと続きが出来ますぅ」
……僕もだ。
「では、始めるか」
……ハ?
メグの匂いを胸いっぱいに、吸い込んでた僕は、声の変化に体を起こす。
1号の真面目くさった顔のどアップ。
僕が横向きに抱きしめてるのは、面積の広い1号の半裸だった。
「うぎゃあああ!」
昨晩の悪夢が一気によみがえり、今度こそ部屋の隅までダッシュ……
出来なかった。
背後から両肩を押さえる手があったから。
「だっ、誰!?」
返事はなく、僕の肩にギリギリと食い込む10本の指。
首だけ振り返って、絶叫した。
血の涙を流す2号と、至近距離で眼鏡越しに見つめ合ってしまったからだ。
ベッドの上、二人のヲタクに動きを封じられ、激しく見つめられる僕。
まさしく、腐海に沈んだ空間だ。
二人が口々に呪文をとなえはじめ、僕は暴れた。
やめろ、何言ってんだコイツラ!?
ビッグ・ケン
ビッグ・ケェェン
ナンダヨ、リカちゃんのパートナーか?
離せ!
バァァァンとドアを蹴って現れた、フンドシ姿の橘さんを見て、僕は喉が裂けるくらいの悲鳴を上げた。
「一番いらんわぁぁ!」
オオ、ビッグ・ケン!
来たれ、ビッグ・ケン!
「帰れよ、ビッグ・ケン!?」
だが、僕の叫びも虚しく、ネイティブ・アメリカンなメイクと、孔雀の羽根を背負ったリーファのパパは、ゆっくり近づいて来る。
「スリードッグス・ナイトと言う言葉があってな……暖をとるため、3匹の犬に囲まれて眠る事を言う」
魂まで汚されそうな予感に、僕は泣きながら喚く。
「ヒィィィ、く、来んな!」
意に介さず、長髪を縛った中年は、布団を剥ぎ取り、棒の様に直立して被さってきた。
「スリー・オッサンズ・ナイト……とでも名付けようか」
「修羅の門ばりに技の名前つけてんじゃねえよ!? 瞬きくらいしろ、オマエラ!?」
三人にガン見され、むさ苦しい男たちの吐息に包まれた僕は半泣きで吠えた。
た、助けて、誰かタスケテ!
おムコに行けなくなるぅ!
あ……お嫁に行けなくなるってこう言う気持ちナンダ……
……ゴメン、ミンナ
マダオの言葉が、寒々しく響いた。
「……キミの様なステキなコが、何でこんな仕事をしてるんだろうねェ」
「離れろー!?」
「はっ!?」
僕は汗だくで目が覚めた。
視界に入ってきたのは、知らない畳の部屋。
嗅ぎなれない匂い。
数秒して気づく。1号の部屋だ。
声が上から降ってきた。
「……やっと起きたか。うなされてたぞ」
ゆ、夢か、助かった!
だが、金縛りにあった様に体が動かない。
横を向いた僕の顔に何か乗ってる。
それが、1号のデカいケツだと気づいた僕は、悲鳴を上げた。
「何て事を!? 降りろ!」
鼻を鳴らした1号が腰を上げ、僕は手近なものをひっつかんで転がり、距離をとった。
膝立ちで構え、自分のジャージをさする。
……別に脱がされた形跡はないし、橘さんもいない。
視界に入るのは、背中を丸めてパンをかじる2号と、1号のデカい背中だけだ。
「我がオフで、主より後に起きるものはどんな目にあっても文句は言えんのだ……11時だぞ」
8畳間を照らす、窓からの太陽。
遠くで聞こえるセミの声。
気温に逆らうクーラーの音。
ホントだ、陽が高い。
「……それでも食え。奢りだ」
1号の言葉で、僕がかざしているのがアンパンだって初めて気づいた。





