二回目に会ったヲタが、よそよそしく見える理由
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
1号
スマブラー。デブの巨漢。今回の宅オフの主催者。
2号
スマブラー。1号の相棒。小男。
オリガ=エレノワ
金髪のロシア人。日本で言う小6。女。ナディアの遠い親戚。主人公が好き。
ジャスミン(ジャス子)
金髪のアメリカ人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会では敵だった。主人公が好き。
氷室 恵
日本人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会で、主人公の替え玉を演じた。主人公が好き。
『GAME SET!』
「ふんごわああ!」
突発おまよわ杯決勝。
ぼくのゲムヲが、デデデに飛ばされ、不名誉な優勝が決まった。
よく分からない、悲鳴を上げてしまった僕を、ゼエゼエ言ってた、メガネ大学生がイイ顔で煽る。
「いやあ、ベル君素晴らしかったヨ……けどキミみたいなステキなコが、なんでこんなクソキャラを使ってるんだろうねぇ……」
「ミェンミェン使ってる、アンタが言うな! それと、風俗嬢にかけるようなセリフやめて!?」
半ギレで訴える僕を無視、他のメンバーとハイファイブを繰り返す背中を涙目でニラむ。
時刻は午前2時。
エアコン代、100円のカンパは快適な空間をもたらしてくれたけど、僕は全員に処されて、あったまっていた。
体も頭も重い。こんな時間まで起きてた事、記憶にないけど、魔剤が効いてるのか、眼だけは冴えている。
僕は悔し紛れに喚く。
「そもそも、"おまかせ"の勝ち抜けだから、『おまよわ』でしよ? みんな、メインで殺しに来てるじゃないですか!」
畳にねそべり、シャンパングラスを掲げた、家主が微笑む。中身は、エナドリ。
「それは違うな、ベルにゃん」
「ベルにゃん言うな」
「我がオフでの『おまよわ』の意味は……『おまえは弱い』だッ!」
「ぐっはあ!」
僕はピットっぽく叫んで、ひっくり返り、畳をのたうち回る。
コーチに叱られた、どこぞのフィギュアスケート選手の様に、全身で『僕はこんなに傷付いてます』アピール。
僕が、僕が弱いだと!?
大阪大会、全勝で抜けたんだぞ!
弱キャラ『むらびと』で決勝を制したんだぞ!
だけど、ここにいるのは、ユズリストでもなければ、僕は羽生結弦でもなかった。
他人に興味の無い、競技者の鑑みたいなスマブラー達は、何事もなかったかのように、画面に没頭している。
ナンダヨ、メグや、リーファ達がいたら、メッチャ慰めてくれるのにッ!
みんな、僕に優しくしてよ!
「本来なら、負け残り優勝者を、全員で指差して『おまよわっ』と叫ぶのがキマリだが、やめておこう……夜中だからな」
キメ顔でシャンパングラスを掲げる1号を、僕は半目でニラんだ。
"ヤダ、ベルさん、その顔カワイイ!"
数時間前に、メグがコロコロ笑ってくれた表情も、このスマスラムでは、勝者をいい気分にしただけだった。
「フフ、イイ顔だ……ここに、キミを慰めるギャルはいない」
「……あっ!まさか」
「フハハ、そう、その通り!」
いつの間にか、集まって来てた五人で、戦隊モノなポーズをとり叫んだ。
「ここにいるのは、年齢=彼女いない歴の模範的なスマブラ星人ばかり! キミの様に『ひもペチはこうやるんだよ、ハァハァ』とか言いながら、背後から手を重ねる"部長ゴルフ"なヤツに負けるわけが無いッ!」
「……発想キモいんですが」
僕と決勝を闘った『2号』、小柄なメガネが拳を震わせ叫ぶ。1号の相方で、もちろんヲタクだ。
「ナニをッ! そもそも、クララちゃんとアリスちゃんに僕達をコーチとして紹介しないのが、マナー違反。そんな事では、社会で通用しないぞ!」
「……いや、オフで紹介したけど、大会でも近づいて来ないし、眼もあわせてくれなかったじゃん!?」
全員がしかめっ面で舌打ちする。
んだよ、その『イチから説明させるつもりかね、使えん男だ』みたいな態度!?
「分からんヤツだな……いいか、僕らが2回目会った時によそよそしく見えるのは『1回会ったくらいで話しかけたら、馴れ馴れしく思われないだろうか?』って警戒してるだけなんだ! 話しかけてくれたら、『あ、覚えててくれましたか!』から、Line交換までOKなのに……もうっ、言わせないでよねっ!」
「「「言わせないでよね!」」」
「知らんわ、コミュ障どもがッ!」
ドンっ、と隣の住人に壁を叩かれ、我に帰る僕達。
1号が、イヤな顔をした。
「だから、静かにしろって。また引っ越しする事になったら、オフが出来なくなるぞ……ベルくん」
「ナンデオレノ、セイヤネン」
五人とも、めいめいダルそうに座ると、1号が尋ねてきた。
「まあ、落ち着け。眼が血走ってるぞ? ……そうだ、詮索するつもりは無い、って言うより、メンドくさい事に関わりたくないから細かい事は聞かんが、その格好……家出する時は、ジャージでプチ女装する、宗教上のキマリでもあるのか?」
マジで、年上力ゼロだよな、このヲタども?
「どんな神様ですか……女子四人が、ケンカし始めたんですよ。それで、それぞれの女子に僕が何をしたかを吐かせる為に、拷問されそうだから変装して逃げて来たんです……半分は仕方なくなのに、割に合いませんって」
「やめろぉっ! むぐっ」
「しっかり押さえておけ。口もな。また苦情が来たら敵わん」
ビー玉の様な眼をした四人に、手足を押さえられ、ついでに、さっき借りたタオルで口まで塞がれる。
1号は僕のトートバッグを漁り、顔をしかめた。
「スマホが無いな? 親に没収でもされたのか……このタブレット、その代わりだろ。みんなやる事は変わらんな……あった」
何をするつもりだ、この変態ども!?
1号が、僕のタブレットを操作しながら囁く。
「我々が、今から何をするか分かるか?」
ニチャリと笑う、デヴに戦慄する。
ちくしょう、まさか、ショタな事を動画で……
1号の宣言に、僕は身も心も凍り付く。
「通報のさ。但し、親じゃなく、クララちゃんか、アリスちゃんのどちらかに。さっきの割に合わないって、ボヤきもな」
……そんな!
そんな事をされたら、火に油を注いでしまふ!
僕が首を振って眼で訴えると、
「な、なんかエロい気分になりそうで怖いぞ……だが、我々はスマブラー。トばすのは、理性ではなく敵だけだ。Lineのグルはこれか」
やめろ、やめてくれ!
逃げた上に、あんまり反省してないのがバレたら、北朝鮮まで連行されるッ!
ぼくは、んーんー言って、必死で訴えかける。
やめろ、やめてくれ!
何なら、今から語尾にニャン付けしてもいい!
1号は、冷たい横眼をぼくに据えて言った。
「嫌なら、何をしたか吐け……最大漏らさずな」