ヲタクの迷い道編 〜プロローグ〜
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。主人公が好き。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。主人公が好き。
1号
スマブラー。デブの巨漢。今回の宅オフの主催者。
2号
スマブラー。1号の相棒。小男。
オリガ=エレノワ
金髪のロシア人。日本で言う小6。女。ナディアの遠い親戚。主人公が好き。
ジャスミン(ジャス子)
金髪のアメリカ人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会では敵だった。主人公が好き。
氷室 恵
日本人。小5。女。スマブラ団体戦大阪大会で、主人公の替え玉を演じた。主人公が好き。
日本橋、オタロード。
夏休みも終わろうとしてる空に、夕方の入道雲。
自動車と買い物客、中国語の看板で溢れかえる、ゴミゴミした電機街。
それって、日本語と中国語が、同時に頭に入って来るから、ワタシみたいな、半々(台湾と日本のハーフの蔑称)にはあんまりいいもんじゃない。
頭の中で考える時に、使う言葉が日本語に代わったのは、いつだったかな。
サブカルに興味の無い私には、縁のない場所だけど、相棒の付き合いで何度か来た事はある。
口に出したら、相棒が怒るから言わなかったけど、私はココがホントにキライ。
別に私だけじゃない。大抵の女子はここに来たら「うわ……」って言うだろう。
だって、露出スッゴい原色の制服着たイラストばっかなんだよ、そこもかしこも、のぼりや、看板が? フツーにキモいって。
こう言われて、イラっとする人に聞きたいんだけど、男子とろくに喋れない女子が、上半身裸の、イケメンイラスト見ながらニチャついてたらどう思う?
マジでそんなカンジじゃん、店から出てくる客。
無表情で、影みたいに付いてきてる、ハスマイラはどう思ってんのかな。
そこかしこで、ビラを配ってるメイドさんに、頭を下げながら、ここまで来た。
そして見た。
この夏は、良くも悪くもショックな事ばっかりだった。
……それでも、これはブッチギリだ。
背後で、ハスマイラが掠れたうめき声を立てる。
美少女と美女の登場に、そそくさと、ヲタク達が狭い通路から散る。
私は、1階から4階まで、フィギュア専門店になってる、バークス・ビルの入り口で、凍りついた。
2m先に、尋ね人はいた。
壁一面に掛けられた、手のひら大の美少女フィギュアを外しては、片っ端からひっくり返している。
ナディアより、少し短い位まで伸びた黒髪、ヲタクが泣いて喜びそうな白のワンピースに、同色のサンダル。
伊達眼鏡にカワイイリュックを背負った姿は、完璧な女子だけど、付き合いの長いワタシの眼は誤魔化せない。
世界中の女子に聞きたい。
自分の好きな男子が女装して、熱心にフィギュアのパンツを覗きこんでたら、どうしますか?
〜遡る事数十時間前〜
『GAME SET!』
「うわあああ!」
僕のゲムヲがああ!
「しっ! 何時だと思ってるんだ、隣から、また苦情くるだろ」
僕を余裕でやっつけた、太った大学生……『1号』が、顔をしかめた。
「くっそ、ゲムヲ使って、何でプリンに負けんだよ! 弱すぎだろ、僕!?」
「チガウぞ、ベルくん……」
家主の1号は、イイ顔で言った。
「俺が強すぎるだけだ!」
キィィィ!
頭にきて、畳を台パン……したら、下から苦情来るから、あぐらをかいた、自分の膝を叩く。
隣のモニターでは、残りの三人が入り乱れて闘う、『乱闘』をしている。
……小学校を脱走してから、二時間。
時刻は午前一時。
あの後、僕はダッシュで|マンションに帰ると、自転車屋の、サドルの裏にテープで貼ってた予備の鍵で、自宅に侵入。
エレベーターが、上がって来る音がしたので、お年玉を含む、荷物をかき集め、靴を履き替えるのが精一杯だった。
何で家から飛び出したのかって?
ドローンが突っ込んで来たらひとたまりもない無いからだよ。
なら、何で小学校から逃げて来たのかって?
妖怪どもに、とり殺されるからだよっ!
おバカが、僕の携帯を持っていったので、旧式のタブレットを持ってきた。
これが唯一の連絡手段だ。けど、電話会社と契約してないから、WiFi、しかも無料の電波を拾うしかない。
そんなわけだから、自転車で、暗がりからコンビニに近づき、壁にもたれて電波を拾う。
汗に寄ってくる、蚊と戦いながら、この時間もやってる宅オフをツイッターで探す。
あった!
大阪大会の時、うさ山さんにシバかれていたスマ勢の一人が、自宅を使って、夜どおしオフをやってる!
『1号』ってハンネの人なんだけど、僕、一度行ったことがあるんだよね。自転車で、30分位だ。
DMを送って、搬入用のカートのそばにうずくまり、返信を待つ。
暑い。しかも、体調は最悪だ。
バットの当たった、二の腕も、ボールをぶつけられた胸も痛い。ああ、お風呂に入りたい。
靴だけは履き替えたけど、裸足に学校指定のジャージ、預かってた、めぐの白いリボンを巻いたままだ。
恥ずかしいけど、まだ、いるかもしれない、敵の眼をかわす為ってのもある。
自販機で勝った、高価なエナジードリンクを飲む。カフェイン、バカ高いアレだ。
これくらい飲まないと、やってられるか。
頼むって、早く既読付いて!
コンビニに入りたい誘惑と闘う。
小学生がこの時間、店内にいたら、通報されるかもだから、めんどくさい。
返信キタ!
『いや、こんな時間にダメでしょ? 何? 家出?』
正論を吐くなんて、ガッカリさ、スマ勢のくせに!
『いや、狙われてるんですよ、助けてください』
『えー、何かめんどくさそう。平和主義者なんだよね、俺』
僕は血管がキレそうになる。
そんなだから、モテねーんだよ、クソヲタがッ! ドローン呼び込んだろかい!?
マジで、遠回しに断るとかの機能ついてないよな、このデヴ?
……仕方ない。これだけは使いたくなかったけど……崖っぷちもいいとこだからな。
僕は泣く泣く文面を追加した。
『今、軽く女装してます』
『全会一致で、ベルにゃんを招待する事に決定。ネコミミとか、セーラー服もサイズあるから心配いらないよ』
この上なく心配だわ。
僕は、眼が血走るのを自覚しながら、心の中で毒づいた。
地味な病気で死んでしまえ。