表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/1079

ぐるぐるどっかん 〜メグさんといっしょ〜




  この小学校は、全ての教室、クーラー完備だ。もちろん、この保健室も。


 けど……


 全身の毛穴から、汗が吹き出してくるのに、片っ端から凍りついていく、この怪奇現象は何なん!?


 ハスマイラさんが、カーテンで、僕のベッドを遮ってくれてるから、ホラー映画で、夜の森を逃げてる顔した僕は、誰にも見えてない。


 こっちに背中を向けたメグ、丸椅子に腰掛けた、ハスマイラさん、対峙する、ナディアとリーファの影絵がカーテンに映って見えるだけ。


 さっきの、メグの『爆弾』以降、無言、無音。


 遠くで、集まってきた、パトカーのドアを開閉する音と、赤色灯の大群が、窓を通して確認できた。


 ミンナ、想像出来る?


 部屋中、音を立てて凍りそうな勢い、そしてその空気が、確かな重さで、のしかかって来るところをさ?


 英空軍の基地に、耐G訓練用の施設があるそうだけど、必要ないね。


 大阪市の小学校で味わえる。

 しかも、命の危険付きで!

 戦闘機乗りの必須訓練科目に、加えていいぜ?


 だから、代われよ、代わってくれよ!

 もうヤダ!


 なんで、ドローン落ちてきてくれなかったのさ、根性無さすぎだろ!?

 今からでも、遅くない、オマエの本気を見せてくれよ!


  え? 必死コイて逃げてたじゃんって?

 

 ……そうでしたっけ、ウフフ。


 ネットで見た、ガソリン値下げ隊のオバサンみたいな言い訳してる場合ちゃうわ。

 段々、ハラが立ってきたぞ。


 そもそも。

 

 ここにいる女子、いない女子の……


 誰ともお付き合いなんかしてませんよ、小生?

 浮気した、諸星あたるじゃないんだぜ?


 なあんで、こんなに縮こまって、怯えてなきゃいけないんだ、オカシかろ!?


 そう考えたら、ムカムカして来た。

 

 ボールぶつけられて、頭打って……

 あ、オデコの右の方、冷えピタ貼ってあるわ。


 僕、何でこんな目に遭わなきゃならんのさ!?


「……でーぷキス……じゃと? しかも、手もみん付きで?」


 チチモミを手もみんって、言い換えるだけで、なんか、許せそうじゃ無い?

 そうでもない?

 ゴメン、もう言わない。


 ナディアの掠れた声に、僕は生ツバを呑んだけど……


 あ、あれぇ?

 

 カーテンに映るナディアさんの影……

 眼と口元が吊り上がって、悪魔みたいになってるぅ!?


 え、どーいう仕組み?

 劇団?

 劇団四季なの?


んふふ、と得意そうな、メグの声。


「そーでーす。コーフンしちゃって、メッ! てするの大変だったんだからあ」


 あっ、リーファの影がハニワになってる!?

 どーいう仕組みだ、マジで?


「ほ、ほー……凛のヤツ、社会見学で、ヤマザキ製パン、行った夢でも見てたんかのう?」


「あ、ああ、パン生地こねさせてもらえるヤツだね、ナー? 『パン生地に舌で穴を空けてみよう』って、コーナーもあった様な……」


 ベロでブルー将軍倒した、桃白白(タオパイパイ)じゃないんだよ?

 

ドラゴンボールでも無いわ、そんなコーナー!


 「……戦いましょ、現実と? 凛は、メグみたいな、女の子オンナノコした、フツーの女子がいいんですー」


「なんじゃと? うちらがフツーの女子ちゃう言うんか!?」


「聞き捨てならないね、まるで、私達が女子らしくないみたいじゃんよ!」

 

 ガン、と机に重いものを叩きつける音。

 パリィン、とガラスの割れる音。

 

「このレンガで血の花咲かせちゃろか、おーん!?」


「一升瓶の破片飲むか、あーん!?」


 ハスマイラさんが立ち上がり、スリッパで二人の頭にツッコんだ。


「そう言うところッスよ!? 後、誰が掃除すると思ってるッスか!?」


「何だよ、マイラ! 私達の気持ちが分からないの? アタシ、相棒六年やってて、こないだ初めてキスしたんだよ? その時マジ、見つめられて、抱き寄せられたんだからあ!」


 ニョキって、メグの頭に角が一本。


「そうじゃ! うちも、ブラパン姿でチチ揉まれて、色んなとこにキスマークつけられたんじゃ!  じゃのに……この悔しさ、ハスマイラさんには、ワカランのけ!?」


 メグの頭に、角がもう一本生えた瞬間、ポニテの苦労人は、天に向かって絶叫した。


「ジブンなんて、ブラパンで抱きついたのに、ボスがくれたのは、ゲンコツだったんじゃぁぁあ!!」


 沈黙の二秒。

 僕すらも真顔。

 

 23時の保健室、誰もが疲れ果ててた。


「……ハス、やめれ。自分の親のそう言う、生々しいの聞きたい?」


「……あ、ゴメン、つい」


「……何かすまんかった、うちが全部悪かったけん」


 唐突に、素に戻る三人。


 四人目は、そうじゃ無かった。


「へ、へぇぇ……」


 ハッとする、六年たち。


 効いてる 効いてる


 口許を押さえてニヤニヤし始めた。

 

 え? うん、影でわかるの。


 少しよろけながら、メグが気丈に言った。


「ま、まあ、一日たってないのに、頼れる上級生から、将来を誓いあった、旦那様にジョブチェンジさせられた、スピーディーハンド(手の早さ)……覚悟はしてるもん、そうなんだもん」


 二人は腹話術人形になって、クスクス顔を見合わせる。影でわかるの。


「何言ってんだろねー、この幼児番組・専用子役」


法円坂(NHKホール)行かんでええんか? 『ぐるぐるどっかん』で、蜂のカッコして、ハイハイするんじゃろ?」


「赤ちゃんやん、子役ですらないじゃないですかっ!」


 口と眼を、縦長にして煽る、同級生。


 え? うん、影でわかるの。


 その時Lineが鳴った。

 この後、状況は……

 

 比べ物にならないくらい、悪くなっていく。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ