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ペロリンガーZ




「あの、婦警さん。そんなに急がなくて、いいんじゃないかなって……」


 僕は震える声で、訴える。

 もちろん、全身も震えてる。


『交差点に進入します』


 の警告を流しながら、婦警さんが、不審そうに答えた。


「このカンジなら、後5分もかからないわよ?」


「そ、そうだ! この時間、校門開いてるか、どうかだし、やっぱ警察署の方に……」


 右折しながら、ルームミラーで僕の様子を伺っていた、婦警さんが何かに気付き、超うれしそうに言った。


「ナニ、修羅場? そのリーファって子と?」


 瞬間、ドアロックを解除して、刑事(デカ)のように外に転がり出ようとした、僕の肩を、がっしと掴む白い手。


 メグは、口元を人差し指で、押さえながら、考えるそぶり。

 そうしつつ、ぎりぎりと、万力の様な力で、左肩を締め上げて来る。


 ……ヤダ、スゴイ、チカラ。


 パトカーに乗ったお陰で、緩んでいた気持ちが、一気に、崖っぷちへ!


「んー、後、ナディアさんと、オリガさん……面倒だから、ジャスミンにも、引導渡しちゃおっかなあ」


「……アンタ達、どうなってんの? ジャスミンとか、めっちゃ源氏名(ホステス名)くさいんだけど!? ホスト? 小学生ホストなの?」


 ヤメテ、刺さる、刺さる!


 メグは、コロコロ笑いながら、あっさり、爆弾を落とした。


「あはは、ホストなら5年生を、お姫様抱っこで、ベッドに連れ込んだりしませんよう」


 キンキューシャリョーガ トオリマス


 沈黙の落ちた車内を、録音された警告文が、むなしく通り過ぎる。


 婦警さんの声が、地を這って、僕の耳に侵入した。


「……聞き捨てならないんだけど?」


「ち、ちがいます! 運んで布団かけただけ……」


 フフッと、隣で小首をかしげたメグが、続ける。


「そうですよ、ヘンな事はされてないです……イイコトしか」


「メグぅ!?」


 アカン、なんちゅうタチの悪さ! 隠す気ゼロやん!

 こんな爆弾、小学校に連れてくって、これがホントの、マダンテ(自爆攻撃)さ!


 リーファ達にバレたら、間違いなく、9割殺し……いや9割8分殺し?


 この際だ、それは耐えるとしても ――また入院かもダガ―― 学校に広まったら……


 

 ……え、なんだよ、カラ太郎。


 そのファーストガンダムな、シャアのマスクと、なびく、赤マフラー?


 え、何、ズームすんなって。

 近い、近い!


 劇画調のキメ顔で、カラ太郎が、シャウトした。


『ペロリンガー、Z《ゼェェェット》!!』


 

 そのとおおぅり!


 マジ、終わり。女子、みんな縦笛隠すわ!


 机の上には、


『雑食のワンちゃんに……食いつきがちがう!』


 とか、書かれた、ドッグフードが配膳されて、草内(担任)は、


『イジメのない……明るいクラスです』


 とか、イイ顔でいうんだろうよ!


 ドローン!

 僕たちは、ここだ、跡形も無く、消し去ってくれ!


 そんな風に、現実逃避したところで、やった事って、消えないんだよね。

 メグの間延びした、独り言が教えてくれたヨ。

 

 「まぁ……ジャスミンには、ハダカ見た後、ナニしたのか、知らないけどォ」


 「イダダダ! よせ、肩が外れる!」


 いや、チョット? 第一関節まで喰いこんどるやん!


 雪女の三日月の様に、吊り上った口元、眼から放つ赤い光に、僕は震え上がる。


「一日足らずで、いきなり『B(おっぱい)』からスタートして、『Cマイナー(おしり)』まで行く、ダッシュ力だもん……リーファさん達には、何してるのか、興味深々ですぅ」

 

 婦警さんが、左折しながら、声を漏らした。

 

「……うわぁ」


「その、『うわぁ』やめて下さい! せめて、その後なんか言って!?」


「じゃあ、サイっテー」


「ヤメテ、その小さな『つ』!? 事故、事故なんですってば!」


 顔をしかめ、低い声で吐き捨てる、ボブのお姉さん。


「田んぼの真ん中で、ケツ握りながら、ベロチューして、胸揉んでたのも? 引くわー。も少しマシな言い訳しなよ?」


「あ、あれは……!」


 メグは、ぽっ、とか泥の付いた頬を染めながら、伏し目がちに呟いた。

 

「ヤダ、見てたんですね……旦那様、強引なとこあるから……」


 メグは、眼をキラキラさせながら、お姉さんに吐き気がするような事を、お願いする。


「小学校に着いたら、リーファさん達の前で、証言して下さいね?」


 だっ、ダメだ!


 僕は、浅い呼吸を繰り返しながら、心の中で、絶叫した。


 メグを、処刑場(小学校)に連れて行っちゃダメだ!


 オレンジ色の、ツナギを着させられて、黒い旗の前に座らされてしまう!

 校長(ものべ)が、ニヤニヤしながらビデオカメラのセッティングしてるのが、目に浮かぶよ!あの小学校なら、一式、余裕でありそうだ!


 僕は、震える手でスマホを引っ張り出した。

 

 ドローン使いの連絡先が、分かるなら……

 このパトカーごと、消し去ってくれるなら、

 僕は何でもしただろう。


 何度か失敗したけど、シヴァに繋がった。


『今どこだ?……こっちは、ウォッチマンが、送ってきた座標のそばだ。バンが燃えてるが、警察だらけで近づけん……サイレンがうるさいな』


 それが聞こえたのか、お姉さんが、サイレンを切って左折。

 

 校門が見えた。

 この時間にも関わらず、僕らの小学校は、こうこうと、明かりが灯ってる。


 心臓が跳ねる。

 もう、逃げられないのか?


「もう、400M程で小学校。パトカーで」


 小さな舌打ち。


『すれ違いか。そっちの警護は……』


 ……サイレンを切ってなかったら、気づかなかったろうな。


 ブーンっていう、死神の足音に。


 


 

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