ウィーバー・スタンス、オールドスタイル
ブロック塀の陰から、飛び出して来たバンは、タイヤを鳴らして、急停止、僕らの行く手を塞いだ。
頭が、空っぽになる。
このスピードで、バンの横腹にぶつかれば、死。
遠くで聞こえる、メグの悲鳴。
自転車で、無茶な運転に、慣れてたのが、良かった。
衝突・ケガ人続出の『自転車鬼ごっこ』を思い出し、とっさにハンドルを、左手の田んぼに向かって切る。
サイドミラーがかすって、変な方向を向いたけど、間一髪、バンの後部スレスレを、スルリと抜けた。
道路を外れた、ハンターカブは、青々と実る、刈り取り前の稲に向かってダイブする。
「飛べ!」
ぼくは、そう叫ぶのが限界。
メグをかばうこともできず、ただ、ステップを蹴って、バイクを離脱、背中から、M36を抜きながら、顔をかばい、ショックに備える。
そうしながらも、頭に浮かぶ、特大の疑問。
なんで、僕の居所が、ことごとく、バレるんだ?
驚いて、飛び立つバッタにぶつかられながら、
稲のじゅうたんを転がる。
膝から落ちたけど、想像以上の弾力が、大ケガから守ってくれた。
感謝したのは、一瞬。
染みでる、泥水の上を転がり、悲鳴を上げる間もなく、全身茶色にコーティング。
生ぬるい、土の匂いに包まれた。
でも、これなら、メグも、ケガは……
「メグ!」
そうだ、メグは?
「大丈夫です!」
凛とした返事。
良かった、ケガしなかったんだな!?
振り返ると、四つん這いで、こっちに、顔を向けている、青い顔。泥から抜いた手で、道路を指す。
「来ます!」
僕の右側方に、バンから降りてきた、三人の大人。作業着を着た中年達が、ためらいなく、田んぼに降りてくる。
嫌な記憶が、甦る。
大阪大会で、ナディアママを襲ったヤツも、清掃員のカッコだった。
こういう、何の飾りもない奴等が、一番怖い。
ただ、手には何も持ってないのが、ツイてる。
子供二人を捕まえる、簡単なお仕事。
しかも……
泥だらけの、チーフスペシャルを、背中に突っ込んで隠した。
救急車のお迎え付きだぜ?
ぼくは、泥に足をとられながら、自分から、タンゴ達に迫る。
一人が、バンで来た道を駆け、僕の後方、メグへと向かってる。
助けに向かいたいけど……
コイツラを、先に殺る。
残りの二人との、距離は3m。
残弾は、三発。
一発も外せない。
至近距離で、首から上に撃ち込んでやる。
俺は、本気で、相手を殺すつもりだった。
さっき、殺されかけて、覚悟を決めた。
俺史上、最大のマジギレだ。
殺りに来てんだろ?
いいぜ、来いよ。
「メグ! 逃げろ! 助けを呼びに走れ!」
目の前に、ガタイのいい男。
無表情、ビー玉みたいに感情の消えた眼。
ビビったフリで、油断させるのがベストだけど、そんな小細工も頭から、吹っ飛んでいた。
ソイツが軍手の拳を、固めた瞬間、僕は訓練どおりに、銃を抜き、ピタリとエイムした。
驚愕の表情に、思わず、口元を吊り上げる。
至近距離で、胸板に模擬弾を、叩き込まれた、オッサンは、血反吐を撒き散らせて、吹き飛んだ。
いいぞ、最高だ。
外すのが怖くて、とっさに、胸を狙ったけど、苦しみぬいて、死んでくれたら、何より。
「銃!? 聞いてへんぞ!」
2人目のハゲが喚いて、田んぼから、急いで上った。
車に駆け戻ろうとする、背中の真ん中に、ためらわず引き金を引く。
泥だらけでも、いい働きをしてくれる、M36。
轟音とともに、悲鳴を上げて仰け反り、頭からアスファルトに、突っ込んだ。
ツーダウン。
田んぼに浸かって、口から血を流し、力なく呻いている最初のオッサン。
トドメを刺してやりたい、衝動をこらえて振り返る。
「メグ!」
まばらな、街灯と、月明かり。
残りの一人、長髪が、ズボズボ、泥を蹴立てて、逃げるメグに迫っていくのを、照らしていた。
よろけながら、トートバッグを持って、必死で逃げる、メグを見て、頭が沸騰する。
「汚ェ手で、ソイツに触んな!」
咆えたものの、遠い。
残り1発、絶対に外せない。
半身で構える、ウィーバースタンスで、慎重に迫る。流行りじゃ無いけど、俺にはこの構えが、一番、性に合ってる。
長髪が、メグの腕を捉えて、引き寄せ、首に手を回した。
背筋が、冷たくなる。
ナイフで、顔に傷でもつけられたら……
「そのチャカ捨てろ! このガキの首折るぞ?」
良かった、素手だ!
「次の瞬間、アタマが吹き飛ぶぞ? 試すか、あ?」
俺は、ドスを利かせて咆えた。
一瞬の間に、刺しこむ。
「仲間、連れて、失せろ。追わない」
次の瞬間、男が、悲鳴を上げて、メグから離れた。
闇夜で火花を散らす、スタン・バトン。
トートバッグから、抜かれた、必殺の武器が、今度は眩い光を放ち、男の目を潰す。
間髪入れず、首筋に押し付けられ、男は、泥水を跳ね上げ、棒のように倒れた。
「メグ!」
肩で息をする、女優の卵に駆け寄る。
メグが、顔を上げ。
恐怖に顔を引きつらせた。
俺の方を見て。
一瞬のラグ、銃を構えて、振り向く。
夜空に響き渡る、銃声。
衝撃を受け、俺は吹き飛んだ。
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